漫画家ヤマザキマリさん「ペルソナ的“いい夫婦”はもう卒業すべき」【パートナーとの新しい形、私はこう考える】

漫画家ヤマザキマリさん「ペルソナ的“いい夫婦”はもう卒業すべき」【パートナーとの新しい形、私はこう考える】

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  • 更新日:2022/06/26

結婚20年の漫画家ヤマザキマリさん。イタリア人の夫とは必要なときに会うスタイルだが、コロナ禍でほとんど会えていないという。世界各地で生活してきたヤマザキマリさんが考えるパートナーとのあり方とは?

結婚20年。イタリア人の夫とは必要なときに会うスタイル。コロナ禍でほとんど会えていない。

外からの評価が気になる自分と向き合ってみる

「日本だと、結婚したら最後まで添い遂げる、といった価値観がいまだに根づいている。離婚するかたも多いし、再婚するかたもいる。多様な結婚の形がある、といいながら根底には、脈々と“結婚とはこうあるべき”といったものが存在している。予定調和でないものを嫌う傾向がありますよね」

イタリア、ポルトガル、アメリカ……と世界各地で生活してきたヤマザキマリさんは、さまざまな地域で多様なパートナーシップを見てきたという。ブラジルやキューバでは、8回も9回も結婚を繰り返してきた人たちもいた。
「フランスのミッテラン元大統領は、不倫をしていましたが、それを批判対象として過剰に反応するような様子はありませんでした。しかし、日本では、大統領の不倫と執拗にたたき、有名人の浮気や不倫にも厳しくジャッジメントします。他者の問題に、なぜそんなにまで熱心になれるかが不思議でなりません」

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「別れや離婚は、人生の汚点じゃない。“一緒にいなくてはならない”なんてルールはないんです」

結婚や男女の関係は「こうあるべき」と縛られ、「自己の幸せ」よりも「外からの評価」に重きを置いてしまう日本のあり方に、ヤマザキさんは以前から疑問をもっていたという。特に、『ヤマザキマリの人生談義』という新聞連載を始めてからそのことを感じることが増えたという。
「不満をもっている夫婦がとても多い。しかも、みんなパートナーに本音を話せず、我慢している。浮気をしていることが不満なのに、離婚は体裁が悪いと我慢する。自分たちのためよりも、世間や周囲を安心させるために関係を維持する、ペルソナ的夫婦関係とでもいうのでしょうか。それもまたひとつの夫婦の形だと思うのですが、ただ仮面と本質のバランスをうまく保てなくなったときには、精神面への負担も大きくなるでしょう」

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日本で「卒婚」など多様なパートナーとの形がいわれだしたのは、過渡期の表れなのかも、とヤマザキさん。でも、「卒婚」「週末婚」「事実婚」といった呼び名をつけてカテゴリーに分けることに、違和感があるともいう。
「海外では、そんなふうに呼び名で分けたりしません。みんな、自分たちの好きなようにパートナーと暮らすという価値観です。そんなこといったら、うちはどうなるの?と思います。夫はイタリアで、息子はハワイ。そして、私は東京。コロナ禍になってから、夫にはほとんど会っていません。でも夫婦であることと物理的距離は私にはあまり関係がないのでこれでいいんです」

ヤマザキさんの家族は世界各地で暮らし、ヤマザキさんが日本で仕事があるときには別々に、そしてまたどこかの街で集合し一緒に暮らし、ということを繰り返してきた。コロナ禍で2年半という長い期間、離れることになったのは想定外。でも、夫婦間で思わぬ発見もあったという。
「夫は基本的には一緒に暮らしたい人なんですね。イタリア人は家族はやはりできるだけ常に一緒にいるべきだと考える人種です。夫もそうでした。でも、コロナ禍に日本で仕事の増えた私を見て『君は日本にいたほうが仕事を楽しそうにやっている』といわれました。イタリアに帰ってきてほしいというのは、自分の勝手にすぎないと夫は感じたようで、夫婦はやはりお互いの生き方へのリスペクトがなにより大事なのではないかという話をしました」

「孤独への恐れはあるけれど、結局最後はひとり。試しに一回、ひとり旅に出かけてみるのもいいのでは」

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大事なのはパートナーに依存しない「ひとり力」

ヤマザキさんがこういった夫婦の形を営むことができるのは、経済的にも精神的にも自立しているという面が大きい。ヤマザキさん自身も日本の婚姻のあり方の背景に女性の雇用問題や自立しにくい社会構図を指摘する。
「そうなんですよね、私がこうやって暮らせるのも仕事があって収入があるからです。夫に経済的に依存しなくても生きていけるからこそ選択肢もある。でも、日本の場合、女性と男性の賃金格差が大きい。さらに、出産などでいったん離職すれば、再雇用もむずかしい。先進国なのに、やっぱりジェンダーギャップは厳しい面が多い。でも、価値観は多様化しているわけです。うちの息子はいわゆる『アセクシャル』の部類だと思うのですが、恋愛や結婚にも関心がないし、そういう話をするのも嫌がっています。女性の結婚が『片づく』という言葉で形容されていた戦前戦後からこれだけ時代は進んできたのに、いまだにその名残はあるように感じます」

どこかで女性たちも勇気を出して、この形を変えていかないと、この負の連鎖は永遠に続いてしまう。金銭的にすぐに自立はできなくても、「ひとり」を自覚し楽しむ力を養うことは、パートナーシップにもいい影響を及ぼすはずと、助言してくれた。
「年をとってひとりになるのがいやだから結婚したい、というかたがいます。否定はしませんが、どっちが先に病気になるかなんてわかりません。私も現在、夫とも息子とも離れ、ひとり暮らしです。寂しいと感じることももちろんあります。でも、人間は最終的には皆ひとりです。だから、孤独感とは生きているうちから仲よくしておく必要があるのです。ひとりで楽しめるものを増やすとパートナーに依存する気持ちが減り、関係性の選択肢も増えるはずです。まずは、近場でもいいので、ひとりで温泉に行く、旅をするといったことから始めてみると、新しい自分を発見できると思います」

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漫画家 ヤマザキマリさん

漫画家 ヤマザキマリさん

’67年、東京都生まれ。’84年にイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。’10年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞などを受賞。漫画作品に『オリンピア・キュクロス』『プリニウス』(とり・みきと共著)、エッセーに『ムスコ物語』など。新刊は『地球、この複雑なる惑星に暮らすこと』(文藝春秋)。

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『ヤマザキマリの人生談義 悩みは一日にして成らず』

毎日新聞で連載中の人生相談が一冊に。モラハラの彼、浮気をした夫が許せないなど、恋愛・夫婦関係に関する悩みにもヤマザキさんらしい切り口でメッタ切り。腑に落ちるスッキリした読後感。毎日新聞出版 ¥1,540

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撮影/藤澤由加 ヘア&メイク/田光一恵(TRUE) 取材・原文/伊藤まなび イラスト/オカダミカ ※エクラ2022年7月号掲載

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