中国アニメ『羅小黒戦記』から浮かぶ人間の業 『ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点

中国アニメ『羅小黒戦記』から浮かぶ人間の業 『ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点

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  • 更新日:2021/01/15
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『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』。

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花澤香菜や宮野真守、櫻井孝宏など人気声優が出演し、2020年11月の公開直後から話題を呼んだ中国発の長編アニメーション映画だ。

映画を見た人からは、スタジオジブリ作品である『平成狸合戦ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点が指摘する声が相次いだ。

本稿では、スタジオジブリ2作品と『羅小黒戦記』に共通して描かれているテーマを引き合いに、そこから見えてくる作品に込められたメッセージを考察していく。

文:安藤エヌ※本レビューにはアニメ映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』のネタバレが含まれます。

リピーター続出の中国発劇場アニメ『羅小黒戦記』

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『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』

『羅小黒戦記』は中国の動画サイト・bilibiliに投稿されたWebアニメをもとに制作された長編アニメーション映画。中国の漫画家/アニメ監督であるMTJJ氏がWebアニメのときから監督をつとめている。

本国で上映されたのち、2019年9月より日本でも中国語音声字幕版が公開。上映館は限られていたものの、魅力的なキャラクターたちやハイクオリティなアニメーションが口コミで広がり、話題になった。

その後、2020年11月7日に前述の人気声優が多数出演した日本語吹き替え版『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』として公開。一気にファン層を広げ、リピーターも続出するほどの人気を集めている。

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黒猫の妖精・小黒(シャオヘイ)

主人公は、妖精と人間が共存する世界で故郷の森を追われさまよう黒猫の小黒(シャオヘイ)。

物語の鍵を握るのが、人間でありながら妖精の立場に力を貸す無限(ムゲン)と、自分たちの生きる自然を破壊した人間を憎み故郷を奪い返そうとする妖精・風息(フーシー)だ。

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人間でありながら妖精たちの集う館に所属する執行人・無限(ムゲン)

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植物を操る妖精。心の奥底には譲ることのできない思いを秘めている風息(フーシー)

彼らとの出会いや交流を通して、幼い小黒の心の成長と選択の余地をのぞかせ、異なる2つの立場の共存を描いている。

監督のMTJJ氏は中国メディアのインタビューで、日本のアニメーションからの影響を指摘されており(外部リンク)、実際、Webアニメ版には、スタジオジブリ作品『ハウルの動く城』のハウルのようなキャラクターが登場するなど、その影響を彷彿とさせる。

自然界の存在「妖精」が抱く人への思い

『羅小黒戦記』『平成狸合戦ぽんぽこ』『もののけ姫』──まずは、3つの作品における「自然を破壊する人間」に対する「自然界の存在」の反応について考えてみたい。

『羅小黒戦記』においては、人間による自然破壊の被害を被っているのは妖精たちだ。

作中には「館」という妖精たちの組織・コミュニティが存在し、妖精たちは人間たちと共存している反面、妖精だと気づかれてはならないというルールがある。

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妖精を庇護する「館」/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより

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館に所属する妖精/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより

このルールに従っている妖精たちが大半だと思われるが、映画に登場するキーパーソンである風息はルールに抵抗し、失った故郷を取り戻すため人間とは共存できないという意思をあらわにする。

共存している妖精たちの中にも人間のことが好きな妖精もいれば嫌いな妖精もいる。それぞれの思いに従って生きようとしており、あくまで個人同士として、自由な考えを抱いている。

また、映画から400年前の世界を描いた公式スピンオフ漫画『藍渓鎮』では、妖精であり、藍渓という町を築き戦火で住処を失った者たちを住まわせている老君(ロウグン)というキャラクターが登場する。

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老君(ロウグン)/画像は『羅小黒戦記』公式Weiboより

