瀬戸康史が語る笑い「しんどくなったら、やめることも大切だと思う」

瀬戸康史が語る笑い「しんどくなったら、やめることも大切だと思う」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/11/22
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「おはようございます」で始まるTwitter

瀬戸康史さんのTwitterは、「おはようございます!」という一言から始まる。その後にまた何かを呟く日もあれば、そのSNS上での朝の挨拶だけで終わる日もある。彼のTwitterをフォローしている人は、その一言が、今日という日の“はじまりの合図”になっている人も多いだろう。

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2020年11月20日の瀬戸康史さんTweet @koji_seto0518

まだ福岡に住んでいた2005年3月、福岡県西方沖地震を経験した。16歳の高校生だった彼は、大切な人たちと連絡が取れなくなるという恐怖や不安を体験した。その時、多くの人に助けられたこともよく覚えている。

6年後の2011年、東京で俳優として活動する中、東日本大震災を経験した。明日に希望が持てない人に向けて、「表現者として今の自分に何ができるだろう?」と考えた。地震の時に、たくさんの人たちに助けられた。次は自分がなる番だと思った。Twitterというツールに出会い、「今日もちゃんと朝を迎えられた喜びを感じてほしい」「希望のある1日にしたいし、してほしい」という思いを込めて、「おはようございます!」と呟くことにしたという。たった一言だけれど、毎日、毎日。その透明な善意は、コロナ禍に喘ぐ人々にも、ほんの小さな、でも大切な希望をくれる。

5月に、シアターコクーンで上演されるはずだった舞台『母を逃がす』が中止になった。本当なら、この公演中に、瀬戸さんは32歳の誕生日を迎えるはずだった。

「とても残念でしたが、こればっかりは、“しょうがないな”という感じでした。僕らだけじゃなく、世界中のエンタメがストップした時期だったので……。2月の末に、倉科カナさん主演の『お勢、断行』という舞台のゲネプロ(※通し稽古)を観に行ったんですが、それは、ずっと稽古をしてきたのに、直前で中止が決まってしまった舞台でした。カーテンコールの後で、倉科さんが泣いている姿を見て、『悔しいだろうな』って思った。『母を逃がす』は、21年前に大人計画で上演された作品でしたし、まだ稽古には入っていなかったので、ダメージは少なかったほうだと思います。もちろん、『やりたかったな』と、処理しきれない無念、モヤモヤみたいなのはありました。けど、どうにもできないし、受け入れるしかなかった」

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撮影/山本倫子

瀬戸康史 Koji Seto
1988年5月18日生まれ。福岡県出身。2005年俳優デビュー。映像や舞台などで幅広く活躍中。最近の主な出演作に、NHK連続テレビ小説『あさが来た』『まんぷく』、民放ドラマ『海月姫』『デジタル・タトゥー』『私の家政夫ナギサさん』、NHKドラマ『透明なゆりかご』映画『ミックス。』『寝ても覚めても』『事故物件 恐い間取り』、舞台『関数ドミノ』『ドクター・ホフマンのサナトリウム ~カフカ第4の長編~』などがある。現在、フジテレビ木10『ルパンの娘』に出演中。

自粛期間中に立ち上げたイラストYouTube

過去の経験の中で、ピンチの時の“学び”を力にする術を知っていたからだろうか。外出自粛期間中は、「舞台ができなくて悔しい」とか「この長いトンネルはいつまで続く?」といった身に起きた不幸を嘆いたり、自分を追い詰めたりするのではなく、持て余した時間はすべて「今自分にできること」に集中することにした。

「僕は、幸運にも表現する仕事に就けていて、『おはようございます!』もそうですが、些細なことでも何でも、自分から何かを発信することができる。だったら舞台に向けるはずだったエネルギーを、違うものに向ければいいじゃん、と思ったんです。それで、絵を書くのが趣味なので、TwitterYouTubeに自分の描いたイラストを投稿することにしました。子どもの日は、自分が小さい頃、よく家で塗り絵をしてたことを思い出して、自分の線画に塗り絵風に絵を塗ってみたり、そこから、次は僕のイラストを楽しんでもらえた人向けに、原画というか下絵も投稿して。ついには、原画をプリントアウトをしないで済むように、塗り絵の本まで作って発売させてもらいました」

