終戦直後、焦土と化した日本に、巨大怪獣「ゴジラ」が突如現れ、蹂躙する。戦争を生き延びたばかりの名もなき人々に、生きて抗う術はあるのか。ゴジラ70周年記念となる本作『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』。監督・脚本・VFXを務めるのは山崎貴。主演に神木隆之介、浜辺美波を迎え、山田裕貴、青木崇高らが共演する。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督に、本作品やVFX、映画への思いなどを伺いました。

自分でハードルを上げていた『シン・ゴジラ』の次のゴジラ映画
池ノ辺 観ました。監督が本当に楽しそうに、やりたいことをやっているというのが、映像を通してこちらにも伝わってきました。このゴジラ映画も、最初はやはり製作の市川南さん(東宝株式会社 取締役専務)からお話があったんですか?
山崎 結構前から話の流れで、「次は山崎さんどうですか」というのはあったんですが、今はまだできないかなと、機が熟すのを待っていたら、その間に『シン・ゴジラ』が出てきてしまって‥‥。
池ノ辺 先にやられちゃったと(笑)。
山崎 『シン・ゴジラ』はかなり面白い、まずいことになったなと思ったんですけど(笑)、でもそんな面白いゴジラを目の前で見せられて、モチベーションはかなり上がりましたしゴジラにはまだまだ無限の可能性があるなと思わされました。そう思っていたところに、今度はガチのオファーで、市川さんから、次、行きますかと話があったんです。

池ノ辺 喜んで引き受けられたんですね。
山崎 喜んだ自分と「マジか!」という自分がいました。
池ノ辺 それはプレッシャーから?
山崎 というより、「このタイミングかよ」という感じですね。これはいろんなところで話してるんですけど、『シン・ゴジラ』が出たときに、自分はチラシにコメント残していて、それが「次にやる人のハードルはとんでもなく上がった」というものだったんです。それがブーメランで自分のところに帰ってきたという(笑)。


何もないところで、人は生きるためにどう抗うのか
池ノ辺 今回の時代設定は、どう決めたんですか。
山崎 昭和時代というのは最初から思っていて、というのも僕は初代のゴジラが好きなんで、ああいう画を作りたいというのがありましたから。それでいろいろ考えているうちに、敗戦直後の、兵器が何もないときにゴジラが来てしまったら、人はどうやってゴジラに抗うんだろうか、という設定が面白いと思ったんです。そこから、当時の日本の戦闘機や戦艦などの残存兵器を調べまくりました。これはすでに沈められている、これは引き揚げ船として使っているので日本に権利がある、そういう細かいところを調べていって、本当に狭い範囲のあの時期に決定したんです。
池ノ辺 神木(隆之介)くんは、ようやく日本に戻ってきた帰還兵の役でした。さらにヒロインにはNHK連続テレビ小説『らんまん』で夫婦役だった浜辺美波さん。私はその朝ドラを毎日見てましたから、2人がどんどん役者として成長していって遂にゴジラに出演かと思ったんですが、ゴジラの方が先だったんですね(笑)。


山崎 朝ドラを見て決めたと言われるのは本当に腹立たしいんですよ(笑)。僕たちが先ですからね。
池ノ辺 監督もドラマは見てたんですよね。
山崎 もちろんです。まあ、決まったものはしょうがないですからね。「らんまんロス」を補うように、ゴジラの2人を見にきてくれる人が増えればいいかなと、気持ちを切り替えました。
池ノ辺 あの2人が見られるので皆さん喜んでると思います。監督があの2人に決めたのはどうしてですか。
山崎 まずは昭和感です。昭和の世界にいて違和感のないタイプで、かつ(演技が)上手い人たち。怪獣映画というのは、目の前に見えていないものを恐れなければいけないので、実は難しいお芝居が求められるんです。リアクションの出来によっては怪獣がちっとも怖くなくなってしまうということもある。ですから、リアクションする人間のお芝居はすごく大事です。あとは、文芸作品にしたかったので、そういうところでちゃんと映画として成り立つような人たちをキャスティングしました。