彼は、妖精・人間・動物と、どの生命に対しても優劣を付けず接し、それが自身の考え方であるとも主張している。

『藍渓鎮』の時代から『羅小黒戦記』の時代に至るまで、妖精の中では「人間は自身らと同じ立場であり、本来ならば共存しあえる」という考えが息づいているようだ。

人間に戦いを挑む『ぽんぽこ』『もののけ姫』

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人間たちへ戦いを挑む乙事主/『もののけ姫』より

対して『平成狸合戦ぽんぽこ』『もののけ姫』では、それぞれ森に住むタヌキや猪神(乙事主)が住処である森を人間に荒らされ、戦うことで自然を取り戻そうとする描写が見られる。

特に『平成狸合戦ぽんぽこ』ではタヌキたちが集会を開き、人間たちを追い払うための作戦について議論を交わす。

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タヌキたちの集会/『平成狸合戦ぽんぽこ』より

人間への報復に対して「穏健派」「強硬派」が存在し、まるで人間の議会と同じような構図をなしており、こちらでも人間に対して各々に異なった考えを持っていることがわかる。

『平成狸合戦ぽんぽこ』と『羅小黒戦記』には、共通して「近代的な自然開発」と「人間社会に溶け込み暮らすタヌキ・妖精」という描写が存在する。

これらは、それぞれの作品に描かれた「自然界側が人間の開発に抵抗する」という行動に大儀を与えている。

「神と崇める自然を破壊する人間」という共通点

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開発でタヌキの住処が奪われる描写/『平成狸合戦ぽんぽこ』より

そして、3作に共通して描かれているのが「人間による自然破壊」だ。『平成狸合戦ぽんぽこ』ではニュータウン開発で、『もののけ姫』では鉄をつくるために、それぞれ自然を破壊していた。

両作が公開された1990年代はバブル景気が終焉を迎えた一方で、環境問題のグローバル化が進んだ時期でもある。

1992年には、当時国連に加盟していたほぼすべての約180カ国が参加した「地球サミット」(環境と開発に関する国際会議)が開催されている。

『羅小黒戦記』においても、劇中で舞台となる龍游という街は実際の都市だ。嘉興や中国のシリコンバレーとも呼ばれる杭州市と同じ浙江省に位置し、経済成長の渦中にある。

同時に、飛躍的な経済成長を遂げている中国は、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の世界最大の排出国。

2020年9月の国連総会で習近平国家主席が「2060年までにCO2排出量を実質ゼロにする」と演説したことが報じられるなど、世界的な環境問題においてその動向は重要視されている(外部リンク)。

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シシ神/『もののけ姫』より

加えて、自然を神とみなす表現も3作に共通する点だろう。『もののけ姫』では「シシ神」ら自然神の存在、『平成狸合戦ぽんぽこ』ではタヌキらを神として祀った堂の登場、『羅小黒戦記』では森に生きる妖精をかつて人は祀り上げていた、という描写がある。

「自然を神と崇めることでその土地の安寧を祈っていた」ことが、『平成狸合戦ぽんぽこ』『羅小黒戦記』では共通して描かれ、『もののけ姫』ではシシ神のいる森は不可侵領域として人々の畏怖の対象として、村を興すための障害となっている描写が見られる。

人間たちは神の住まう森を切り開き、自らの手でコンクリートや鉄筋でつくられた人工物を建設する。そうして自然界の存在の怒りを買い、結果として大いなる自然の猛威に晒されることとなるのだ。

生きる中で人に触れ、人を憎むサンと風息

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犬神に育てられたサン/『もののけ姫』より

今度は個々のキャラクターに焦点を当てて考えてみたい。

『もののけ姫』に登場する犬神(山犬)に育てられた娘・サンは、人に捨てられ、山で生きてきた。ゆえに、人間にもなれず獣にもなれない存在だ。森を侵す人間たちに、山犬と共に牙を剥くが、彼女自身は人間である。

