コロナ禍で遺体が見つからない...死後半年経過した風呂なし賃貸アパートの壮絶孤独死現場

コロナ禍で遺体が見つからない...死後半年経過した風呂なし賃貸アパートの壮絶孤独死現場

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/08
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今年2月、内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設けられた。政府は、新型コロナウイルス感染拡大のなかで深刻化する孤独・孤立問題に本格的に取り組む方針だ。

社会問題である「孤独死」だが、新型コロナによる社会不安や対人関係の変化により、さらに深刻化している。本記事では、コロナ禍における孤独死と、孤独死者と向き合う特殊清掃の現場を密着取材した。

前編はこちら:1DK高層マンションで孤独死、死後1ヶ月が経過した男性の部屋に「存在しなかった」もの

コロナ禍で遺体が見つかりづらくなっている

冬の寒さが和らいで、春の兆しが感じられる3月上旬――。10年以上特殊清掃に代表される原状回復工事に従事してきた武蔵シンクタンクの塩田卓也さんは、トラックを走らせながら今日も特殊清掃現場に向かっていた。

塩田さんが手掛けるのは、他の業者も音を上げるほどの深刻な状態に陥った物件が多い。軒下まで体液が伝って土まで浸透していたり、マンションの下の階まで体液が突き抜けた物件もある。そのほとんどが孤立死だ。元大工の塩田さんにとって、コロナ禍になって、人と人との接触が制限される状況で、これまで以上に事態は深刻になりつつあるという実感がある。コロナ禍に突入してからというもの、長期間に渡り遺体が見つかりづらくなっているからだ。塩田さんは、そんな現状を誰よりも危惧していた。

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特殊清掃を行う塩田卓也さん

塩田さんは、この日、死後半年以上、遺体が放置された築40年以上の風呂なし賃貸アパートに突入しようとしていた。亡くなったのは70代の男性で、布団の上にうずくまるようにして亡くなっていたという。防護服を身にまとい、匂いやハエを防御するための専用のマスクをかけ、作業にかかる。

「管理会社に聞いたのですが、警察でも、長期間遺体が放置されすぎて、死因もわからないということでした。死亡時期も不明で、ただ遺体の状況から半年以上経っているのは判明したみたいです。それだけ、故人様が人との交流がなかったということだと思う」

家賃は自動引き落としで、近隣住民との付き合いもほぼなかった。臭いだけが、男性の死を知らせる手段だったが、それでも、半年以上の時が過ぎていた。

室内はごみ屋敷で、いたるところにビニールの袋が散乱している。そして、数十年は使ったであろう布団は、茶色く変色して、凄まじい異臭を放ち湿っていた。長年に渡って使い続けたせいか、布団は破れて、所々綿が出て、部屋中に散らばっている。このボロボロの布団で、毎日男性は寝起きしていたのだ。

奥深くまで浸透した体液が示すもの

塩田さんが、物件の状況をチェックしていく。

「これだと、下の建材まで体液がいっていますね。今のフローリングってとても良い素材でできているものが多いんです。だからなかなか、下まで水を通さないようにできている。でも、そんな素材ですら体液が通ったので、相当な体液量だったと思います。この季節は匂いもしないから。逆に深刻化するんですよ」

奥深くまで浸透した体液は、すなわち、それは、長期間に渡って遺体が発見されなかったということの証でもある。長期間遺体が放置されれば、一旦体液自体は乾いて表面上の臭いは和らぐが、時を経て建材の奥深くまで、じわじわと浸透してしまう。そして、処理が甘いと再び夏場などに、建材から匂いがぶり返す。表面上は壁紙やリフォームしても、「どこからか、あれ、変なにおいがする」という事態に陥るのだ。

だから塩田さんは、建材の奥深くに浸透した体液を見定め、どの層まで体液がいっているのかその都度確認し、消毒したり、建材の一部を切り落としたり、そこを再び修復したりする。徹底的に匂いを排除しなければならない。当然ながらここまでやらない業者もいる。しかし、後から入る住民のためにも、塩田さんはプロとして、着々と作業を進めていく。

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しかし、毎回、心を痛めている。自分たちが活躍する世の中でないほうがいいと感じているからだ。

「確実にわかってるのは、孤独です。本人が孤独にむしばまれていたということ。僕の手掛ける現場では、それを感じることがとても多いんです。この方は、かなりの不摂生ですよね。食事は全部コンビニで、鍋もないし、冷蔵庫もないし、洗濯機もない。ほら、ゴキブリの糞もすごいでしょ。こんな過酷な環境の中で、人との接点もなく、男性は徐々に身を持ち崩して亡くなったんだと思う。カーテンもずっと閉めっぱなし。完全に人との関係を遮断していたんだと思います」