池ノ辺 そういう意味では、2人は確かに昭和の感じがありました。
山崎 浜辺さんは、もちろん現代ものもできるんですけど、メイクや髪型によっては、東宝のあの時代の作品に出てくるような昭和の女優の風情が備わっている人でした。時代を超えた不思議な感じがあるんですね。
池ノ辺 神木くんは、精神的に追い詰められた感じもすごく出ていました。
山崎 それは本人の努力によるものが大きいと思います。最初にシナリオを読んでもらった段階でいろいろと話はしました。戦争に行って、仲間が死んでいく中で自分だけ生き残ってしまった、自分は生きてちゃいけないんじゃないかと思う、それはどんな人間なんだろうな、どんな気持ちなんだろうな、ということなどを話しました。後から聞いたのは撮影の最中に鏡を見ながら「お前なんて生きてちゃいけないんだよ」と話しかけてたとか。それは危険だからやめなよと言いましたけどね。
池ノ辺 それは途中で辛くなったのでやめたと、どこかのインタビューで話してましたね。役者として本当に素晴らしいところまで達していた2人でしたが、私が気になったのは明子ちゃんです。あの子はどこから見つけてきたんですか。素晴らしかったけど、あれは演技じゃないですよね。
山崎 当時まだ2、3歳ですからね。撮影は大変でした(笑)。撮るとなると、現場に緊張感がはしるんで、敏感に察知して泣いてしまうんです(笑)。後からつなげてみると何とかナチュラルに見られますけどね。

超豪華な音と映像を、余すところなく体感してほしい
池ノ辺 この作品は、もちろん素晴らしい役者さんたちが数多く出演されてますが、音響、映像にもかなりこだわって作られたんですよね。しかも、様々なラージフォーマットで上映されています。
山崎 Dolby Atmos、さらにDolby Cinemaに関しては、前々からやってみたかったんですがちょうど今回そういう機会をいただきました。
そもそも、HDRIも一時的には革命的な技術で、HDRと聞いただけでワクワクしてしまうんですけど、その技術が、CGを作るためだけじゃなくてそのまま映像に現れるようになるというのは非常に画期的なことなんです。ただ、実際の表層部分だけ見ると、地味といえば地味。ものすごい階調といわれても、脳にはそれが届いているはずなんだけれど、一般のお客さんにとってはぱっと見は変わらないと思うんです。でも、そのすごい階調で、スクリーンの向こうにもう一つの現実があるかのような画ができるわけです。
池ノ辺 奥行きが出るんですね。
山崎 そうです。それも、3Dムービーとしての奥行きではなくて、本当に目の前にある風景をのぞいてみているかのようなすごい情報量が使われていて、それがゴジラという映画の恐怖感を担保してくれている。「怪獣が出た!!」という恐怖を引き起こしているわけです。

池ノ辺 Dolbyで観た人に聞いたら、「ゴジラが出てくるところが最高なんです。真っ暗闇の表現もすごいし、ゴジラの声が上から降ってきたり、戦闘機の音が後ろから前に向かって動くときの音の表現もすごいんですよ」と興奮して話してくれました。監督のおすすめはDolbyですか。
山崎 これは難しいですね。今回は本当に超豪華で、Dolbyのほか、IMAX、MX 4D、4DX、ScreenX、4DXScreenと、6つのラージフォーマットで体験できます。まさかScreenXまでやるとは思わなかったんですけど(笑)。それぞれ特徴があって、どんなものを観たいかによって変わってくるんで、全制覇するのも面白いと思います。スタンプラリーみたいにして全部回ったら何かプレゼントするというのもいいかなと思いました。大変なんであまり簡単にはいえませんが(笑)。
池ノ辺 これは、ゴジラファンにはたまらないですよね。
山崎 椅子が動くとか、ゴジラが熱線を吐くと、温風が出るとか。一番すごい、頭おかしい(笑)、と思ったのは、4DXScreenで、全国に4か所しかないそうです。3面のスクリーンで、椅子が4DX。これはもうお話は一切入ってこなくて、ただの2時間のアトラクション、ゴジラ・ザ・ライドだとか(笑)。

池ノ辺 日比谷シャンテ1階のでっかいゴジラのポスターだって物凄いクオリティですよね。
山崎 あんなに大きくしても大丈夫なくらいCGデータでものすごい量の情報が入ってるんです。やりすぎかなと思ったんですが、あれだと近くに寄っても遜色ないですよね。

