沖縄県浦添市には昨年度まで、市内に7カ所の『子育て支援拠点(子育て支援センター)』がありました。それが今年度は4か所となり、さらに今月末で3カ所が廃止され、来月(新年度)から市内で1カ所のみとなります。代わって『認定こども園』をその受け皿として活用する方針です。
【写真を見る】「ライフラインが外される」なぜ?“98人中91人が反対”も子育て支援拠点を廃止へ
浦添市の松本市長は「点」から「面」への移行と表現していますが、国は子育て支援拠点を増やしていく方針であり、厚生労働省も「珍しいケース」とする浦添市の動き。保護者らの間にも戸惑いの声もあるようです。
母親「県外から来ているので、友達とか知り合いとかもいなくて、唯一、ここで色んな情報を教えてもらったりとかするところ」
母親「子どもが遊び相手がいなくて幼稚園入るまでは、どこかで遊ばせないといけないっていうのがあって、近くにこうやって遊ぶ場所がないと公園しかないので、お友達も出来るし」
浦添市の子育て支援拠点『ほるとの家』。平日は毎日開き、就学前の乳幼児を持つ親子の交流や、親同士の意見交換、さらに専任スタッフへの育児相談ができるとして、毎日のように通う親子も多く、「子育ての孤立・孤独」や「育児不安」の解消などにつながっています。
しかし、その子育て支援拠点をめぐって浦添市は、今月末で『ほるとの家』を含む、民間に委託している3つの施設を閉鎖し、来月から市が運営する大型商業施設の中の支援拠点1カ所のみにすることを決めています。
そして、その受け皿として24カ所の『認定こども園』が役割を引き継ぐとしています。
松本哲治 浦添市長「皆さんの経験を生かして、これからは、多くの近隣、こども園にシェアしていきたい。よりどこに暮らしてどこにおうちがあっても、近くで皆で支えていくという“点から面”に子育ての総合力をアップしていこうという趣旨でございます」
支援センターからこども園へ 受けられるメリットは減ってしまう?
これまでの支援拠点で行ってきた「点」から、すべての「認定こども園」で賄う「面」への移行すると表現した松本市長。来月からどのように変わるのか現行の「子育て支援拠点事業」と、4月以降の「認定こども園」による事業を比較してみると、厳密に実施内容が義務付けられている支援センターとは異なり、こども園では日々の業務をこなしながら行うため、多くは園の裁量に任されています。
認定こども園では、交流の場の提供とありますが『園庭のみの提供』のところもいくつかあります。こうした場合、低月例の子を持つ親にとって、園庭ではまだハイハイして遊ばせられなかったりもしますので、スペースの確保も求められます。
また週に5日以上開いている支援センターに対し、認定子ども園は週に3日以上です。支援センターとは違い、午前のみの所や2時間だけなどといった、時間制限が設けられていたり、予約が必要なところも多くあります。
支援センターは、「専任スタッフ」に対し、認定こども園では、主に「主幹保育教諭」が担当します。普段の業務をこなしながらなので、保護者からは「先生が忙しそうで、相談しづらい」といった声も聞かれました。
認定こども園24か所のうち、11カ所が小学校に併設され、駐車場がないところも多くあるなど、比較してみると『こども園』に移行されることで、享受できるメリットは減っている印象があります。
ただ市は、駐車場の確保や、閉まる曜日がそれぞれの施設で重ならないよう、教育委員会とも連携を密にし、施設の特色を生かした体制づくりを行っていると話しています。
「産後うつや虐待の恐れ」支援拠点の閉鎖に保護者の悲鳴
支援拠点を利用する金城さん「私も第一子だし、周りに全然小さい子がいなく未知の生き物だったので、ここに来て他の子と一緒に遊んで、同じ月例の子を見たりとか先生にも気軽にお話、誰かにちょっと話したいっていう時に気軽に話せることで、緊張とか張り詰めたようなことが、解消出来ている気がします」
10カ月のあかりちゃんの育児に奮闘する、金城ひかるさん(32)。子育て支援拠点には3カ月の頃から週に3日以上通っています。気軽に意見交換や相談ができる、通い慣れた子育て支援拠点、金城さんは突然の廃止を知り戸惑いを隠しきれません。
金城さん「せっかく、こういったところがあって、じゃあ第二子、第三子、家族が増えると楽しそうだなって思っていたのに、支援センター(支援拠点)がなくなるってなると、思い描いた家族計画も悩むようになっちゃうので、とても残念な気持ちです」
先月行われた、子育て支援拠点に通う利用者を対象にしたアンケート。98人中91人が、「納得できない」と答えていて、廃止になった場合「産後うつに陥るのでは」ないか、さらには、「虐待する恐れが出てくる」などといった切実な声が多くあります。
今後、市外の拠点事業に通うといった意見や外出を諦めるといった意見も。アンケートに目を通した市長は、一貫してこう答えています。
松本浦添市長「3つの拠点支援事業に頼ることなく、地域と連携しながら、今通っている保護者の皆様にもより地域のいくつかの事業所に顔を出して頂き、新たな子育ての支援を得ることも検討頂きたいということでございます」
市の新たな方針に対し、子育て支援拠点を運営する事業者はこう話します。
ほるとの家 平安常治理事長「残してほしいって声が大きいなかで、廃止ありきで話が進んでいるっていうのは、すごく残念なことだなって思います。認定こども園が今やっている以上の子育て支援を求められると負担が出てきたり、在園児にしわ寄せがきたりとか、少し危惧するところはあります」
松本浦添市長「我々は、この4月子育て拠点センター(支援拠点)を一旦終了し、これから点から面への展開する方向性について今変更するつもりはございません」
厚生労働省も「珍しいケース」とする浦添市の方針。県内で子育て支援に関わってきた専門家はー
「ライフラインを外されることに匹敵」専門家が鳴らす警鐘
一方、市の方針について、30年間拠点事業に携わって来た『沖縄・地域子育て支援センター連絡協議会』の石川キヨ子会長は苦言を呈しています。
沖縄・地域子育て支援センター連絡協議会 石川キヨ子会長「点だからこそ見えてきたものが、面になってくると薄まっていって、本音の部分が見えてこなくなってくる可能性があって、重たい事例をほっとかれると困るなと」
さらに、「子育て支援拠点事業」の役割の大きさを指摘します。
石川会長「すでに、ライフラインと言っても良いと思うんですよね。子育て支援拠点事業っていうのは。子育て支援センター(支援拠点)に行けばなんとかしてくれる、先生達聞いてくれるという思いが、人々のなかに浸透しているところで、それをなくすってことは、ライフラインを外されるってことに匹敵するのではないかと考えています」
金城さん「子育て支援センター(支援拠点)があるから、日々の生活をやっとまわせていけるっていうような、通常の流れに持っていけるためには、支援センターがないと疲れちゃうし、何もできない、何もできないから子どもにも悪いなっていう気持ちにもなっちゃうだろうし、今後心配ですね。今後も利用者である親と子に寄り添ったサポートを模索し続けて欲しいです」
こうした中、厚生労働省では子育て支援拠点事業を年々増加させていく方針で、現在は7856カ所としていますが、2024年度末までに1万200カ所に増やしていく方針だということです。
厚生労働省でも「全国でも浦添市のこの事例は珍しいケース」だとしていて、利用者と事業者に理解してもらえるよう丁寧な説明をして欲しいとしています。