いいことずくめ!コーヒー園が「ジェンダー平等」進めて得た「劇的な効果」

いいことずくめ!コーヒー園が「ジェンダー平等」進めて得た「劇的な効果」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/07
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世界経済フォーラムが2021年度の「グローバル・ジェンダーギャップ・リポート」を発表した。日本は156ヵ国中120位で、2020年の121位より1位上昇したが、G7の中で最下位だ。では、人権問題はもちろんのこととしても、ジェンダー不平等を改善することでどんな良いことがあるのだろうか。その具体例ともいえるのが、コーヒー園で実現させたジェンダー平等の取り組みだ。これにより品質向上をはじめ、多くの人にとって劇的な効果が表れたという。どのように実現させ、そしてどんな結果となったのか。『コーヒーから読み解くSDGs』(ポプラ社)の抜粋掲載によりお届けする。

コーヒー生産とジェンダー平等の関係

ジェンダーとは、社会的、文化的に分類される性別のことを指します。いわゆる「女性」「男性」という生物学的な性別に限られるものではなく、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)といった性的少数者(LGBT)を含むべきものです。さらに近年は、自分の性別がわからない(Questioning)など、LGBTに当てはまらない人の存在にも配慮し、LGBTではなく、LGBTQと表現すべきだという声もあります。

しかし、世界には法律的に同性婚が重罪にあたる国も数多くあることから、SDGsでは、ジェンダーの平等に本来なら含まれるべきLGBTを入れることに合意できませんでした。「誰一人取り残さない」というSDGsの概念自体に当然LGBTも含まれているとする人もいますが、本来であれば、ゴール5に明記すべき問題です。人の性のあり方は様々であり、それによって差別される社会は、真に公平な社会とは言えないのです。

昨今日本でも、ジェンダーの平等や多様性を認める重要性が訴えられるようになりましたが、ジェンダーの問題は非常に複雑で、国の文化や社会構造にも深く根ざすからこそ、SDGsの多くの項目に横断的に及んでいるのです。

コーヒーは、そのほとんどが開発途上国で生産されますが、途上国の農村部における女性の労働力は大変重要で、その数は男性よりも多いことがよくあります。そこには、内戦や虐殺、HIV/AIDSの蔓延、より良い収入を求め街に出稼ぎに出るなどの理由で、農村部の男性の労働力が減ったため、結果的に女性や子どもが農業に従事することになったという事情もあります。

コーヒー農園で働いても経営に関われない女性たち

そもそも、コーヒー生産農家の仕事には、コーヒー樹の栽培から収穫、精選、出荷、販売など、多くのプロセスがあり、女性はその多くにおいて重要な役割を担ってきました。それにもかかわらず、女性がコーヒー農園で働いていても、男性と同じように経営に関わったり、組合に入り融資や技術支援を受けることが難しい地域はまだまだたくさんあります。

そのようなジェンダーの不平等は、女性が土地の所有権を持つことが慣習的に困難である国や地域においてはさらに顕著です。多くの国で伝統的に重んじられてきた家庭の中での女性の役割が、家事も子育ても一手に引き受けるマルチタスクであるため、男性に比べて女性は学校からも遠ざけられ、女性の貢献は正しく認識されてきませんでした。 コーヒー農家の女性も、農園での労働、家庭内での労働と、多分野の労働を担っているにもかかわらず、その貢献が社会的に認められない例が多々あります。それは、世界が抱える大きな課題であり、その流れを変えようという動きは世界中のあちこちで、そしてコーヒーの生産地でも生まれています。

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あるウガンダのコーヒー農園。役割分担はあれど、女性も重要な労働力だ Photo by Getty Images

評価されなかった「女性の労働力」

コロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)が示した、コロンビアのコーヒー栽培における典型的な男女参画例の図があります。 この図には、力仕事の多い農園整備や除草、妊婦への危険が高い農薬散布は男性が受け持ち、それ以外の、会計、収穫、労働者の世話や管理などには、女性と男性の双方が関わっていることが示されています。また、コーヒーの品質にとても大きな影響を与える精選作業は女性が受け持つ一方で、その品質が反映される価格交渉や販売の多くを男性が受け持っていることも示されています。

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『コーヒーから読み解くSDGs』より

コーヒー栽培農家と言っても、コーヒーだけを育てていれば生活できるわけではありません。その多くは、家庭で消費するための家庭菜園や養鶏も行い、また料理や掃除などの家事全般や子育てもしなければなりません。 そしてこれらを一手に引き受けているのは女性です。しかも、一家の面倒を見る家事には、1年中休みがありません。

