スマホ料金が高すぎる! 背景にある3大キャリアと電波行政の闇

スマホ料金が高すぎる! 背景にある3大キャリアと電波行政の闇

  • WANI BOOKS NewsCrunch
  • 更新日:2020/10/16
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いまや生活に欠かせないスマホだが、その利用料金の高さを負担に感じている方は多いことだろう。編集記者も、分割払いにしている端末の購入代金・電話料金・データ通信費をあわせ、なんだかんだで毎月1万円キャリアへの支払いをしていた(現在は格安スマホに乗り換え)。なぜ日本のスマホ料金はかくも高いのか――。

その憤りにズバリ答えてくれる1冊が『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮新書)だ。NTTでの勤務経験もある著者の山田明氏に、日本の通信業界の問題点と未来を聞いた。〔※カッコ内引用のコメントはすべて山田氏のもの〕

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▲『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮社:刊)

東京は海外に比べて30%~40%通信費が高い

わたしたちが体感的に「高い」と感じているスマホ料金だが、実際に数値ベースでは海外と、どれだけの差があるのだろうか。2つの視点から明らかにしていこう。

1つは、家計支出に占める電話料金の割合だ。内閣府が作成した資料によれば、家計最終消費支出に占める通信費の割合が、日本は3.7%とOECD加盟36か国中4番目に高くなっているという。通信費=スマホ料金というわけではないが、ひとつの指標になるだろう。ちなみに、この数字は韓国の3.1%や米国の2.5%を上回っている。

もう1つが、料金水準そのものの比較である。山田氏によれば「総務省は日本の携帯料金を意図的に低く見せていた」という。

「総務省の『電気通信サービスに係る内外価格差調査』で報告された、東京における携帯電話料金の価格は、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクのような大手事業者の料金ではなく、ソフトバンクグループの格安携帯会社ワイモバイル(Ymobile)の料金が採用されていました」

驚きの実態である。調査会社MCAが、あらためてシェアが最も高い事業者のプランで携帯通信料金を比較すると……

2GBモデル:東京5942円/海外5都市3552円

5GBモデル:東京7562円/海外5都市3696円

20GBモデル:東京8642円/海外5都市5590円

と、東京は海外に比べて30%~40%通信費が高いのだ。編集記者の実感値としても、この数字は納得できる。東京の通信費はここ数年高止まりする一方、海外ではスマホ料金はどんどん低下している。山田氏は要因をこう分析する。

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▲東京は海外に比べて30%~40%通信費が高い イメージ:PIXTA

「拙著でも紹介した“2つの方法”によるものと考えています。1つが格安スマホ(MVNO)への乗り換え。ドイツでは政府の促進策を受けて、格安スマホの使用が拡大しました。そして、これに対抗するために値下げした大手キャリア(MNO)の料金は、3年間で71%値下がりしたと言われています。

もう1つが新規参入事業者の登場です。フランスでは、日本の楽天に相当する第4の通信事業者の参入が競争を活性化し、料金の値下げにつながりました。ここでもシェア首位の大手キャリア(MNO)は、70%以上も値下げしたようです」

スマホ業界の寡占・利権・癒着を指摘した菅首相

70%以上の値下げとはうらやましい限りだ。反対に日本のスマホ料金は、なぜなかなか下がらないのだろうか。政府はこれまでもキャリア側に値下げを促していたが、菅首相が、官房長官になるまで“目くらまし”を続けていたのだという。

「日本のスマホ業界(総務省・ドコモ・KDDI)の特徴は、寡占・利権・癒着です。総務省の役人とドコモやKDDIの社員は、いわば『官民サラリーマン共同体』と呼ばれる、一心同体の関係にありました。その結果、総務省の官僚は菅官房長官(当時)に指摘されるまで、日本のスマホ料金は高くないと言い続けてきたのです。

大手3社のこれまでの対応を一言で表すならば『面従腹背(めんじゅうふくはい)』です。菅氏のように携帯料金の問題を深く考える総務大臣は、彼以前にはいなかったので、大手3社から目くらまし的な分かりにくい料金値下げプランを示されても、その内容を見抜けず、その結果、実質的な値下げが行われないまま、大臣交替時期を迎えてきました」

しかし、菅氏の登場によって状況は変わりつつある。

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▲スマホ業界の問題を指摘した菅首相 出典:ウィキメディア・コモンズ

「菅氏は、副大臣や総務大臣として真面目に通信分野を勉強し、業界や官僚に対する深い知識と理解を持っています。菅氏の元では、いい加減な対応ができません。菅氏が官房長官、そして総理になり、官僚の人事も一元的に行う体制が確立する中で、菅氏に抵抗できる官僚はいなくなり、現在の総務省では、谷脇総務審議官が菅氏の意を受けて実質的に省内の実務を回し、大手3社と対応しているように思えます」

大手3社で最初に値下げをするのはNTTドコモ?

