ガバナンス崩壊の東芝、いっそのこと社員が経営してはどうか?

ガバナンス崩壊の東芝、いっそのこと社員が経営してはどうか?

  • JBpress
  • 更新日:2021/07/23
No image

4月に辞任した車谷前CEO(写真:つのだよしお/アフロ)

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

東芝を巡る論考で置き去りになっている社員の視点

2020年の株主総会を巡り、株主提案権の行使を妨げ、議決権行使の内容に不当な影響を与えようと画策したとして指弾されている東芝。今年6月10日に調査報告書が公表されて以降、6月25日の株主総会が終わるまでに、取締役4人に加えて、執行役副社長と常務執行役が相次いで退任する事態となった。総会直後には、新任の社外取締役が辞任している。前代未聞の大混乱である。

本件については、注目すべき論考が4つ発表されている。一つ目は、6月30日付「『底なしに悪い会社』東芝から得る7つの教訓」(論考A)だ。著者は証券会社のアナリストで、目線が投資家にあり、株価が低落傾向にある企業を批判的に論じるアナリストの傾向が出ている。指摘はもっともだが、ここまでこき下ろすこともないように思う。

二つ目は、7月9日付「東芝と三菱電機の不祥事で露呈した『社外取の限界』とガバナンス改革の要諦」(論考B)で、こちらも著者は証券会社の元ストラテジストである。証券会社出身ゆえに、貯蓄推進の歴史の上にある日本の経済界(「貯蓄→銀行の融資→企業の設備投資」という流れ)とは視点が異なる。特に、以前から言われてきた「社外取締役のアルバイト化(片手間でできる仕事との揶揄)」について、「機能していない」と一刀両断にしている(三菱電機の話は本稿では触れない)。

三つ目は、7月14日付「崩壊した東芝のガバナンス、車谷氏に欠けていたもの 産業政策の名の下の経産省と企業とのズブズブの関係も見直し必至」(論考C)。著者はシャープの前身である早川電機工業に入社した企業人なので実業の立場からの視点を感じさせる。4月に辞任した車谷暢昭前CEOは企業売却問題以前に東芝社内の支持を失っており、企業と官庁が一体化している「日本株式会社」のやり方がもはや通用しないという点を指摘している。

そして、四つ目が7月15日付「東芝『株主への圧力問題』の調査報告書をめぐる疑問と違和感」(論考D)。日銀出身の著者は犯罪学を修めた背景や米国での役員経験を元に、ほとんどの記事が金科玉条としている「株主が選んだ調査人による調査報告書」に疑問を呈している(つまり、東芝側には今後も戦える余地があるというもの)。

どれも日本の企業人には読んでほしいと思うが、これらの記事はあくまでも、企業経営者と株主という二つの視点で書かれている。また、ガバナンスが効かなくなった企業の悲劇を書いているが、悲劇の主役は退任させられた取締役ではなく、社員であることを明示していない。

しかし、企業は株主、経営者、従業員の三位一体が整って初めて力を発揮する。従業員の存在を忘れてはならない。

2015年に発覚した不正会計事件から現在に至るまで、問題解決に参画することなく、むしろその煽りを受けるだけだった東芝の社員だが、自分たちから期待すべき経営を求めて声を上げるという発想があってもいい(ここでは、消費者や債券保有者などすべてのステークホルダーを対象としてはいない)。

そこで、本稿では東芝の社員は東芝を自分の手に取り戻すことができるのか、できるとすればどうすればいいか──という点について考える。

アクティビストと企業再生業者は同じ穴のムジナ

まず、東芝社員のみならず、日本企業のすべての人が理解すべきなのは、アクティビスト(≒株価を上げろ、株主還元を増やせと声高に主張するファンド)の行動が、いわゆる企業再生を請け負う人間の行動と基本的に同じだという点だ。あくまでも両者の目的は「企業価値を上げること」。しかも、それは「目標時点(例えば3年後)の株価を目標以上に上昇させること」であり、日本的な意味での「中長期的な視点」というものはない。

東芝の例で言えば、2018年4月にCEOに就任した車谷氏の目的は、コストダウンによって株価を上げるということだったと考えられる。それは今回の東芝騒動で中心的役割を示したアクティビスト、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントと同じである。

