投票率アップであなたの地域の予算配分は増えるのか?

投票率アップであなたの地域の予算配分は増えるのか?

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  • 更新日:2022/06/23
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参議院選挙が6月22日に公示された(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

6月22日に第26回参議院議員選挙が公示され、7月10日に投開票される。これまでの連載では、子どもの幸福および高齢者の幸福の観点から都市と地方でどのような違いがあるのかなどを調べてきた。これらに続いて今回は、現役世代に焦点を当てて都市と地方を比べてみよう。

選挙と現役世代の関係は納税額という観点から結び付けることが可能である。図1は、厚生労働省が実施した平成29年『所得再分配調査』の結果を年齢別に示したグラフである。

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(出所)厚生労働省平成29年『所得再分配調査』、第4表 世帯主の年齢階級別所得再分配状況より筆者作成写真を拡大

図1には、税引き前の所得にあたる「当初所得」が青色で示されている。市場で稼いだ労働所得が中心となる。次に、ここから税と社会保険料等の負担を差し引いたものが、赤色の「可処分所得」である。これを見ると現役勤労世代では、青色の折れ線と赤色の折れ線の乖離が大きく、その分、納税等の負担が大きいことがわかる。

そして最終的に社会保障給付等の政府からの受給分を足したものが緑色の折れ線グラフ「再分配所得」である。当初所得と再分配所得は60歳から64歳で交差し、その後は年金受給等の受け取りが多いため、高齢世代では当初所得よりも可処分所得の方が大きくなっている。

以上のことから、現役勤労世代は稼ぎの中から多くの税負担等を行っており、これが取り戻せるには退職後まで待たなければならないことになる。そこで、今回は納税負担の大きい現役世代にとって、自分たちが払った税負担が投票によってどれだけ地域の政府支出として還元されるであろうかを考えてみたい。

国政選挙における地方別投票率

表1には、2021年の衆議院議員選挙の都道府県別の投票率が示されている。ここでは、地域性が色濃く出る小選挙区における投票率を示している。

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(出所)「令和3年10月31日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果調」令和3年11月9日総務省自治行政局選挙部の都道府県別有権者数、投票者数、投票率(小選挙区)より筆者作成写真を拡大

投票率の最も高い県は山形県の64.34%であり、最も低い県は山口県の49.67%であった。この差は約15%ポイントであり、地域的な差異は大きい。全体的にみると投票率の高い地域は地方の県が多いように思われるが、東京都、大阪府などは中間レベルであり、下位の地域には青森県や山口県もランクされている。

表1に示された都道府県別の投票率の差異は、各都道府県の特徴を表しているのか、それともこの1回の選挙だけで偶然に現れた傾向であるのかを確かめるため、それ以前の19年に行われた衆議院選挙の投票率との相関を図2に示した。

これを見ると、衆議院・参議院の違いはあれども、相関係数は+0.74で2つの選挙で一方の投票率が高い地域は他方の選挙でもおおむね投票率が高いことが分かった。ちなみに図中の黒線は45度線を表しており、2つの選挙の投票率が全く同じ県はこの直線上に存在することになる。しかし、図2では全ての県で45度線の上方に点が打たれており、21年の衆議院選挙の方で投票率が高いということが見て取れる。

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(出所)「令和元年7月21日執行 参議院議員通常選挙 速報結果」総務省自治行政局選挙部、(2) 都道府県別有権者数、投票者数、投票率(選挙区)および表2のデータより筆者作成写真を拡大

地域別の1人当たりの政府支出

次に都道府県別の有権者1人当たりの政府支出を検討する。このデータは内閣府の『県民景経済計算』から得ることができる。県民経済計算の政府支出は、財政上の決算が確定してから集計されるため、公表にやや時間がかかる。表2は17年時点の有権者1人当たりの政府支出を示している。

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(出所)2017年『県民経済計算』(内閣府)、2017年『平成29年10月22日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』(総務省)写真を拡大

表2を見ると、有権者1人当たりに基準化して比較した場合、おおむね地方部に対する政府支出が多く、下位の地域は首都圏または、政令指定都市の存する概ね都市部の府県が含まれることが分かる。全国どの都道府県の有権者であろうとも、市民生活に必要な最低限度の行政サービスgが公平に与えられるべきであるというシビル・ミニマムの考え方に従えば、地域i (i=1~47)の有権者数N(i)に対して、その地域(都道府県)への基本的な政府支出の総額G(i)は、

G(i)=g×N(i)

となるはずである。この両辺を有権者数で除すと、

G(i)/N(i)=g

で、1人当たりの政府支出はgで一定となるはずである。しかし、表2のとおり、地域ごとの1人当たりの政府支出G(i)/N(i)=g(i)は固定のgではなく、都道府県別にかなり開きがあることが分かる。すなわち、政府支出の決定において、有権者1人当たり単価gでいくらというような単純な構造にはなっておらず、オプションのファクターが加味されるべきであることを意味する。