『羅小黒戦記』に登場する妖精・風息は、かつて森で暮らしていた頃、人間が侵入してきたことを最初は疎ましく思っていなかった。共に生きるという選択肢を、一時は選ぶことができたのだ。

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一時は人間とも交流があった風息/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより

しかし、人間が森に文明の手を入れ、工業地帯をつくり環境を汚し始めると、人間たちの身勝手な行動で妖精が生きる場所を奪われたことに我慢の限界を迎え、彼の感情は憎しみへと変わってしまう。

どちらも、人間と関わりながらも人間に敵対する存在だといえる。

物語の結末では、サンはアシタカにより考えを変えられ、人は人の暮らす場で、自身は森で、“共に生きる”という決断を下す。

しかし、風息はサンのように、人間に対しての妥協点があることはわかっていても、それを選ぶことはできなかった。

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『羅小黒戦記』の中国版ポスター/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより

中国版ポスターにある「不再放浪」の言葉のように、もう二度と故郷を失ってさすらいたくないと固く誓っていた風息。最期にはかつて緑豊かな地であった故郷で、自らが大きな樹木となって永年生き続けることを選ぶ。

サンとフーシー、互いに己の生きる道に人間が関わり、その過程で人間を憎んでしまった者同士。両者の結末の違いを考えてみると、生きる環境の異なる者たちに対し、居場所を侵そうとする人間の業の強さが浮かび上がってくる。

彼・彼女たちが下した異なる「共存」という決断

最後に、それぞれに描かれた「共存」について考えてみたいと思う。

結末として人間と自然の関わり方に変化の兆しが見えたのは『もののけ姫』だ。

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ラストで「アシタカは好きだが人間を許すことはできない」と語ったサン/『もののけ姫』より

シシ神の死後、森が新しく息吹を取り戻したのを見た人間たちは、森を侵さないことを決める。そして共に異なる場所で、それぞれ生きていくことを選ぶ。

「共に生きよう」というアシタカのセリフからは「共生」がイメージされるが、実際には別々に同じ世界を生きる「共存」の意味合いが大きい。

『平成狸合戦ぽんぽこ』『羅小黒戦記』は、同じ条件下の環境で共存することはできないと感じた自然界側の存在が、故郷を取り戻すため人間側に訴えかける。

しかし結果は変わらず、『平成狸合戦ぽんぽこ』ではタヌキたちが団結して人間に対抗し、多くの犠牲のもとに「人間に化けて生きる」という選択が残る。

『羅小黒戦記』は風息が仲間の意志を背負う形で具体的な行動を起こし、妖精たちは1から人間側との共存における信頼を築いていかなければならなくなった。

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人間社会に溶け込むタヌキたち/『平成狸合戦ぽんぽこ』より

ここから浮かんでくるのは、「共存」とひとくちに言っても、その実現には計り知れない双方の努力が必要であり、すぐに実現するとは限らないという現実だ。

結論が出るものとそうでないもの。それぞれに描かれた「共存」の形が異なることも、こうして比較する上でわかることだといえる。

『羅小黒戦記』は、アニメーション技術もさることながら、母国である中国の現代社会的な側面を巧みに落とし込みリアリティを演出し、メッセージも込められた非常に素晴らしい作品だ。

他作品との比較だけでなく、細かに描き分けられた描写の1つひとつを発見しそこから考察することも、キャラクターを深堀りしていき作品全体を見渡し新たな見解を得られることもできる。

Webアニメから始まりスピンオフ漫画など多数のコンテンツが生まれ、映画は3部作になる予定ということもあり、今後も熱心に応援するファンが作品を支えていくだろう。

現在中国初の作品は年々増加しており、それを輩出する中国のアニメシーンには日本ともまた違った興味深い世界が広がっているので、ぜひ一度楽しんでみていただきたい。

©️Beijing HMCH Anime Co.,Ltd© 1994 畑事務所・Studio Ghibli・NH© 1997 Studio Ghibli・ND

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