コロナ禍のブロードウェイ俳優たち。演劇で学んだ「選択する力」が糧に

コロナ禍のブロードウェイ俳優たち。演劇で学んだ「選択する力」が糧に

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/11/23
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新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、来年5月まで劇場公演の中止が決まっているブロードウェイ。

これまで41の劇場で多くの作品を上演し、舞台関係者など約9万7000人の雇用を生み出してきた。その経済効果は、年間で148億ドル、日本円で1兆5500億円余りとも言われており、1年以上にわたる閉鎖の打撃は深刻だ。

長期の公演休止のなかで、俳優や舞台関係者たちは、いまどんなことを考え、どんな毎日を過ごしているのだろうか。

ブロードウェイの舞台で長年活躍している日本人俳優の由水南(ゆうすい・みなみ)さんに話を聞いた。

そもそも「明日はどうなるかわからない」のが俳優

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日本人俳優の由水南さん(中央)

新型コロナウイルスの感染拡大による舞台への影響は、今年3月に発表された「2週間の休演」から始まった。それが3度延長され、10月に来年5月末までの閉鎖が決まったという経緯がある。

由水さんによれば、「俳優たちは、大幅に延長された休演決定に激しく動揺したことは事実」。休演の間は、職を失うも同然だからだ。

この決定で職を失うことになったのは、もちろん俳優だけではない。ブロードウェイで活躍してきた専属の演奏家たちの中には、ショックのあまり数カ月間落ち込んだり、楽器のケースを仕舞いこんでしまう人もいたという。

さらに、ニューヨークのファッション地区には演劇用の衣装を作る店舗が40軒以上並んでいるが、劇場での公演がなくなってしまった今は注文が途絶えてしまった。

その他、脚本や舞台監督、振付家、音響デザイナー、照明デザイナーといった仕事に就いていた人々も、ブロードウェイという舞台が閉ざされたことで一斉に職を失うこととなった。

舞台という活躍の場がなくなってしまって、さぞ由水さんも落ち込んでいるのかと思ったが、返ってきたのは意外な言葉だった。

「休演の発表があった時、多くの人たちから失業を心配する声が届きました。しかしブロードウェイの世界は、もともと仕事の保証がありません。1つの公演が終わったら失業。奇跡的に仕事を得ても、万一怪我をしたら、翌日からの仕事はなし。怪我でオーディションが受けられない状況になれば、数カ月先まで仕事がないという状態が続きます。

私たちはいつも、『明日はどうなるかわからない』という緊張感の中で、1つ1つの仕事と向き合っているんです。ですから、周囲の人が心配するほどの打撃は受けていません」

俳優という仕事は、普段からそもそも保証がないものだと由水さんは言う。

アメリカの俳優たちの世界には、「エクイティ(全米俳優組合)」という組織が存在している。永住権をもった一握りの人間だけが入会を許されるこの組合の会員数は約5万人だ。

しかし、このエクイティに入れたからといって、仕事や給料の保証をされるわけではない。

大きな舞台に立てるのは組合員の上位2%。地方の小さな舞台などの仕事を得ることができる人は13%。一度も仕事を得られないまま、業界から去る組合員も珍しくはない。

組合外の俳優もいることも考えれば、その競争の熾烈さは想像を絶するものがある。

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「Power to choose(選択する力)」が可能性を広げる

コロナ禍前にはミュージカルを楽しむ人や観光客で賑わっていたブロードウェイ(Victor Cardoner/GettyImages)

毎年1万人が入ってきて、1万人が去っていく世界──。そんな場所では、そもそも仕事を得られること自体が奇跡なのだ。こうした事情を見ていくと、由水さんの言葉の意味もわかってくる。

「確かに休演決定後は、みな不安になったと思います。国立精神保健研究所(National Medical Mental Illness)の調査によると、アルコール中毒や薬物過剰摂取として報告された人は、3月からの6カ月間で約30%増えたと言われていますから。

私たち俳優も、仲間が落ち込まないように、24時間対応のホットライン(相談窓口)情報をシェアして互いを気遣い合いました。

ただ、演劇を学ぶ多くの人たちは、演劇学校のなかで『Power to choose(選択する力)』の大切さを刷り込まれて成長します。芝居の中では、登場人物がどのような選択をするかで、その役の人間像が変わっていく。役作りのプロセスに必要な考え方であり、俳優たちの生き方にも大きく影響しています。

私たち人間には「選択する力」が備わっており、その力に気づき、人生を舵取りすることで、周りに流されずにどのような道でも切り開いていくことができる。

今回のように、突然降りかかった困難は、全ての人に平等です。その状況のなかで、個人個人がどのような選択肢を選ぶかで、その人の本質的な強さや能力が浮き彫りになるのだと私たちは教わってきました」

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現在のTimes Squareは人もまばら(11月撮影)

そんな「変化し続ける力」をバネに、ブロードウェイの世界から離れて活躍する人たちもいる。

由水さんの友人にも、ニューヨークを離れて、地元でフィットネスやヨガ教室を始める人がいた。

さらには、不動産のセールスなど、舞台の世界とは全く違う場所へ飛び込んでいった人もいる。不動産業界では通常4カ月ほどの見習い期間が必要だと言われているが、優秀な俳優の中には、わずか数週間で独り立ちした者もいるそうだ。

「これまで熾烈な競争をくぐり抜けてきた、タフで努力家のブロードウェイ俳優たちの潜在能力に気づいたエージェントは、ブロードウェイ俳優を積極的に採用し、不動産のプロへ育成する会社まで出てきたそうです」

新しい仕事にキャスティングされる度に、何十人ものスタッフの名前を即座に覚え、文化や人種の違いを乗り越えて、強い絆を結んでいくのが俳優の世界。

そんな場所で揉まれてきた彼らは、初対面の相手と打ち解けるのも早くて話し上手という人が多い。そのコミュニケーション能力やここ一番のパフォーマンス力で、売りにくい家すら次々に売ることができたりするという。

不動産業界以外の場所でも、今までに培ってきた能力を発揮して活躍している俳優は多くいるだろう。

「悲しみに浸り続けるのではなく、今だからできることを追求する。厳しい労働状況のなかで精神力を鍛えてきたブロードウェイの仲間たちは、ピンチをチャンスに変える力をすぐに発揮したと感じます」

由水南(ゆうすい・みなみ)◎ブロードウェイ俳優。YUプロジェクト主宰(セミナー・サロン運営)。2002年に演劇を学ぶために渡米。07年に一旦帰国し劇団四季に3年間在団し、「ウィキッド」「美女と野獣」「鹿鳴館」に出演。09年に再び渡米し、15年に渡辺謙主演の『王様と私』でブロードウェイデビューを果たし、『ミス・サイゴン』『マイフェアレディ』などで活躍。オンラインサロン『YUサロン』やYouTubeチャンネルなど、独自のプログラムを通して、前向きに行動しチャンスを掴むためのツールを提供している。

変わるブロードウェイ #2に続く

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