極寒のコロナ第8波、往診ドクターの限界 「一晩で50人宅」「食事もとれない」現場に密着

極寒のコロナ第8波、往診ドクターの限界 「一晩で50人宅」「食事もとれない」現場に密着

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  • 更新日:2023/01/25
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「ナイトドクター」の医師の待機施設

新型コロナの第8波による感染拡大で、医療体制が逼迫(ひっぱく)している。そんな状況のなか、注目されているのが「往診ドクター」だ。夜間・休日に都内全域や隣県などに医師を派遣し、薬も処方して渡す医師だ。食事を取る暇もなく、朝まで患者宅を駆け回る。そんな彼らの現場を追った。

【グラフ】都内のオミクロン株の新たな系統の推移はこちら辺りが暗くなり気温もすっかり落ちたころ、東京都立川市の住宅街に一台の車が止まり、運転席から上下緑の制服を着た田中直樹さん(40代・仮名)が降りてきた。これから患者宅に診察に向かう医師だ。匿名にしているのは「受験期の娘がいて、学校で風評被害を受けるのは避けたい」との理由からだ。

「今日は朝には帰れればいいな」

田中医師はそう言い、後部のトランクを開けた。オレンジをベースにした蛍光色の黄色のラインが入ったボストンバッグと、隣には銀色のアタッシェケースが置いてある。ボストンバッグには聴診器や血圧計、患者に渡す薬などが入っている。主に使うのはボストンバッグのほうで、銀色のケースには予備の機械や薬が備えられているという。

しかし、冬場でかなり冷え込んできたが、田中医師は半袖だ。寒くはないのだろうか。

「寒くないですよ。車から降りたら駆け足ですし、汗をよくかくんです」

重たそうなボストンバッグを持った田中医師は、この日最初の患者宅へ向かった。

玄関で家の呼び鈴を鳴らす。何度か鳴らしても出ない。いったんあきらめて車内で待機していると、少ししてから田中医師のスマートフォンが鳴った。その家で一人暮らしをしている68歳の女性からだった。

「お風呂入っていたから、今から来てよ」

田中医師が訪れる時間を忘れていたようだが、田中医師はそのことについては触れず、「今から向かうね」とだけ伝えた。女性は精神疾患を患っており、会話には慎重さが求められた。

今回は2度目の訪問で、コミュニケーションの取り方はだいぶ慣れた。田中医師は、落ち着いた口調でゆっくりと体調について尋ね、同時に体温や血圧、酸素濃度などを測った。

「異常ないね。良好だよ。あと3日頑張って。今日は寒いから風邪引かないようにね。何かあったらすぐ電話するんだよ」

田中医師は女性にそう語りかけて家を出た。

診療を終えた田中医師は車内に戻り、ビデオ通話で本部に患者の症状などを報告した。このビデオ通話は業務時間中ずっとつながっている。診察結果を伝えるほか、本部から診療の要請が入る場合も多い。

毎日多くの患者と接している。自身が感染するリスクはないのだろうか。

「十分にありますよ。ワクチン接種はもちろん、マスクもつけてますが、万が一がある。だからあまり家に帰らないようにしてますし、仕事以外は外に出歩かないように心がけています。第6波の時は、家に3カ月ほど帰れませんでした。娘の受験期間中はうつさないようにするため、ずっと立川の待機所に泊まっていましたね」

昨年は、国内の一日ごとの感染者数が第6波で初めて10万人を超え、第7波では20万人を超えた。

田中医師が振り返る。

「第7波の時も帰れませんでしたが、何より薬不足に陥りました。解熱剤とせき止めがなくなりかけたのです。ワクチンの接種回数が少ない人ほど症状が重かったです。そこに疲労がたまっているとさらに悪化します。往診ドクターも診られる範囲に限界があり、かなりの重症化ですぐ入院が必要だと感じたら、病院と救急車と連携して、搬送の準備をします。ただ、医療体制が深刻なレベルにあると、緊急搬送できないことがほとんどです」

サービスを提供する「ナイトドクター」(東京都港区)は、常時数人のスタッフが本部で電話を受けている。医師の待機場所は立川市内にあり、現場を担当する10人ほどの医師が、そこから依頼を受けた家に向かう。

休日問わず、夜間は365日往診し、PCR検査は24時間いつでも出張する。コロナの陽性者については、夜間以外にも往診するケースもある。往診サービスを利用するのは、外出が不自由な高齢者が多いという。

患者宅での滞在時間は平均10~15分で、一日に訪れる数は50件を超えることもある。

「一人暮らしで高齢者、そして足が悪い人にとって、発熱外来に行くことは困難です。公共交通機関が使えないうえに、第7波のときは一部の発熱外来で1時間以上、外で待っていたという患者さんの話を聞きました。第8波の今は真冬です。外で待つなんて危険すぎます。何かあったら誰が責任を取るのかと思う。そんなところに僕らの需要があるんですよね」

田中医師はそう話し、続けた。

「お金になるからと思って始めたものの、今ではそんな意識は薄れています。いまでは、ひたすら目の前の診察をこなすだけです。重症化になる一歩手前の人などを何十人、何百人も救って『ありがとう』と声をかけられると、やりがいを感じますね」

この日、翌朝にかけて田中医師が訪れた訪問先は15件。まともな食事は取っていない。

「待機所にある別部屋のスタッフが買ってきたコンビニ弁当を食べることが多いです。基本、往診時は食事を取りません」

すべての診察を終えて、自分の部屋に着いたのは午前7時を回っていた。

●機能しない分科会 ワクチン接種率を高める打開策が必要

昨年10月から緩やかな増加傾向にあった第8波は、12月に入ってから感染速度を上げ、東京都では1月に入り、感染者が2万人を超える日が続いた。

旅行会社大手のJTBの推計によれば、12月23日から1月3日までの国内旅行者数は、前年比16.7%増で2100万人に上ったという。全日空によれば、国際線の予約数は前年度比で5倍以上増え、13万6253人に上った。

東京都は今月初めに、新型コロナの感染状況について、分析結果を公表した。医療体制については、年末年始も一日の入院患者が4千人を上回り、増加傾向が続いているなかで、感染拡大により就業制限を受ける医療従事者が増えており、医療体制は最も深刻なレベルにあるとした。

また、新規の新型コロナ感染者のうち、第7波で猛威を振るったオミクロン株「BA・5」が減る一方、オミクロン株の新系統が増えてきているという。そのなかでも、米国ニューヨーク市などで爆発的に感染が広がっている「BQ.1.1」は、免疫をすり抜ける性質が強いといい、感染拡大が懸念されている。

政府のコロナ対策分科会の動きについて、政治部記者が話す。

「分科会はあまり機能していません。人流がそこまで変わらないまま、第6、7波がなぜ落ち着いたのか。その原因の調査が行われず、簡単に言えば『気をつけましょう』の注意喚起のみ。永田町でも分科会の不信感が高まる一方です。対応策が求められます」

前出の田中医師が話す。

「第8波は悪化する人がさらに増えていくのではないでしょうか。オミクロン株対応のワクチン接種率は、かなり低いです。3回目の接種率も7割を超えていません。まずは3回以上はワクチンを打ってほしいです。病院でも病床数が足りないほか、人員不足が懸念され、定年退職したOBにまで手伝いの声がかかるほどです。自宅でも療養できるよう、いかに症状を軽減できるかがポイントなので、一度感染したからとワクチンを受けるのを止めることがないようお願いしたいです」

田中医師らが忙しくならない状況が望ましいのだが。

(板垣聡旨)

板垣聡旨

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