そして菅氏が首相に就任。国のトップとなった氏の要請によって、大手キャリアの通信費はいよいよ安くなるのだろうか。KDDIの高橋誠社長も「政府からの要請を真摯に受け止め対応を検討していきたい」ともコメントしているが……。

「大手3社の社長が、先程も申し上げた『面従腹背』の姿勢を貫きたい気持ちは変わらないと思いますが、それは菅総理には通用しそうにありません。KDDIのほか、NTTやソフトバンクの経営陣も、菅総理の意見に理解を示す発言をしています。とはいえ、表向きは民間事業であり、値下げの“強制”はできません。一番確実な方法はNTTに“自主的に”下げさせることです」

NTTは先般、ドコモを完全子会社化したが、政府に3分の1以上の株式保有を義務付けられた特殊法人であり、役員人事権を政府に握られている。NTTの澤田社長は、自身のポジションを安泰にするためにも「菅氏の機嫌を損ねることなく、ドコモの値下げを確実に実現する」と考えたことは容易に想像される。

なぜなら昨年のNTT人事で、新規参入業者の楽天に非協力的と受け止められた鵜浦前社長が、政府によって更迭させられたからだ。そして大手3社のうちの1社が値下げに動けば、他の2社もドミノ倒しのように追随する。3社のうち一番動きが早そうなのはNTTだ。

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▲大手3社で最初に値下げをするのはNTTドコモ? イメージ:PIXTA

また、3社の寡占状態に風穴を開けようとする楽天も、スマホ料金値下げの鍵だ。データ使い放題で1年無料をうたう「Rakuten UN-LIMIT」など、革新的なプランを打ち出している。一方、基地局工事が予定通り進まず、総務省から再三にわたって行政指導を受けるなど問題点も指摘されている。山田氏は「楽天を支援すべき」と言う。

政治のタブー「電波配分の見直し」ができるか

新規参入した楽天は、大手3社と比べて、使い勝手の悪い高周波の電波を割り当てられているが、これに使い勝手の良い低周波のプラチナバンドと呼ばれる周波数を割り当てることで、健全な競争環境が作られる。山田氏によれば、実は日本には使われていない優良電波が眠っているのだという。その正体は放送業界に割り当てられた電波で、その総量は大手3社が利用する電波の総量と同じくらい、とのことだ。

「これを放送業界から引っぺがし、通信業界に割り当てることで、楽天にもスピーディーかつ低コストで、全国に通信基地局を建設する道が開かれます」

この電波配分の問題は、長らくメディアでもタブーとされていたという。

「新聞社では10月4日付けの日本経済新聞の社説が、初めてこの点に触れました。欧米先進国でも同様な取り組みが進んでいますが、通信・放送業界で寡占・利権・癒着が定着している日本では、全くといってよいほど議論が行われておらず、放送会社の親会社である新聞社も、全く触れてきませんでした。

それは最強の政治団体である、民放連が反対しているからです。海外より早く、電波を放送から通信に移せる技術が、日本にあるにも関わらず、放送業界の有力者が、衰退産業である放送業界を守るため、政治家に圧力をかけ続けてきました。

電波配分の見直しは、郵政大臣や総理大臣を経験した田中角栄が、50年以上前に築き、現在まで続く県単位の放送免許制度の見直しや、放送利権の破壊につながります。大きな政治問題に発展する、電波割り当ての見直しを実現できるか。菅政権の下での、本格的な携帯料金値下げの実現を占う試金石になると思います」

菅氏が首相に就任してから加速する「値下げ」の動き。われわれ消費者にとっては、ありがたい限りだが、一方「行政が、民間企業の経営方針に口出しするのか」という批判もある。先程も「表向きは民間事業であり、値下げの“強制”はできません」という話があったが、山田氏はそれを踏まえて「正義は菅氏にある」と語る。

忘れてはならないのは、そもそも各社が飯の種としている“電波”は、国が管理する公共的な財産だということ。それが独占されている現状はおかしい。

「日本では、海外の先進国と異なり電波オークションを行わず、政治家や官僚による恣意的な電波行政が行われ、通信企業との間で癒着や利権構造を生み出してきました。一般の産業のように、企業が自らの判断でビジネスリスクを取りながら、事業拡大を目指すのとは異なる、不健全な環境で携帯ビジネスが展開されてきたことを、まず理解する必要があります。

消費者の利益が顧みられることは少なく、役所や通信事業者の都合優先で携帯ビジネスが展開されてきました。加えてイーモバイルをソフトバンクが買収したことで、3社の寡占体制が生まれ、3社のカルテル的な事業運営の下で消費者の囲い込みが行われ、海外に比べて倍近い料金を強いられてきました。高止まりする日本の携帯料金の値下げを拒む、岩盤規制を明らかにすることが、批判の本質であるべきです」