その“絵を描いて発表する”という一連の行為は、ファンの人たちに喜んでもらいたいという気持ちもある一方、瀬戸さん自身の精神衛生上必要な行為でもあった。

「絵を描いていると、無心になれるんです。たまに、気づいたら6時間ぐらい経っていることもあって(笑)。時間を忘れて没頭できることって、あんまりないじゃないですか」

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撮影/山本倫子

三谷幸喜さんの「笑い」とは

自粛期間が明け、ドラマなど、映像の仕事が再開した。7月からは、徐々にだが、劇場のあかりも灯りはじめた。コロナになるずっと前から、2020年冬は三谷幸喜さんが演出する舞台に出演が決まっていた瀬戸さんは、PARCO劇場で三谷さんの手がける舞台『大地』を鑑賞した。

「『大地』で、久しぶりに役者さんたちが汗とか涙を流しながら演じている姿を見て、『俺も舞台で、あんな風に、夢中なって役を演じたいな』って思いました。特に、『大地』は役者さんたちの話だったので。“演じたいのに演じられないジレンマ”みたいなところが、切実に胸に迫ってきました。あと、今度僕が出演する『23階の笑い』は、原作を書いたニール・サイモンの自伝的な作品と言われているだけあって、エンタテインメントの裏側、のようなものが描かれている。丁々発止のコメディですが、『大地』の、なぜ自分たちは舞台に立つのかと、『23階〜』のなぜ自分たちはコントを作るのかという、作り手の大義に触れる部分は、少し共通しているような気がします」

現在30代前半で、ルックスのみならず演技の面でも認められている若手俳優で、舞台経験のない人はまずいない。瀬戸さんしかり。デビュー後から、河原雅彦さん、前川知大さん、白井晃さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんら、個性的な演出家とタッグを組み、着実に舞台人としても力をつけてきている。
『23階〜』は、これまでシリアスな舞台にばかり駆り出されてきた彼が挑戦する初のコメディ作品だ。

「人を笑わせるのって、お芝居の中で一番難しいんじゃないかとずーっと思っていて。かといって、あまり苦手だとか難しいなとは思いたくはない。舞台は生モノなので、演じ手や作り手が楽しくないと、お客さんにもその空気が伝わらないと思うからです。だから、常にハッピーな気持ちで取り組んでいきたいし、“楽しもう”というテンションを維持していたいな、と思います。

三谷さんのお人柄もあり、今のところ、稽古場の雰囲気はほんわかしています(笑)。僕、三谷さんとは、お会いするのもこの作品が初めてだったんですが、今は、すごく愛のある人なんだなと感じていて。三谷さんの大好きなアメリカの脚本家ニール・サイモンの戯曲を演出することもあって、脚本に対する愛もすごいし、役に対する愛もすごい。もちろん、僕ら演者に対する愛もたくさん感じています。実際に演出を受けてみてはじめて、三谷さんの作品を観たときに、役者がみんな生き生きしている理由がわかりました。作品に関わる全てのものに、あれだけの愛情を注いでいるからこそ、お客さんたちも笑うし、泣くし。感情が震えるのは、つまりそういうことなんだって」

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撮影/山本倫子

エンタメに触れるときは、現実逃避してほしい

未来を担う有望な若者――。彼との対話は、この暗いコロナ禍にも、まだまだたくさんの光が射すような、そんな予感を抱かせてくれる。でも、瀬戸さん自身は、未来のことはあまり考えないほうらしい。

「だって、何が起こるか分からないじゃないですか。役者なんて、いつ、仕事がこなくなるか分からないバクチみたいな世界ですし(笑)。だから、続けていられれば幸せかな。60になっても70になっても続けられたらいいな。それはずっと思っています。
作品や役は巡り合わせなので。『この演出家とやりたい』とか『この人と共演したい』というイメージはそんなに持たないようにしています。あとは、なるべくなら、自分が演じている姿があんまり想像できない役を優先させたい思いはあるかな。自分の中に、ある程度の壁というか、超えるべきものを作っておきたいので」