映画は砂場や学園祭。思い切り好きなことを楽しくやってみたい
池ノ辺 監督は最初からずっと(株)白組の所属なんですよね。
山崎 そうです。バイトで入って裏口入社して、そのまま所属してます。
池ノ辺 映画がお好きだったから入られたんですよね。
山崎 もちろん映画が好きで、でももっといえば、VFXがやりたかったんです。
当時映画は、本編監督と特技監督に分かれていて、本編監督になると特技とか特撮とかからは離れてしまう。僕がやりたかったのは、そちらなのでまずは特技監督を目指しました。ところが、その頃最新の技術を使うVFXは、圧倒的にCMが多かったんです。映画ではまだまだ特撮、SFXのような特殊効果が主流だったんで。
それでまずCMの仕事に入ったんですが、入ってみて分かったのは、本で読んだ知識なんて何の役にも立たないということ。生意気なやつが入ってきてハリウッドではこうですよとか言うので、じゃあ、お前やってみろと任されたら全然できなかった。お前は口だけ大将だと、先輩たちにずいぶんいじられました(笑)。
池ノ辺 映画の仕事にはなかなか行けなかったわけですね。
山崎 そうですね。でも少しずつ映画でもVFXの技術が入ってきて、ある日ふと思ったんです。僕がここにきたのは、『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』に感動して、宇宙船なんかを作りたかったんだと。でもこのままでは、自分がやりたいことに近づけていない。そういう仕事は日本ではほとんどなくて。今自分は特技監督的なポジションにはいるけど、やりたい仕事ができていない。これは企画を出してそれを通せるような人にならないと、と思ったんです。

池ノ辺 それで本編の監督になろうと。
山崎 監督になるしかないんじゃないかと思った時に、映画プロデューサーの阿部秀司さんに出会って、そこから監督にならせてもらったという感じです。
池ノ辺 今度は、本編とVFXと両方やることになるんですよね。
山崎 ラッキーなことに、本編監督になると、特技監督も俺がやるからということが成り立つんですね。しかも、普通は同時進行でやるんでしょうけど、僕が扱っていたのは撮影が終わってからでないとできないタイプのVFXだったんで、何の支障もなく両方一人でできた。まず本編を撮って、その素材をどう加工するか考えて、そこにつけていくという手法をとって、両方やれることになったわけです。
池ノ辺 時間の無駄もなく自分の中でイメージしながら撮影もできる。そうやって今の監督ができあがったわけですね。素晴らしい!では、最後の質問になりますが、監督にとって、映画って何ですか。
山崎 これは誤解を招かないといいのですが、お砂場なんですよ。砂でものをいろいろ作っていって、そこに列車をバーンと走らせたりして‥‥そんな感じなんです(笑)。
あとは学園祭かな。みんなで一生懸命何かを作り上げて、当日を待って、それを発表して、さらにそれについてみんなからあれこれ言われる。そんな学園祭を未だにやり続けている感覚があります。
池ノ辺 それができるって素晴らしいですよね。周りもそれを認めてくれているからできるわけで、それで大ヒットを生んだら、最高じゃないですか。
山崎 ありがたいことだと思います。
池ノ辺 今回まさにそれが見えました。監督が好きなこと、やりたいことを楽しそうにやっていて、それを私も楽しく拝見しました。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
プロフィール
山崎貴 ( やまざき たかし )
監督 / 脚本 / VFX
1964年生まれ。幼少期に『スターウォーズ』や『未知との遭遇』と出会い、強く影響を受け、特撮の道に進むことを決意。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業後、1986年に株式会社白組に入社。『大病人』(93)、『静かな生活』(95)など、伊丹十三監督作品にてSFXやデジタル合成などを担当。2000年『ジュブナイル』で監督デビュー。CGによる高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXの第一人者。『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)では、心温まる人情や活気、空気感を持つ昭和の街並みをVFXで表現し話題になり、第29回アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞など12部門を受賞。『永遠の0』(13)、『STAND BY ME ドラえもん』(14)は、それぞれ第38回アカデミー賞最優秀作品賞ほか8部門、最優秀アニメーション作品賞を受賞。
作品情報

映画『ゴジラ-1.0』
戦後、無(ゼロ)になった日本へ追い打ちをかけるように現れたゴジラがこの国を負(マイナス)に叩き落す。史上最も絶望的な状況での襲来に、誰が?そしてどうやって?日本は立ち向かうのか。
監督・脚本・VFX:山崎貴
出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介
配給:東宝
©2023 TOHO CO.,LTD.
公開中
公式サイト godzilla-movie2023
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