製鉄所閉鎖、シングル家庭、介護職員...「格差是正」政策に何思う

製鉄所閉鎖、シングル家庭、介護職員...「格差是正」政策に何思う

  • 毎日新聞
  • 更新日:2021/10/14
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日本製鉄の製鉄所閉鎖に伴う求職者に特別相談窓口を設けているハローワーク呉=広島県呉市西中央1で2021年10月13日午後2時48分、中島昭浩撮影

衆院が解散され、19日公示、31日投開票の衆院選に向けた論戦が本格化する。「成長」と「分配」を巡る各党の政策が争点の一つになり、与野党ともに格差是正を実現する具体策と本気度が問われそうだ。経済的に苦しい状況にある各地の有権者に話を聞いた。

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岸田氏の地元広島 冷え込む「鉄の街」

「今月の給料が最後なんよ」。岸田文雄首相の地元広島県のハローワーク呉(呉市)に通う50代男性はため息をついた。かつて戦艦大和も建造された「鉄の街」。地域経済をけん引してきた日本製鉄の製鉄所は9月末に高炉を停止し、2023年に閉鎖となる。協力会社も含め約3000人の従業員の半数が配置転換や再就職を迫られる。男性もその一人だ。

協力会社の運転手として11年間、鋼材などの運搬作業をしてきたが、高炉停止に伴い会社都合扱いで退職した。転職先が見つからなければ世帯収入は妻の給与のみになる。岸田首相は「令和版所得倍増計画」などを掲げるが、男性は「所得がゼロなのに倍になるわけがない」。製鉄所閉鎖が決まった昨年2月から職探しを始めて、もう1年半以上になる。「政治に期待することはない」。与野党の現実味のない論戦では男性の心に響かない。【中島昭浩】

ワンオペ育児「生活理解を」

兵庫県内で3歳の長男を一人で育てる女性(40)は「シングル家庭のしんどさやリアルな生活を理解して政策につなげてほしい」と政治に求める。夫と3年近く別居の末、9月に離婚し、大阪府内の高齢者施設で調理補助のパートをして生計を立てる。父母など頼れる人がいない土地での「完全ワンオペ育児」のため、1日4時間、週4日の勤務に抑え、子育ての時間を確保する。

時給は最低賃金の992円。手取りは月6万~7万円で、食費は月2万円以下に抑える。スーパーでは見切り品を買うのが当たり前。長男の服はお下がりでまかない、自分の服も一切買わない。「削れるところを削って教育資金に残したいが、子育ての喜びよりも不安の方が強い」と明かす。

元夫から養育費を受け取れるかなど先行きは不透明だ。「子育ては無償だけど社会の担い手を育てる大事な仕事。実態に光を当ててほしい」と訴える。【野口由紀】

介護施設「待遇改善の財源は」

岸田文雄首相は8日の所信表明演説で、「分配戦略」の一つの柱として介護職員らの収入を増やすと述べた。厚生労働省が毎年行う調査によると、昨年6月分の介護職員の平均給与は約25万円だった。改善傾向にあるものの、全産業の平均よりまだ約8万円低い。

東京都内の介護施設で約15年働く男性(45)は「安倍・菅政権で生活が良くなった実感はない」と話し、貯金も十分にできず将来に不安を抱く。待遇改善には国が介護報酬を上げる必要があり「岸田首相はどう財源をひねり出すつもりなのか」と首をかしげる。北海道北見市の施設で働いて6年目の杉田彩さん(23)は、給料の良い他の仕事を求めて去って行く同僚を見てきた。人手不足は深刻で「戦場のような忙しさだ。自分も辞めたいと思う時がある。待遇を改善するにしても、期待外れにならない金額でお願いしたい」と訴えた。【土江洋範】

「アベノミクス」で格差拡大

2012年に発足した安倍政権が掲げ、菅政権に引き継がれた経済政策「アベノミクス」によって富裕層と中低所得層の所得格差は広がったとされる。

日銀の大規模な金融緩和などによる株価の大幅な上昇に伴い、金融資産を多く持つ富裕層は潤った。野村総合研究所の推計では、純金融資産保有額が1億円以上の富裕層は13年から増え続け、11年に81万世帯(純金融資産188兆円)だったのが、19年には132万7000世帯(同333兆円)に膨らんだ。

一方、厚生労働省の「毎月勤労統計」によると、物価動向を加味した実質賃金(年平均)が前年より上昇したのは12年以降、16、18年の2度しかなく、15年を100とした場合、20年は98・6に低下している。

同志社大の服部茂幸教授(経済政策)は「アベノミクスのもとで就業者が増えて最低賃金は上昇したが、賃金水準の低い非正規労働者の割合が増しており、就業者全体の就業時間は12年と比べて横ばいだ。経済界に賃上げを迫ったもののその上昇幅もわずかだった」と指摘する。

その上で、衆院選に向けて「与野党を含め『格差是正』という方向性を打ち出したことは評価できる。だが、岸田文雄首相が総裁選で掲げた株式譲渡益などにかかる金融所得課税の強化について早期の見直しに慎重な姿勢を示すなどしており、具体的な政策の中身を有権者がしっかり見極める必要がある」と話している。【関谷俊介】

毎日新聞

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