またも厚労省! 接触アプリ不具合が明らかにした日本ITの深い闇

またも厚労省! 接触アプリ不具合が明らかにした日本ITの深い闇

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/02/21
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不具合が放置されていた接触確認アプリは、随意契約で発注されていた。そして、さらに下請けに発注されていた。こうなると、責任の所在が曖昧になる。

多層下請け構造では、途中で中抜きが行なわれる結果、IT労働者が低賃金になる。デジタル庁の最重要の役割は、こうした業界構造を改革し、世界に向けて開かれたIT産業を作ることだ。

なんと不具合、4ヵ月放置

接触確認アプリ「COCOA(ココア)」の不具合が4ヵ月間放置されていた。約2500万人に上るCOCOAの利用者のうち3割にあたる772万人のAndroid版利用者について、陽性者と濃厚接触した場合でも「接触なし」と表示されていた。

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厚生労働省HPより

「通知が来ないので安心」と思っていた人には、ショックだ。国民の命に直接かかわる仕組みについて、4ヵ月も不具合が放置されていたというのは、信じられないような大問題だ。

2020年9月6日の「厚生労働省のITシステムは、なぜこうも不具合が多いのか?」で、COCOA、HER-SYS(ハーシス)、雇用調整助成金申請など、厚生労働省のシステムがつぎつぎに問題を起こしたことを述べた。

問題は終わっていなかった。「またか」ということになる。

実際の作業を担当するのは下請け

これまで、日本の官庁のIT対応にさまざまな問題があることが指摘されていた。とくに、発注体制だ。今回の問題で、改めてそのあり方が問題だとわかった。

厚生労働省の資料によると、COCOAについては、厚生労働省からパーソルプロセス&テクノロジー株式会社に開発・運用を委託し、同社からエムティーアイ(運用、保守開発、カスタマーサポート)、日本マイクロソフト(PMO支援、技術支援)、FIXER(クラウド監視)に再委託した。

新聞報道などによると、公募して選ぶ余裕がなかったので、HER-SYSを委託していたパーソルプロセス&テクノロジーに、契約を追加する形で随意契約したという。

実際のプログラム作成は、再委託先が行なったようだ。ここに見られるのは、典型的な多重下請けシステムだ。

下請けが増えると責任が曖昧に

建設業界が下請け構造であることはよく知られている。実は、IT業界もそっくりなのだ。

建設業の場合にも、下請け構造には様々な問題があることが指摘されており、丸投げの下請け(一括下請け)は、公式には禁止されている。

IT産業の場合には、建設業界の場合よりももっと問題が多い。なぜなら、建設事業のように、仕事が終わったら終わりというわけではなく、バグを何度も修正することが必要になるからだ。

今回の事件に関しては、昨年9月末に下請けのアプリ開発会社がアプリを改修した際にミスがあり、不具合が発生した。

そして、昨年11月に、プログラミング技術者が集まるサイトで、プログラムミスが指摘されていた。しかし、今年に入るまで受託業者は実際の端末で動作確認しておらず、発見が遅れたという。

下請けが増えると責任が曖昧になる。今回の事件でも、責任の所在が曖昧になっている。

新聞報道によると、「最終的な責任は厚労省にあるが、不具合を確認するのは委託先業者の責任だ」と厚生労働省は言っている。これでは、どこに責任があるのか、分からない。

実態がどうだったのかはいまだに明らかでないが、厚労省は丸投げ状態の委託で、プログラム開発がどのように行なわれているかも正確には把握していなかったのではないだろうか? ましてや、バグの修正が適切に行なわれていたとは思えない。

今回の問題に関して、責任の所在が契約上どうなっていたかははっきりしないが、事件の重大性に鑑み、明らかにすべきだ。

このままではデジタル庁が利権構造の頂点になるだけ

政府は、厚労省にはデジタル技術に精通する人材が少ないとして、接触アプリの管轄を換えるようだ。

とりあえずは内閣官房のIT総合戦略室に移行させ、9月以降はデジタル庁に移管させる。 しかし、それだけでいまの日本が直面している問題を解決できるとは思えない。

今回のココア事件に関して、仮に厚労省にデジタル技術に精通する人材がいたとしても、現在のような多層下請けシステムでは、状況をコントロールできたかどうかわからない。

下請けは元請けから仕事を依頼されているのであって、その雇い主は最初の発注者ではない。だから、発注者から指示を出されても、それに従うことはできないからだ。

したがって デジタル庁に仕事を集中させても、IT業界の構造が現在のままでは、デジタル庁が多重下請け構造の頂点に立って、新しい利権構造を作ることにしかならない危険がある。