また、女性の労働時間はとても長いにもかかわらず、コーヒーの価格交渉や販売には関わらないため、収入へのアクセスは男性に限られています。自分の労働対価としての収入がなければ、たとえ女性が家族の食料や衣類などのためにお金が必要であっても、男性からお金をもらうしかないことになります。女性の労働が無償労働という扱いを受け、生活に必要なお金ですら男性から貰わなければならないと、金銭的にも精神的にも男性に依存する関係は解消されず、女性自身も「自分は男性に依存しなければ生きられない存在なのだ」と認識してしまいがちです。

このようなジェンダー配分の明らかな不均衡は世界各地で見られ、そして多くのコーヒー生産国には古くから根付く男尊女卑の文化や、女性と男性の役割に関する固定観念があります。 例えば、アフリカのウガンダでも、女性は農園で働いているにもかかわらず、コーヒーの販売で収入を得るのはほぼ男性だけに限られています。これは、ウガンダでは伝統的に女性に土地所有権が認められてこなかったことも大きな原因です。

ウガンダの生産者グループを対象に行われたある調査では、コーヒーは男性が所有権を持つ土地で穫れる作物なので、「男性の作物」だという考えが根強いことが、女性、男性の双方へのインタビューからわかっています。女性や子どもたちは、コーヒー農園で働いても、コーヒーの販売に関わらないため、自分たちのコーヒーの販売価格を知らないケースさえあったと言います。

しかも、コーヒーの収穫期のピークにおける男性の1日の平均労働時間は8時間であるにもかかわらず、コーヒー農園での仕事に加えて家事を一手に引き受ける女性の労働時間の平均は、15時間にのぼりました。女性が男性からドメスティック・バイオレンスを受けたり、家計に困った女性が男性に隠れてこっそりコーヒーを売って収入を得るという事例も報告されています。

女性を支える社会基盤の脆弱さは、女性の進出を妨げる直接的な要因になっていますが、仮にそのような点が改善されたとしても、社会での女性の役割についての固定観念が強いと、女性は無意識のうちに諦めてしまうこともあります。これは、途上国の女性に限った問題ではなく、日本で女性の管理職や、政界での活躍が極めて少ないのは、ジェンダーの平等が根本的に社会に浸透していないからとも言われます。

大切なのはともに考えること

この調査が行われたウガンダの生産者グループの一部は、フェアトレード認証を獲得しており、調査結果を受けて、ジェンダーの平等に向けた様々なワークショップが行われました。

ただし、ジェンダーの平等のためには、女性のエンパワーメントのみをすればよいのではなく、男性にも女性の役割や、女性に対する不平等な扱いと男女の固定的な役割分担がもたらす結果について、共に考える機会が必要です。このプロセスは、古くから伝わってきた男尊女卑の観念への介入となるため、注意深く行う必要があります。

多くのコーヒー生産国において、コーヒー栽培は小規模農家の重要な収入源であるからこそ、コーヒーのバリューチェーンにおいて女性の役割を明確にし、コーヒーによる収益から女性が男性と対等な対価を得るような仕組みを作り上げることが必要なのです。そのような意識改革が進み、女性がさらにコーヒー栽培に興味を持てば、結果的にコーヒーの品質や収穫量も改善されていくはずです。

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女性たちを単なる労働のコマとしてだけではなく、一緒に経営をする対等の関係としてみなす。そこからのスタートだった 写真/『コーヒーから読み解くSDGs』より

コロンビアの女性グループの成果

先に挙げたFNCは2013年に、コロンビアのコーヒー生産者に残るジェンダー不平等を農協と協力して改善するために、「ジェンダー平等プログラム」をスタートさせました。

2019年8月の時点で約800名がこのプログラムに参加しています。 参加者のうち約70%は既婚女性で、残りの約30%には離婚経験者や寡婦が含まれます。既婚女性の家庭ではかつて、意思決定権は完全に男性にありました。 男性優位社会であるコロンビアでは、女性はコーヒー生産に参加していてもビジネスや販売に関わることができず、様々な農園での仕事に加え家事もこなしていても、完全に無給であるのが当たり前でした。 また、家庭内でお金を握る男性は、飲酒など自分だけの目的に収入を使いがちで、家族の生活費を使い込んでしまうことも多々あります。

このような社会構造は、男性による女性へのドメスティック・バイオレンスや、男性が亡くなってしまうと家族の生計が立ちいかなくなるという事態にもつながっていたのです。

家庭内での女性の地位が向上

そこでFNCは、より健全な家族経営によるコーヒー生産を普及させるために、このプログラムを開始し、家庭内での女性の地位向上と、女性への品質管理指導や女性がマーケティングに関わるための支援を行いました。女性が販売に関わりを持つようになったことで、コーヒーの品質は格段に向上しました。品質が良ければ高く売れることがわかると、より収入を得るために完熟豆を選んで収穫し、誰もが丁寧な精選をするようになりました。 その結果、このプログラムのコーヒーは高い評価を受けるようになりました。

