ビジネスの世界では、外の世界に矢印を向けて課題を見つけ、解決することが一般的。でも、それだけが正解ではありません。自分ってどんな人?何に困っている?何しているときが楽しい?そんなことを真剣に考えていくと、新しい世界が見えてきます。
ビジネスの世界ではおなじみの「BtoC」「BtoB」「BtoBtoC」という言葉たち。最近では「BtoG」「DtoC」「OtoO」など、「to界」の新星たちも獅子奮迅の活躍を見せています。でもちょっと待ってください。何か決定的なピースが抜けていませんか?
それは「Me to Me」。ビジネスの矢印を外側に向けるだけではなく、たまにはクルッとひっくり返して自分に向けてみませんか? 自分が培ってきたスキルを、もっと自分の「生きる」に応用する。実はそんな「自分中心的」な仕事の進め方が、結果的に多くの人(We)の人生にも役立つことがあるんです。
Me to Me誕生のきっかけ
2013年1月25日。障がいのある息子が生まれたことをきっかけに福祉の世界に飛びこみました。そこで目にしたのは「自分の課題を、自分で解く」障害のある当事者や、その周辺の皆様の姿。
自分の就労環境を自分で整える。障害がある子どものためのデジタル遊具を自分で開発する。それは、究極の自問自答の姿。
もちろんそれは、自分たちで解決をしないと生活が成り立たないという悲しい現実ではありますが、憤りながら、時に涙をしながらも、自分たちの人生のために、自分のすべてを投じるその姿に衝撃を受けました。
なかでも影響を受けたのはオリィ研究所の吉藤オリィさんです。自身が10代のときに引きこもりを経験。一日中部屋のベッドに横たわり、部屋の天井を見上げる日々。そんなときに願っていたのが、「もうひとつ私の体があればいいのにな。そうすれば学校に行ってもらえるのに」ということだったそう。
そんな個人的な体験から生まれたのが分身ロボットのOriHime。スマホやPCから遠隔操作することができて、首や手を動かすことができる。自分が発した肉声を相手に伝えることができるし、相手の声も自分のところまで届く。
吉藤さんが“Me to Me”で開発したOriHimeは、いまは寝たきりの人に役立っています。OriHimeがあれば、自宅にいながら外出したり、働いたりすることだってできるんです。
世界ゆるスポーツ協会誕生
「何か自分起点で “Me to Me”事業を始められないか?」そんな思いから生まれたのが、2015年に設立した「世界ゆるスポーツ協会」。「スポーツ弱者を、世界からなくす」をミッションに、スポーツが苦手な方でも楽しめるスポーツをこれまで110競技以上開発してきました。
どうしてこの事業を始めたか? それは、私自身スポーツが苦手だったからです。体育の時間は地獄、いや拷問でした。12歳のときに「もう自分はスポーツを引退しよう」とアスリートでもないのに決別宣言。そしてスポーツコンプレックスを抱えたまま大人になったのですが、せっかくなのでこの弱さを起点に “Me to Me”してみたらどうなるんだろう? と興味が湧いたんです。
設立してから7年がたちましたが、いまでは私の暮らしにスポーツは欠かせません。月に100km近くを走る習慣もつきました。どうしてか? それは、ゆるスポーツを通じて多くの成功体験を得たからです。
「ハンドソープボール」という競技があります。特殊なスポーツ用ハンドソープを用いるハンドボールです。この競技で私は、ハンドボール元日本代表キャプテンの東俊介さんと対等に戦うことができました。ゆるスポーツはこれまで20万人以上の方に参加いただいて、エストニアや香港など、海外展開も次々進めています。
驚いたのが、私のようなスポーツが苦手な方が世界には大勢いるということ。スポーツ庁が発表している「スポーツ実施率」によると、日常的にスポーツをしている人は56%程度。つまり40%以上の人がスポーツをしていません。ゆるスポーツは、特にその“40%側”の方々から支持されています。
「生まれて初めてシュートを決めた」「自分もスポーツの場にいていいんだって思えた」。そんな声を聞くにつれ、「“Me to Me”で始めたことが、同じように悩む人のためにもなるんだ」という実感が湧きました。
自分企画書のすすめ
とはいえ、どうやって“Me to Me”に着手していいかわからない。そんなときにおすすめなのが「自分企画書」です。自分を深掘りし、自分の課題を可視化し、自分のためのコンセプトやアイデアへと導くための企画書です。私がおすすめする手法のひとつが「マイ・ベスト・喜怒哀楽」。人生で最も喜んだこと、怒ったこと、悲しかったこと、楽しかったことを書き出すと、そこには人生のリアルや自分の課題、琴線があります。この唯一無二の経験たちから、“Me to Me”を始めます。詳しくは拙著『マイノリティデザイン』にまとめています。
自己中心的はよくないといわれるけれど、あまりにも非自己中ではないかと感じています。もっと自分を中心にしてもいい。なぜならそれは必ず、あなた以外の“We”の力にもなるから。
本連載で発表しているすべてのコンセプトは、実際にビジネスに取り入れられるよう、講演や研修、ワークショップとしても提供しています。ご興味ある企業の方は、Forbes JAPAN編集部までお問い合わせください。
電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。
澤田智洋◎コピーライター、世界ゆるスポーツ協会代表理事。福祉領域におけるビジネスも多数プロデュースしている。著書に『ホメ出しの技術』『マイノリティデザイン』『ガチガチの世界をゆるめる』。