
夫に家事をやってもらう方法とは?(Ph/photoAC)
夫婦の間にたちはだかる高くて厚い「壁」――。特にコロナ禍によってさまざまな“夫婦の壁”が浮き彫りになったといいます。そのひとつが在宅によって増えた「夫婦の時間」をきっかけとしたトラブル。家事を手伝わない夫に、妻が不満を持つケースもあるようです。新刊『夫婦の壁』で、「壁」の実態とそれを乗り越える方法について解説している、脳科学コメンテイター・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんが、夫に家事をやらせる方法を解説。同書の中から一部抜粋して紹介します。
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【相談】夫が在宅勤務で家事の負担が増。夫に家事をやってもらいたい!
「コロナ禍で私も夫も在宅勤務になり、食事の支度はもちろん、部屋も散らかるため家事が増えました。もともと、夫は家事をやってくれないタイプでしたが、 日中家にいるので少しはやってくれないと、私の負担ばかり増えて疲れ果ててしまいます。私は仕事と家事をしているのに、夫は私がちょっと手伝いを頼んだだけでも、『仕事中だから無理』と言って聞いてくれません。家事をまったくやらない夫にやってもらうにはどうしたらいいでしょうか」(50歳・会社員)
【回答】家事の総体を知らせてから、分担を頼む
このかたの夫は家事をなめていますね。まずは、家事の総体を、こと細かく知らせることが大事です。たとえば、「洗濯」と一括りにするのではなく、「洗濯物を仕わけする」「洗濯機を回す」「干す」「取り込む」「洗剤の在庫管理」「洗剤を買う」といった具合に、やることを全部書き出してみましょう。ケースで述べたように、その日の「家事の時間割表」を作って貼り出すのも、いいですよ。
実は、私も著書の執筆のために家事を細かく書き出したことがありますが、多すぎて掲載できませんでした。家事は、それくらい大変なことなんです。夫に家事の総体を知らせて、「そのうちのこれだけをあなたにやってもらいたい」と伝えてみましょう。
察して動くことができないのが男性脳
たとえば、150個あるうちのせめて30個を担当してほしいということがわかれば、夫は手伝ってくれる可能性が高まります。男性脳は、全体像を把握し、そのうちのどれが自分のミッションであるかが、はっきりわかるとしっかりやります。ところが、「私はこんなに大変なのに、どうしてあなたは何もしてくれないの!」と感情論で迫っても、「俺も忙しい!」と返されてしまうのがオチ。

「お昼、何?」が妻のストレスに(Ph/GettyImages)
男性脳は、ことを「気持ち」では測らないので、数や正義で交渉するしかありません。「私も大変」を理解させるには、ときには破綻してみせることも大事です。どうにもお昼を作れなくて、「冷凍のグラタンあるからチンして食べて! 私はお昼抜くから」みたいにパニックになってみせるのです。で、もしも「お昼をいい加減にするのはだめじゃないか」なんて責められたら、こっちのもの。「そうなの。私もちゃんとしたい。ねぇ、週に2日でいいから、あなたがお昼の担当になってくれない? 冷凍ピザでも、レトルトでもいいから担当してほしい」と頼んでみましょう。ネガティブなことを言われたら、イラついて反論するのではなく、「そうなの、困っちゃう。お願い、あなたもなんとかしてくれない?」と頼ります。私は、これを「頼り返しの術」と呼んでいます。
「お昼、何?」に妻は絶望する
家事が増えることは妻にとって大きな負担となりますが、ストレスの原因はタスクの量だけではありません。「お昼、何?」のように丸投げしてくることばにやられてしまうのです。「お昼なんか、当然、お前の仕事だ」という威圧を感じ、思いやりのかけらもないその態度に、絶望していきます。さらに、こういう言い方をする夫は、昼食が出来上がって呼ばれてから、のうのうとリビングにやってくる。食器を運んだり、調味料を出したり、コップにお茶を注いだりすることもなく、黙って食べ始めます。妻を、社員食堂のスタッフほどにも認知していない。当然、妻の心の中で、愛情ポイントが消えていきます。毎日毎日、けっこうな量ポイントが失われていくのを、夫はまったく感知していない。私には、ホラー映画の始まりのシーンにしか思えません。くわばら、くわばら。
実際に食事を作るのが妻であったとしても、3回に1回くらいは、自発的に昼食に参加するのが共に暮らす大人のマナー。「今日、蕎麦はどう? 俺が茹でようか」「散歩がてら弁当買いに行くけど、お前は何がいい?」などと聞いてあげてほしいと思います。タスクそのものの軽減も重要ですが、もっと大事なのはことばです。
男性の「どうする?」は実はおもてなし
ただ、女性にも理解してほしいことがあります。女性からしたら本当に思いやりのカケラもない男性の行動ですが、これも脳が関係しています。女性は、大切な友人が来てくれたときに、「何食べる?」とは言いません。「あなたに食べさせたいイタリアンがあるから、そこのランチに行かない?」と声をかけます。女性にとって、“提案はおもてなし”だからです。ところが、男性にとっての提案は、自分の意見を相手に言って、相手が従うかどうかを確認する行為。ですから、「どうする?」「何にする?」と聞くこと(相手に全権を預けること)が、実は一番のおもてなしだと思っているのです。
つまり夫が「お昼、何?」と聞いてくるのは、本当は「きみが一番楽なやり方でいいよ」という意味。女性からするとそうは聞こえませんが、機嫌のいい女でいるためには、夫のことばを深読みしないというセンスも必要です。
◆著者:人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子

人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子
1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、”世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)『思春期のトリセツ』(小学館)『60歳のトリセツ』(扶桑社)など多数。