「ホラー映画が認知症予防に効果的」と専門家 オススメ映画は「エクソシスト」

「ホラー映画が認知症予防に効果的」と専門家 オススメ映画は「エクソシスト」

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  • 更新日:2021/05/02
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ホラー映画の名作『エクソシスト』(1973/日本公開は1974年)※gettyimages

古くは「フランケンシュタイン」から「呪怨」「リング」まで、古今東西で様々なホラー映画が生み出されてきた。身の毛もよだつような恐怖映像を見て、スリルを楽しめる人もいれば、苦手意識を持つ人もいるだろう。そんなホラー映画、実は認知症の予防にも効果が期待できるという。一体どういうことなのか。脳内科医が、その意外な効果を語った。

【一覧表】加藤医師おすすめのホラー映画リストはこちら

「脳のメカニズムからすると、ホラー映画の鑑賞は認知症予防への効果が期待できます」

こう説明するのは、脳科学・医療の研究開発を行う「脳の学校」代表で昭和大学客員教授の加藤俊徳医師だ。これまでに、胎児から高齢者まで1万人以上の脳を分析・研究した経験を持つ、脳科学の分野における第一人者でもある。

なぜ、ホラー映画が予防に期待できるのだろうか。加藤医師によれば、複数ある要因のうちの一つは、認知症を発症する「位置」に起因しているという。

認知症患者のうち過半数を占めるとされるアルツハイマー型認知症は、においの中枢である「嗅内皮質」周辺が病変をきたすことによって進行するという。そしてこの皮質は、感情の中枢である「扁桃体」を内側から覆っている。

「ホラー映画は、強い恐怖の感情をかき立てるために作られています。ホラー映画から得た視覚情報によって、扁桃体に恐怖の感情を出すよう促すことで、直接接している『病変をきたす箇所』も刺激することができ、代謝を高めることにつながります」

とはいえ、「感情」をかき立てるという点はホラーに限らず、コメディーやラブストーリーなど、すべてのジャンルに共通する。様々なジャンルがある中で、なぜホラーが良いのだろうか。

「一般的にホラー映画は、次に何が起きるのだろうかという『予測行為』をもとに、恐怖をかき立てる場面が多い。ホラーは視覚による出来事記憶のインパクトが強く、前のシーンで抱いた恐怖体験をベースに、次に何が起きるのだろうかと予測することで、不安や恐怖を感じるのです。この予測行為は、脳の働きを促すうえで非常に有効です」

加藤氏は、主に8つの機能に分かれた「脳番地」という概念を提唱している。目で見た情報を集積する「視覚系脳番地」のほか、聴覚系、感情系、記憶系、伝達系、運動系、思考系、理解系がある。前述の予測行為は、理解系の脳番地で保持された情報をもとに、思考系の脳番地が働くことでなされる。

「受け身の姿勢よりも、『次はこうじゃないか』といったように、自分で主体的に恐怖感を作り出す予測行為の方が、たくさんの脳番地を刺激するので効果的なのです」

「仲間に憑依」「テレビ画面から飛び出す霊」「死を招く携帯の着信」といったように、ホラー映画はあの手この手を使い、予想外の展開で恐怖をかき立てる。

「心霊現象をはじめ、人知を超える現象は、人間の想像力をかき立てます。ステイホームで生活がマンネリ化して刺激が乏しくなりがちな中で、ホラーは普段と違う角度から脳を刺激する。日常で使っていない脳番地を活性化させることができるので、認知症予防にもつながりやすい」

ただ、ひとたび認知症を発症してしまうと、予測行為や感情の働きが鈍くなり、ホラー映画を楽しむことが難しくなるという。

「つまり、ホラー映画が理解できるかどうかは、自分が認知症の症状を有しているか否かを判断する一つの指標になるでしょう。認知症が進むと、他者からの感情の受け取りができなくなったり、自分の感情が分からなくなったりします。定期的にホラー映画を見ることによって、自分がいま、楽しめているかどうかを意識してみると良いと思います」

ひと口にホラー映画といっても、作風や構成は千差万別。加藤氏は認知症予防に最適な「ストーリー構成」についても教えてくれた。

「ストーリー全体を通して、徐々に恐怖が高まっていくような構成であれば理想的です。同程度の刺激が続いても、脳は"変化がないもの"とみなしてしまいます。脳は『差』によって変化を感じるものなので、前のシーンよりも脳に強い刺激を与えないと、感情系が揺さぶられにくい。なので、冒頭から極度に強いインパクトがあるような作品は、その後のシーンで得られる刺激が弱まり、予防に期待できる効果も薄まってしまうと思います」

逆に、認知症が始まってしまった人には、ショック療法のような形で、短時間にインパクトの強いシーンが詰まった作品が理想的だという。加藤医師はこう続ける。

「認知症を発症してしまうと予測効果が働かないので、未来に対する恐怖を抱くことが難しい。『今』怖くないとダメなんです。なので、ビジュアル的に強い刺激を与える作品を選んだ方が良いと思います。そして認知症の患者さんには、初めて見る作品よりも、過去に見たことのある作品を勧めたい。ストーリーを理解できなければ、脳への刺激が生まれにくいからです。過去に好んで見ていたホラー映画があれば、脳には当時の記憶が残っています。 まずは既知の作品を見ることで、眠っていた記憶や楽しみ方を思い出してもらい、慣れてきたら新しい作品を見ていくのが良いと思います」

映画鑑賞が大の趣味だという加藤医師。これまで観てきた作品群をもとに、認知症予防に期待できるような「おすすめ」を挙げてくれた。

「名作で恐縮ですが、悪魔に取り憑かれた少女を描いた『エクソシスト』(1973/日本公開は1974年)です。少しずつ盛り上がっていく構成で、いつ来るのかという予測行為も働きやすい内容。ビジュアル的なインパクトもあります」

続いては、公開から30年が経つ、あの名作だ。

「ホラーというよりもサイコ・スリラーのジャンルですが、猟奇的な殺人鬼を描いた『羊たちの沈黙』(1991)も良いと思います。じわじわ盛り上がる構成も理想的ですし、常軌を逸した人間の狂気を表していて、自分たちの周りにもこういう人がいるんじゃないかといったように、自分の状況と重ねやすい。私の職業柄でしょうか、個人的には霊よりも、人間の脳が制御できなくなった時が一番怖いと思っています」

2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人、40年には4人に1人が認知症になると予測されている(厚生労働省試算)。誰もがなり得るリスクを抱えているが、ならないうちから神経質に構えるよりも、楽しみながら予防できるのであれば、それに越したことはない。巣ごもりが続きがちな今、自宅でホラー映画に浸ってみるのも良いのかもしれない。

(取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)

飯塚大和

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