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女性も多く入れた新しいプログラム。当初は男性からの反発が多かったという 写真/『コーヒーから読み解くSDGs』より

また、プログラムに参加する女性たちの強い団結力で情報交換が密になったことや、女性は利益のほぼすべてを進んで設備や将来に投資したこともプログラムの成功を後押ししたのです。さらに女性は、自らの収入を家族のために使うことが多いため、世帯全体の生活の質が上がったとの報告も出ています。また女性がコーヒービジネスに積極的に参加することで、子どもたちや若年層がコーヒー生産に興味を持つようになり、後継者育成にも大きく貢献しているとも言われています。 特にウィラ県は、FNCと地元の農協が協力体制で「ジェンダー平等プログラム」を立ち上げた場所でもあり、コロンビアの中でも特に女性グループの活動が盛んな地域で、県内7つの自治体が参加しています。

2019年8月初旬に、筆者の山下が現地を訪問した際は、農協の買い付け価格の表にはプログラムに参加した女性グループのコーヒーがあり、品質第一で決定される買い付け価格が他の認証コーヒーより高いという成果も上げていました。農協は、女性グループのコーヒーを「女性生産者のコーヒー(Mujeres Cafeteras)」と名付け、特別なパッケージで販売しています。

地域ごとにいる14名の女性リーダーたちに、プログラムに参加して何が変わったかを述べてもらったところ、次の結果が得られました。

・ 自分たちのコーヒーに対する知識や技術が向上した 14名
・コーヒーの品質が向上した 9名
・生活の水準が向上した 8名
・子どもの教育への支援を受けることができた 4名
・家庭内での自分たちの地位が向上した 14名

また、グループに参加する前と後の家庭での自分の役割を比べてもらったところ、 「以前は、農園で働いていても、コーヒーに興味がなかったが、トレーニングを受けて、いろいろな視点で世界を見られるようになった」 「以前は、自分はただの主婦だと思い込んでいたが、今ではコーヒー生産が家族経営に変わり、自分も関わっていると言える」 などの声が多数あがり、女性たちの意識が大きく目覚めたことがうかがえました。

コーヒーでジェンダーギャップを考える

農協の職員によれば、このプログラムが開始された当初は、男性が反発し、女性を集めることすら難しい状況だったそうです。そのため、男性もプログラムに参加してもらい、家族でトレーニングを実施し、世帯の収入が増える利点を理解してもらうことから始めたと言います。 その結果、家族内で協調性も生まれ、子どもたちのコーヒー生産に対する知識も深まりました。今では男性から女性にプログラムに参加を促すケースも珍しくなくなったという報告もあります。

ジェンダーに関わる課題は国の文化や慣習にも深く関わるため、同じ手法がどこでも通用するとは限りません。しかし、他の国での事例を参考に、各国が工夫を凝らし、自国の改善に向けた対策を取ることができるところに、世界的な取り組みであるSDGsの意義はあります。

2020年、世界各国のジェンダーの平等を示す一つの指数である「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は世界153カ国中121位でした(編集部注:2021年は156ヵ国中120位)。これは、先進国の中では最低レベルであり、開発途上国である多くのコーヒー生産国さえ下回ります。日本は初等教育や識字率などの教育や保健の分野でのジェンダーギャップがなく、その意味においては世界トップレベルの男女平等な社会基盤が築かれているにもかかわらず、政治や経済の分野における女性の活躍が著しく低いことが順位を押し下げる要因となっています。

人口減少と高齢化が進む中、女性が社会で活躍しにくい日本の現状は大変危機的です。働き手としての女性の雇用促進を進めるだけではなく、周囲や社会が女性の役割や可能性に理解を示し、変わっていかなければいけない点は、コーヒー生産地の問題と同じです。

日本ではジェンダーギャップへの配慮を付加価値とするコーヒーの流通は、ほとんど見かけないのが現状ですが、SDGsを通じ、自国への啓発も含めて取り組むべき課題と言えるのではないでしょうか? もし実現すれば、生産国と消費国のジェンダーの課題を、コーヒーでつなぐことができるかもしれません。

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ジェンダー平等とは、男性VS.女性という問題ではない、あらゆる性別の人がともに人権問題を考え、相手を尊重し、お互いの能力を活かしてみなが健やかに暮らすことを目指すものだ Photo by iStock

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SDGs17の項目を「コーヒー」の切り口で解説。大変わかりやすいSDGs入門でもある

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