オープンな市場を作らないとIT人材は育たない

日本でデジタル化を進めるには、現在のIT業界の下受け構造を抜本的に改革することが必要だ。そして、もっとオープンな市場を作る必要がある。

多層下請け構造の場合には、委託先は競争的なプロセスで決まるのではなく、従来からの取引履歴や人的コネクション等で決まる場合が多いだろう(上で述べたように、今回パーソルプロセス&テクノロジーが選ばれたのも、ハーシスの委託先だったからだ)。

したがって、その事業に最も適したな委託先が必ずしも選ばれるわけではない。また、中間業者は実体的な仕事をするのでなく、単なる仲介者になる場合も多い。

実際に仕事をするエンジニアは、最下層のレベルにいる。途中で中抜きが行われる結果、最初の委託費よりもはるかに少額の金額で仕事をする。こうして、日本のIT人材は3K職場に甘んじざるを得ない。

IT人材が不足しているといわれる、そして人材育成のための研修がなされる。人材育成は確かに重要だが、今のIT業界の構造のままでは、低賃金労働者を大量に作り出すことになりかねない。

世界に向かって開かれた雇用市場を作れるか?

日本のIT業界を改革できるかどうかの試金石は、発注対象を日本国内だけに限るのではなく、広く世界に拡大できるかどうかだ。

原理的に言えば、アプリ開発などIT関係の業務は、公共事業よりもっと競争的なマーケットで、優秀な受け手を探し出すことができる。しかも、発注先を、日本国内に限らず、世界に広げることができる。

日本では言葉の壁があるために、これまでこうしたことが行なわれていなかった。しかし、アメリカとインドの間では20年以上前から行われていることだ。

最近では、バングラデシュやベトナムで、ITアウトソーシングで若者の雇用を創出するためのIT教育が推進されている。こうした人材を活用することができれば、日本のIT産業は大きく変わるだろう。

「国境を越えた在宅勤務」で海外IT人材を活用

これまで、IT関係の海外人材の活用は、彼らを日本に招くことによって行われてきた。しかし、これを進めるには、様々な障害がある。

まず第一に、就労ビザを獲得する必要がある。また住居等の手配もある。

さらに、日本に呼べるのは、継続して仕事がある場合だ。単発的な仕事について海外人材を日本に招聘するのは難しい

こうしたこともあって、海外IT人材の活用は十分には進んでいない。

ところがこれについて、新しい可能性が開けつつある。それは、「オンライン・アウトソーシング」である。

外国人が自国に住んだままでも、オンラインによって作業が可能な時代になっている。つまり、「国境を越えた在宅勤務」が可能になっているのだ。

IT関係については、このようなことはすでに広範囲に行われている。ひとまとまりの仕事としてアウトソースしやすいからだ。

事前のインタビューや作業途中の打ち合わせも、ビデオ会議等によって、今までよりずっとも簡単に行なえるようになっている。

「発注先が世界に拡大すれば、低賃金労働者が入ってきて、日本のIT技術者の賃金が開発途上国並みに下がってしまう」との意見があるかもしれない。

しかし、そうしたことにはならないだろう。実際、欧米諸国はオンラインのアウトソーシングをきわめて広範囲に使っている。それなしでは経済が成り立たないような状態にさえなっている。

そうだからといって、自国民から優秀なIT人材が消えたわけではない。むしろ逆であって、高度な仕事を行なうIT人材が輩出している。このように、自国民人材と海外人材の分担が可能だ。

日本は、これまで言葉の壁に守られて、特異なIT産業の構造を作り上げてきた。これは、日本のITが世界に遅れを取った最大の原因だ。デジタル庁が、新しいIT産業を作ることを望みたい。

これこそが、デジタル庁が果たすべき最も重要な仕事だ。

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