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撮影/山本倫子

超のつく小顔に、整った目鼻立ち。童顔なのに、声はなかなか渋い低音。表面的な部分でも、いろんなギャップを持つ彼は、内面にも、ピュアな矛盾をはらんでいる。役を演じるときは、毎回壁を乗り越えようと奮闘しているはずなのに、「でも、それも無理してやることではないと思いますけど」とサラッと呟いた。

「どんな仕事もそうだけど、頑張りすぎてしんどくなったり、自分が壊れそうになったりしたときは、休むなり、やめるなりした方がいいと僕は思います。僕がこの仕事を続けられているのは、シンプルに好きだし、楽しいから。あとは、芝居を通して、いろんないい人たちと巡り合えている。そういう意味では恵まれているし、ものすごく幸せな人間だと思います」

これも見た目からくる勝手なイメージだったのかもしれない。「繊細なんじゃ?」とか、「ストイックなんじゃ?」とか。たぶん、そんな葛藤は当たり前に経験し、今の彼は、「今自分にできること」に、彼らしいエネルギーで、誠実にまっすぐに取り組んでいる。
「エンタメに触れるときは、できることなら現実逃避してほしい」と彼は言った。

「テレビとかドラマとか、映画でもなんでもいいんだけど、お客さんが感じている、どこにぶつけていいのかわからない、モヤモヤとか怒りを、作品を見ることによって、少しの時間でも忘れられたり。僕は、エンタメって、そういうものであればいいなって思うんです。『23階の笑い』は会話劇なので、たぶん毎回、頭の中をフル回転させて、必死で目の前の相手とやり取りすることになると思います。それって、ステージに立っている全員が、一つの作品に夢中になっている場所で、お客さんも、そこで想像力を膨らませることができる。巨大な非日常空間だと思うんです。だから、現実逃避にはもってこいです! タイトルに“笑い”って入っているからには、笑いもいっぱい起きるだろうし。人って、笑ってるときは無心ですもんね」

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『23階の笑い』

23階の笑い
アメリカが誇る20世紀最大の喜劇作家ニール・サイモンは、2018年に91歳でこの世を去ってからもなお、長く愛されている喜劇界の巨星である。1993年ブロードウェイ初演、96年には英国ウエスト・エンドで上演された『23階の笑い』を、彼を敬愛する三谷幸喜が演出。
時は、マッカーシズムに揺れる1953年。社会は混迷する政治や人種差別など、様々な問題に溢れていたが、テレビ業界は熾烈な視聴率競争の真っ只中。闘いの中心は、生放送のバラエティショーだった。ニューヨークの五番街と六番街の間にある高層ビル23階の一室で、冠番組「ザ・マックス・プリンス・ショー」を持つ人気コメディアン、マックス・プリンス(小手伸也)と新入りライター・ルーカス(瀬戸康史)、そしてマックスの才能を愛し、彼のためにコントを書き、彼に認められたいと願う個性的な放送作家は、連日コント作りに没頭していた。ところが、大衆受けを望むテレビ局は、政治的な話題まで番組に織り込むマックスたちのやり方が気に入らず。厳しい要求を突きつけてきた――。

出演:瀬戸康史、松岡茉優、吉原光夫、小手伸也、鈴木浩介、梶原善、青木さやか、山崎一、浅野和之
作:ニール・サイモン
翻訳:徐賀世子
演出・上演台本:三谷幸喜

公演期間:12月5日(土)〜27日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
http://www.siscompany.com/23f/gai.html
11月22日(日)よりチケット発売開始

スタイリスト 田村和之 ヘアメイク 小林純子

ジャケット:62000円 パンツ:39000円 ともにETHOSENS(エトセンス)
問い合わせ先:エトセンス オブ ホワイトソース 03-6809-0470
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