Psychic VR Lab取締役COO 事業構想大学院大学教授 渡邊信彦

Psychic VR Lab取締役COO 事業構想大学院大学教授 渡邊信彦

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  • 更新日:2020/11/20

【新宿発】週刊BCNの「視点」欄に寄稿いただいている渡邊さんのキャリアは、本文や略歴欄に記した以外にもいろいろとある。政府や自治体、民間部門などからも引く手あまたなのだ。お話をうかがっていると、組織やプロジェクトの立ち上げメンバーとして参画し、事業が軌道に乗るとまた別のステージに移るという形が多いようだ。そのスタンスは、どこかかっこいい。「変化が大好き」と自らおっしゃるとおり、その視点は常に時代の少し先に置かれているのだ。

(本紙主幹・奥田喜久男)

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2020.10.23/東京都新宿区のPsychic VR Labにて

コロナ禍の出現により 価値観の多様化が加速していく

奥田 渡邊さんは、Psychic VR LabでVR(バーチャルリアリティ)やMR(ミックスリアリティ)の開発に携わる一方、事業構想大学院大学で教鞭をとられるなど、多彩な活動をされています。そこに共通してあるのは「未来」という概念だと思うのですが、このコロナ禍で今後世の中はどう変わっていくのでしょうか。渡邊 ひとつ挙げられるのは「みんなが同じではない」と気づいたことですね。言い換えれば、価値観の多様化がコロナ禍によって進んだといえます。奥田 でも、仮にコロナ禍がなくても、現代社会では価値観の多様化は進んでいるのではないでしょうか。渡邊 おっしゃる通りですね。ただ、この状況により5年から10年、そのスピードは増したといえるでしょう。たとえば、コロナ禍により多くの人が集まって多数決で物事を決める機会が少なくなっています。そのため、これまでは多数決に追従していた人も、これからは自分自身で考えて意思決定する必要に迫られます。つまり、多数決の世界から、小さなコミュニティで同じ価値観を持った人が集まって物事を進めていく世界への移行、価値の分散化が広がると思われます。奥田 それは、どんなことから実感されましたか。渡邊 このPsychic VR Labは2016年に立ち上げた会社ですが、設立当初、VRは見向きもされないテクノロジーで、私たちも2030年頃の普及を目指して開発を進めていました。盛り上がるのは、まだ先のことだとみんなが考えていたわけです。だから多くの人は気にとめてくれなかった。ところが、コロナ禍によって多くの人が集まる展示会などがリアル空間で開催できなくなると、VRを使ってみたいという問い合わせが殺到しました。これは、背後に“崖”ができてしまったことにより、これまで、どちらかというとVRに否定的だった個人が、VRでできることとできないことを検討し、「とりあえず、これを使ってやれるところまでやってみよう」というところまで進んだといえると思います。奥田 大多数の意見によって動くのではなく、自ら考える必要に迫られたと。渡邊 そうですね。コロナ禍をきっかけに、ある程度自分で考えて意思決定していかないと、世の中の動きに置いていかれるという感覚も広まったのではないでしょうか。社の意思決定ではないんですが、という枕詞も多く聞かれました。

同じ価値観を持つ人が集まれば 目の前の障壁を突き崩せる

奥田 「多数決」と「小さなコミュニティ」ということについて、もう少し深掘りしていただけますか。渡邊 日中戦争下の1940年、日本は開催が決まっていた東京五輪を辞退しましたが、当時の力は国家を主体とした武力であり、それが国民の価値観でもありました。そして、戦後の1964年に東京五輪が開催されましたが、高度経済成長の時代、力は資本(お金)に変わり、その主体は国から企業に移りました。ここまでは「多数決」の時代といっていいでしょう。ところが、今回延期された2020年東京五輪の時代における価値観は「共感」であると私は考えています。資本力とは異なる価値観を共有した人たちが集まり、行動を起こしていく。まさに個人や小さなコミュニティがその主体となっていくわけです。主体が、国、企業、コミュニティとどんどん小さくなることで、多数決から価値の分散化への移行が起こっているというイメージですね。奥田 そうした動きも新型コロナの蔓延で加速した、と。渡邊 そうですね。VRの例のようにテクノロジーの進化も加速するでしょうし、SDGsなどの展開も一気に加速していくことでしょう。奥田 価値観を共有した人が集まる小さなコミュニティには、どんなメリットがあるのでしょうか。渡邊 Psychic VR Labを立ち上げたとき、見向きもされなかったとお話ししましたが、実際、資金調達にあたって、証券会社からは相手にされなかったんです。このテクノロジーの可能性を信じた人だけが集まり、資金の出し手も私たちの話を信じてくれた個人投資家だけでした。でも、こうした同じ価値観を持つ人で構成されたコミュニティは、その相乗効果によって物事がどんどん前に進みます。結果はどうあれ、目の前の障壁を突き崩す力を持つことは間違いないですね。奥田 いま起こっている変化が加速することで、それがプラスに作用する人とマイナスに作用する人がいるように思いますが、その点についてはどうお考えですか。渡邊 私自身にとっては、プラスに作用するものだと思っています。それはなぜかというと、変化そのものが大好きであり、変化に対して自分を適応させたり、その際に新しい価値を生むことが楽しくワクワクしたりするからです。そうしたタイプの人にとってはハッピーだと思いますね。それに対して、いまの地位や生活を崩したくないと守りに入っているタイプの人は、変化に対応しないことで、いま持っているものの価値を失うことになります。ですから、この変化は二極化をもたらすことになるでしょう。奥田 そうした変化を好む渡邊さんの気質は、もって生まれたものですか。渡邊 いいえ、後天的なものですね。もともとはすごく引っ込み思案な性格でした。大学は理系でバイオテクノロジーを学んだのですが、新卒で入ったSIer(電通国際情報サービス)で営業の仕事をとても自由にやらせてもらい、そこで学んだことがいまにつながっているのだと思います。奥田 仕事を通じて、チャレンジングなタイプに変わっていったわけですね。渡邊 でも、学生時代に「いぶし銀」タイプだと言われたことが二度もあるんですよ。奥田 いぶし銀って、渋くてかっこいいじゃないですか。それは誰に言われたのですか。渡邊 一回目は占い師で、二回目はお世話になっていたある企業の社長です。おまえは、金(トップ)ではないからそれを支える側に回るべきだと。新しいことにどんどん取り組みたいのにそんなことをいわれて、当時はちょっとショックでしたね。奥田 なるほど。渡邊 でも、会社に入ってから、その意味がようやくわかりました。組織には、突き破る人とそれをきちんと積み上げて実にしていく人の両方が必要だと認識したのです。それからは、自分の役割というものを意識するようになりました。(つづく)

リトルジャマープロ

今から15年ほど前にバンダイから発売されたジャズミュージシャンのロボット。特別な仕様のカセットにはロボットの動作データとMIDIデータが収められており、クオリティの高い音質とリアルなミュージシャンの動きを再現する。残念ながら現在は販売されていないが、モノづくりに対するこだわりと執念が伝わってくると渡邊さんは話してくれた。

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心に響く人生の匠たち「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)

<1000分の第271回(上)>※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

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