ロペスはただの“助っ人”じゃない......ベイスターズを去る「背番号2」が教えてくれたこと

ロペスはただの“助っ人”じゃない......ベイスターズを去る「背番号2」が教えてくれたこと

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/11/21

あれはいつくらいのことだったか。たぶん、まだ保育園に通っていた頃の次男が、自宅にあったホッシーパンチを狂ったように打ち鳴らしながら興奮ぎみに言っていた。

「ママ! ほら! ロペスの音がする! ロペスの音がする!」

あの時彼が言っていた「ロペスの音」とは何だったのか。ふと気になって、小学生になった本人に聞いてみたが、全く憶えてないらしい。何が聞こえたの? ホッシーパンチから。

何なの? ロペスの音って。

あの時、ロペスはどんなことを考えていたんだろう

2020年10月31日。ビジョンに映し出されたロペス。その目には涙が光っていた。外国人選手史上初となる日米での1000本安打達成。セレモニーで、コロナ禍で離れて暮らす家族から、MLB時代の同僚から、同じベネズエラ出身の英雄、オマー・ビスケルから、そしてメジャーリーガー筒香嘉智からこの偉業を称えるメッセージが流れると、やわらかな笑顔で泣いていた。いくつものホームランを打ち、いくつものボールを受け止めてきたその大きな手で、涙を拭い、ファンに向けてスピーチする。

「このベイスターズでは6年間、いつもいつもスタジアムをいっぱいにしてもらえて、今年は大変な年ではあったのですが、今日のようにみなさんに来ていただいて、ありがとうございます。そしてベンチにいるチームメイトのみなさん、寒い中最後まで付き合っていただいて本当にありがとうございます」

結果的にロペスの、あれが最後の「I love YOKOHAMA」だった。

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ロペス

2019年8月18日。横浜スタジアムでの広島戦のスタメンにロペスの名前はなかった。私はその日満員みっちみちの1塁側内野席から、背番号2のいないファーストベースを見ていた。夜になってもちっとも涼しくならない8月のハマスタ。九里亜蓮投手の前に為す術もないベイスターズ。0−0、両サイドみっちみちでむっしむしのイッライラの中で、7回、途中出場のロペスが打席に入る。

祈りのようなロペスコールがハマスタを包む。この日全員等しく苦しめられていた九里投手のチェンジアップ、初球だった。ロペスのホームランはいつだって滞空時間が長いから、ファンは歓喜の瞬間までの、世界で一番幸せな焦らしをいっぱい味わえるんだなと思った。ずっと前から決まっていたように、ロペスの打球はレフトスタンドに吸い込まれ、みっちみちでむっしむしのスタンドからイッライラだけが飛んでった。

スタメンを外れていたのは、本調子じゃなかったからかもしれない。しかしロペスはたった一球で、ハマスタの空気を変えた。それは「あきらめるな」と伝えているようにも見えた。

ロペスはただの「助っ人」なんかじゃない

2018年、ベイスターズはそれまで2年連続で出場していたCSの道を断たれた。ベイスターズの戦いを記録したドキュメンタリーフィルム『FOR REAL』は、他のどの年よりも鬱々として、生々しかった。多くの選手が同時に壁にぶつかった。リリーフに失敗した守護神をカメラが追う。作り手としては是が非でも押さえておきたいシーンだったのだろう。その時ロペスが、いつもは優しく穏やかなロペスが声を荒げた。「カメラを止めろ!」「ヤスアキの気持ちを考えろ!」。緊迫した空気が画面上からも伝わってくる。取材中に怒られた自分に置き換えて、私まで震えた。

『FOR REAL』監督の辻本和夫さんはのちのインタビューの中でこう話していた。「翌日ロペスから『昨日は厳しい言い方をして悪かった。撮影することはあなたの仕事だとわかっているし、記録することはリスペクトしている』と、声をかけられた」。自分以外の誰かのために怒ることは難しい、そして自分が発した怒りを振り返り謝ることはもっと難しい。ロペスはただの「助っ人」なんかじゃないと、今まで考えないようにしていた「ロペスがいなくなったらどうなってしまうんだろう」という不安が頭をもたげた。

……本当はずっと前からそうだったのだ。2017年5月の中日戦で、ストライク判定に納得いかない梶谷が球審に詰め寄る。何を言ってるかはわからないけど、カジと球審の距離はどんどん近くなり、ついに球審がマスクに手をかけた。その時どこからともなくやってきた。ロペスだ。二人の間にさりげなく入り、梶谷を自然とその場から逃がす。ロペスにしかできないことだ。キャプテン筒香とも違う距離感で、いつもチームメイトを見ているロペス。

2016年のCSファイナルステージ敗退が決まったロッカールームで、泣きじゃくる先発今永を慰めていたのもロペスだった。「この1年間、いい投球をしてきたんだから。この試合のことは忘れなさい」。「頑張れ」でも「泣くな」でもなく「忘れろ」とロペスは言った。おそらく今永はこの試合を一生忘れない。それが分かっているから、ロペスはそう言ったんだと思った。

ロペスの音は。

ロペスの音を鳴らすのは……

2015年「ベイスターズのような強いチームに来られてうれしい」と入団会見でロペスは言った。12球団中一度もCSに進んだことのないベイスターズを「優勝が狙えるチーム」とロペスは言った。あの時おそらく多くのファンが思った。「それはさすがに盛りすぎでは」と。

でもあれはリップサービスでもなんでもなかったのだ。自分が来たからには強くなる、強くする。そういう決意の言葉だったことを、野球に取り組む姿勢や結果でロペスは私たちに知らしめた。

ロペスがなぜ退団するのか、本当の理由を私は知らない。だけどもし、常にファーストベースを守りたいというロペスと、球団の考えが一致しなかったのなら、それは全てロペスが作ったことだ。選手たちはみんなロペスを見て育った。ロペスがレギュラーを追われたとするなら、そのロペスを見て育った選手たちが今、チームの中心となってベイスターズを支え始めたということだから。ロペスが目指した「ベイスターズのような強いチーム」に近づきつつあることの、それは証だから。

そしてロペスは「ここで野球のキャリアを終えたい」というほど愛してくれた横浜の地を、自分の望む野球スタイルを貫くために離れる。簡単な安住に妥協しない、野球に対してはずっとチャモ(少年)で、エゴイストで、そういうロペスだからみんなロペスに憧れる。かっこいい。かっこよくて、さみしい。

98年にハマスタに鳴り響いていた、ホッシーパンチの音は、優勝の音だ。ロペスの音は、優勝の音。これから選手たちが、ロペスのあの日の言葉が正しかったことを証明する。そしてロペスはきっとまた別の球団を強くするだろう。入団会見で「巨人にいたことは過去のこと」と言ったロペス。ベイスターズもいつか、ロペスにとって「過去のこと」になる。そうなった時、初めて私はロペスに「ありがとう」と言えるのかもしれない。ロペスの音を鳴らすのは、これからのベイスターズ。

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(西澤 千央)

西澤 千央

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