そこで、横軸に2007年以来の過去9回の国政選挙の地方別投票率をとり、縦軸にその地域の1人当たりの政府支出の関係をプロットしたものが、以下の図3である。

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(出所)横軸:2007年以来の過去9回の国政選挙の地方別投票率(%:総務省)をとり、縦軸にその地域の有権者1人当たりの政府支出(円:内閣府の『県民経済計算』)をとったもの。2019年の選挙に対応する財政支出は2018年の県民経済計算(H23年基準)を代用写真を拡大

すべてのデータをプールしてしまうと、データの点は平面上にまんべんなく広がり、両者の相関はないようにみえるが、各国政選挙の年別にデータを区別(色分け)して傾向線を引くと、それぞれの国政選挙では右上がりの傾向が見てとれる。すなわち、投票率が高い地方ほど、有権者1人当たりの政府支出の額が多くなっている可能性がある。

図3を見ると投票率と政府支出に正の関係がありそうであるが、政府支出の全てが投票率で決まっているとは限らない。たとえば、表2では第2位に福島県がランクされているが、当然に東日本大震災からの復興予算の要素を加味しなければならない。また、東京都は都市部で1人当たりの政府支出は10位にランクされているが、これは東京都が首都であり、それだけ国全体の行政のため支出が多いことが想定される。また、沖縄県が8位にランクされていることは沖縄振興策の存在も考えられる。そして12位に北海道がランクされているのは当然に行政投資の対象となる地域の面積が大きいことを考慮しなければならない。

そしてここでは、それらのさまざまな地域の特性を考慮したうえで、さらに投票率の多寡が行政支出の算定に影響を及ぼしているかを確認したい。すなわち、投票率の高い選挙区は政権にとって「大事な選挙区」とみなされているかと言い換えることもできる。

投票率1%で政府支出はいくら変わるか

そこで、以下では各地方の政府支出額を有権者1人当たりに基準化したG(i)/N(i)=g(i)を、①投票率(%)、②都道府県面積(北海道対応)、③東京都ダミー、④沖縄県ダミー、⑤福島県ダミー(震災復興対応)、⑥都道府県別経済状況の差を考慮するため有権者1人当たりの県内総生産、選挙実施時の社会環境の違いを調整するため、⑦2007年、⑧2009年、⑨2010年、⑩2012年ダミーで説明することを考える。ここでは、データの揃っている2007年から2017年までの8回の国政選挙について、回帰分析を行った。

そこで、有権者1人当たりの政府支出g(i)は、以下の結果が得られた(推定された係数は、面積は5%水準で有意、他はすべて1%水準であり、信頼できると判断される)。

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さて、上式の結果を読み解くことにしよう。まず定数項が967968であるから、地域に関係なく1人当たり97万円の固定的な政府支出(シビル・ミニマム)がなされていることになる。次に、注目の投票率(%)の偏回帰係数は12409であるから、投票率1%で1万2400円余りの政府支出が増加することになる。

これが投票率の効果であるとすると、投票率1%の下落で基本政府支出97万円弱の予算の1万2000円分、すなわち1.2%~1.3%分の配分が減少する可能性があることになる。このほか、東京、沖縄、福島ダミーは何れも仮定した地域特性を反映して、政府支出が多めとなることが確認できた。県内総生産はマイナスの係数が推定されたことから、1人当たりの県内総生産が高いところにはやや減額し(その逆のところはやや増額することで)、地域間の所得再分配の要素がみられることがうかがえる。

投票率を高めることの本当の意味

上記で問題とした政府支出には、政府の裁量の余地のないもの(シビル・ミニマムや義務的な経費)も当然に含まれる。また、予算は限りあるため、投票率が上がると際限なく予算配分が高まるというものでもない。しかし投票率が高い地域の政府支出の他地域との差を「投票による我田引水である」と評価するか「民主主義がある程度機能している」と評価するかは議論の分かれるところであろう。しかし、投票率にかかわりなく恣意的な裁量によって予算の地域間配分が決まるようなことがあってはならないのは言うまでもない。

新しい国勢調査の結果に基づいていわゆる選挙区割りの「10増10減案」が論議を呼んでいる。これは有権者総数によって判定した、1票の格差であり、すなわち投票率100%を想定した場合の1票の重みである。有権者数と議席配分の関係も重要であるが、投票に行かないことは有権者自ら実質的な1票の重みをゆがめることにもなる。

特に、若者・現役世代は自分の払った税金の使い道がどのようになっているかの観点からも、投票に行ってほしい。

(本稿に示された推計結果は、「地域別の投票率の差異を数字で見える化するとしたら」という仮説に基づいたものであり、確定的な結果を示すものではない。本稿中の記述は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織、関連する団体の意見を代表するものではない)

吉田浩

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