第4勢力「楽天モバイル」のリアルな評価

最後に寡占状態に風穴を開けようとする、楽天モバイルの評価を詳しく聞いた。事業計画・ビジネスモデル・周波数の3つの側面から評価してもらった。

1.楽天の事業計画

「2018年4月に携帯事業の認可を得た楽天は、計画していた2019年10月のサービス開始を実現できず、総務省から再三の指導を受け、2020年4月になんとかサービス開始にこぎつけました。通信の素人集団が作成した事業計画が、スムーズに展開されるはずもなく、楽天の受けた総務省の指導は、生みの苦しみと言えそうですが、ドコモ等から人をかき集め、4月のサービス開始後は、かなりスムーズに計画が進行しているように見えます。

設備面では、交換機に汎用のサーバーを利用し、クラウドを利用する仮想化ソフトウェアの大胆な採用で、設備コストを大幅に削減していることが注目されます。従来の携帯キャリアに比べて、半額程度ともいわれる低コストの通信基地局や局内サーバは、楽天の競争力の源泉になると思われます。また今後、国内で提供するサービスの品質が確認されれば、海外での設備提供も視野に入ってくると思われます。

料金面では、低コストの設備を武器に、大手の半額以下の料金で大容量通信を実現する、単一の料金プランを打ち出した点が注目されます。5Gの時代に突入し、映像中心のコンテンツが主流になるなかで、楽天のシンプルな料金プランは、時代にマッチしていると感じます。複雑な料金プランで、利用者を惑わすような大手3社に対し、極めて分かりやすい料金プランで勝負に出た楽天の戦略は、ユーザにも高く評価されると思います。

サポート体制や、資本金などの事業規模に不安があることは事実ですが、かつて新規参入したソフトバンクも、似たような状況からスタートし、今では大手2社と肩を並べています。私は、楽天の姿勢がユーザの評価を得ていくのではないか、と考えています。

2.ビジネスモデル

「4Gまでの携帯ビジネスは、通信の品質(つながりやすさ・障害・音質など)が競争
の主要因でしたが、5Gの時代に入り、携帯電話のビジネスモデルにも変化が見られます。通信と他の産業分野(医療・農業・教育・製造・映画・金融など)の融合で、収益を上げる方向に動いています。既存の通信事業者は、他の産業分野へのアプローチを積極化していますが、楽天の強みは、すでに自前の経済圏を形成していることにあります。

携帯電話を、楽天経済圏で共通に使用できるようツール化し、ポイントの相互利用など、楽天グループ全体でユーザの利便性を高め、収益を上げようとしている点が注目されます。こうした戦略は、楽天モバイルの設定する料金を、他社が真似できない水準まで下げることも可能にするように思われます。

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▲楽天の強みは、すでに自前の経済圏を形成していること イメージ:PIXTA

3.周波数

「2018年4月に、楽天が事業認可を得た際に割り当てられた周波数は、1.7GHzの高周波数の帯域の電波でした。高周波数の電波は直進性が強く、途中に障害物があるとそこで止まってしまいます。一方、700MHz付近の低周波数の電波は、障害物があっても回り込んで遠くまで飛ばすことができ、この違いが設置する基地局の数や、建設期間の違いとなって現れ、低コストの設備建設に繋がります。

それゆえ、この使い勝手のよい700MHz付近の低周波数の電波は、携帯会社が欲しがりプラチナバンドの電波と呼ばれています。楽天が総務省から再三にわたって基地局建設を急ぐよう指導を受けた背景には、楽天に割り当てられた電波の帯域の問題も隠れていたのです。

総務省と大手3社の間では、さまざまな密約や裏取引が行われた結果、3社すべてにプラチナバンドが割り当てられてきた、と言われています。このような3社と楽天が、公正な競争ができるわけがありません。楽天に3社と同様なプラチナバンドを割当てることは、公正競争を実現する第一歩です。そして通信基地局建設を全国ベースで加速させることが、通信料金の大幅値下げにもつながります。

電波配分の見直し実現には、電波割り当ての見直しに強硬に反対している、放送業界(民放連)を説得する必要があり、菅総理の政治力が試されることは先述のとおりです。また、電波配分の見直しは、大量の優良電波を生み出す電波の大改革でもあり、生み出された優良電波を、インターネット放送などで活用することにより、地方のゾンビ企業候補となっている、ローカルテレビ局の経営見直しを迫ります。地方銀行の経営見直しとともに、地方創生に繋がる重要な政策になると思われます」

楽天モバイルに今後、優良な電波が割り当てられていくのか。それはわたしたちのスマホ料金というミクロな問題だけでなく、地方創生などマクロな問題へもつながるという。スマホ料金は小さくも大きな問題だった。

NewsCrunch編集部

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