塩田さんはこんなごみの中からも、遺品を探そうとしていた。社会から孤立していたとはいえ、彼にも親族がいるはずだ。しかし、いくら探しても思い出の品やアルバム、書類や手紙の類はなく、外部の人との接触を感じさせるものは全く出てこなかった。近隣住民の態度もそっけないもので、さっさと作業を終わらせてくれと、迷惑そうな顔をしている。

エアコンはかなりの期間、壊れていて、使えなかった。夏の過酷な暑さも、冬の凍えるような寒さも、このカーテンに閉ざされた部屋で、男性は一人過酷な環境に耐えていたのだろうか。ボロボロの布団にくるまれて――。

そう思うと、居たたまれない気持ちになる。そこからは、明らかに誰にも助けを求められずに、ただ命をつなぐだけで精一杯だったという男性の過酷な生活が垣間見える。

男性の死後、塩田さんらの仕事ぶりによって、部屋はまるでなにもなかったかのように蘇った。いつもながら丁寧な仕事ぶりに感心する一方で、私の胸は、複雑な思いがよぎり、ざわざわする。

1000万人が孤立状態にある

政府は今年の2月19日、孤独、孤立担当大臣が内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を設置、坂本哲志1億総活躍担当相が兼務するという。コロナ禍において、いよいよ孤独、孤立の問題が顕在化してきたということの現れだと思う。

しかし、孤独、孤立を巡っては、コロナ禍以前から、これまでもじわじわと日本社会を蝕んでいたのは間違いない。私の試算によると、わが国では1000万人が孤立状態にあり、現に原状回復を手掛けるこういった特殊清掃業者の数は、うなぎのぼりとなっている。

2018年5月14日付の毎日新聞によると、5000社以上が加入している特殊清掃の業界団体である「事件現場特殊清掃センター」によると、民間資格である「事件現場特殊清掃士」の認定制度が始まった2013年から、その数は5年で15倍に膨らんでいる。これは、遺体腐敗するまで発見されず、放置される孤立死の件数が増え続けていることと比例している。

一度社会から脱落したり、つまづくと、一気に人間関係から孤立し、立ち上がれず崩れ落ちてしまう。そして遺体は長期化発見されない。その八割は前述の男性のようなごみ屋敷、不摂生などのセルフネグレクト(自己放任)だ。そんな社会が現実として、水面下で私たちのもとにひたひたと押し寄せている。

『老人に冷たい国・日本 【貧困と社会的孤立の現実】』(光文社新書)の著者である河合克義さんは、本書でこう書いている。

【不安定な仕事をしてきた人の高齢期の貧困と社会的孤立、しかし、生活態度は控えめで困難な状況にあっても助けてと言わない人、そうした人を無視した政策の展開が、孤立死・餓死を生み出してきた。】

そして、河合さんは、わが国で高齢者の貧困と孤立問題がこれほど深刻なのは、個人責任の範疇を超えた社会的背景を持つと分析している。

現役世代の深刻な社会的孤立

私は長年の孤独死の取材を通じて、高齢者だけでなく、現役世代にもこの状況が当てはまると感じている。

私が訪れる孤立死の現場は、50代や40代の衰弱死や突然死が少なくないからだ。その多くが、河合さんのおっしゃる属性と似通っていて、誰にも助けを求められずに、若くして命を落とし、遺体がドロドロに溶けてしまうほどに発見が遅れる。

日本少額短期保険協会が発表した第五回孤独死現状レポートによると、孤独死の平均年齢は、61歳と若い。そして、遺体は二週間以上に渡って遺体が発見されないという現状があらわになる。その背景には高齢者だけでなく、現役世代の深刻な社会的孤立がある。

一人で亡くなることが悪いわけではない。家の中でも外でも、人が死ぬ可能性はいくらでもあるし、人は最終的には誰もが一人で死ぬものだ。しかし、一度社会からフェードアウトしたが最後、孤立を強いられ、セルフネグレクトに陥り、じわじわと蛇の生殺しのように命を繋ぐだけの生活で、若くして命を終えざるおえない社会は明らかにいびつだ。死の現場は、社会を映す鏡なのである。

孤独、孤立を巡って、政府がどれだけ本気に取り組むのか、まだ不明で未知数ではある。鳴り物入りでお飾りに終わる可能性も十分にあろう。

しかし、8050問題やロスジェネの高齢化などの問題が山積する現代において、社会的孤立を巡る問題が一刻の猶予もないほどに日本が深刻な状況に陥っているのは、「死をみつめる」現場の取材者として言える確かなことだ。コロナ禍の日本において、国の施策としても、そして、私たち一人一人の問題として、正面から向き合うべきときにきている、そう感じてやまないのである。

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