No image

東芝のガバナンスに疑義を呈したエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは旧村上ファンド出身者が設立した。写真は2006年当時の村上世彰氏(写真:Haruyoshi Yamaguchi/アフロ)

あえて違いを挙げるならば、エフィッシモの方が車谷氏より高い株価(または配当を含めた高いトータル・リターン)を求めたということに過ぎない。すなわち、車谷氏の東芝に対する理解はエフィッシモと同程度で、東芝を企業として具体的に分析した本業への十分な理解がないため、それを前提とした中長期的な成長戦略についてはほとんど考えられなかった(車谷氏本人が複数の人に語った本音を筆者が間接的に聞いた)。

ビジネススクールでは「選択と集中」という言葉が安易に使われる。その結果として、東芝のような複合企業体は残す部門と切り捨てる部分が比較的簡単に決められる。2015年以降で東芝が売却してきた部門、半導体、家電、医療機器など部門は収益を上げない部門ではなく、「収益は上がっているが企業存続の柱とは判断されなかった部門」、あるいは「価値が高く売却価格が高い部門」だから売却されたのだ。

ここで注意すべきは、部門の売買は売り手にも買い手にもメリットが存在する点だ。言うまでもないが、売り手は部門を売れば必要資金を手にできる。一方、M&Aの際に当該部門はリストラなどで可能な限りのコストダウンが図られるため、買い手はより利益率が上がった状態で当該部門を手に入れられる。

裏を返せば、M&Aを理由にリストラされる社員は悲劇である。勧奨退職ではないため退職金の上乗せがないばかりか、本来であれば定年退職時に手にできたはずのものをかなり失う。

しかも、売り手は売却によって必要な資金及び資本を手にするという目的は達成するが、将来的な企業価値のことは考えていない。まさにサラリーマン社長の弊害だが、中長期的に見て、今回の切り売りが東芝の企業価値を下げた可能性は否定できない。

6月25日の定時株主総会で、配置転換によって1年半もの間、毎日反省文を書かされたと涙ぐんだ声の女性社員の話はこうした問題の証左だろう。

アクティビストは株価が上がれば経営者は誰でも構わない

昨年の株主総会と東芝のガバナンスの悪い点については論考Aが網羅している。一方、取締役会議長や監査委員、指名委員などを務める社外取締役が機能しないという点は論考Bが指摘しており、論考Cは東芝の企業統治の再生がほぼ不可能だとしている。こういった指摘に関して、昨年3月から株主総会のあった昨年7月末までの期間だが、先の調査報告書は具体的事実で証明している。そして、論考Dは完全とは言えない調査報告書に翻弄された東芝の取締役のレベルの低さを指摘している。

これまで日本企業ではコーポレートガバナンスという言葉が盛んに喧伝されたが、東芝のケースを見ると、経営などできない人々が肩書だけで経営してきたということを示唆している。本物の経営者を呼ぶにしても、ガバナンスが腐っている日本の中から変わる人材が出てくるとは思えない。

それでは外国人はどうかといえば、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ元CEOのような本物の経営者を連れてこなければ意味がない。ただ、米国トヨタのCEOが「会議の時に自分の前で日本語で話し合う役員や幹部社員とは仕事ができない」と述べていたように、社内の言語そのものを変えない限り、外国のプロ経営者が日本企業に来ることはないだろう。

こうして見ると、東芝再生のためには東芝の社員自身が経営するという消去法的な選択が浮上する。これまで株主や経営者に翻弄された社員が、自分たちのために経営するということだ。

問題は、アクティビストを中心とする株主がどう言うかだが、彼らは株価が上がりさえすれば誰が経営しても構わない。配当まで含めたトータル・リターンが高まれば何も言わないだろう。例えば、2018年から現在に至るまでの平均株価を上回るように、上昇トレンドに乗せるような経営ができれば、株主は東芝社員による経営に賛同するだろう。

仮にアクティビストが反対したとしても、SDGsだと騒ぐ今の世の中において、また大学や教会のような社会貢献に繋がる組織に投資しているファンドが存在している時代において、東芝社員による経営をサポートしようと考える株主は少なくないはずだ。

仮に永山治前会議長が日本で有数の経営者だったのであれば、その彼でもできなかった東芝再生にチャレンジする社員による経営は世界の注目を集めるだろう。世界中で虐げられてきた労働者たちの光になるかもしれない。

No image

東芝の株主総会では取締役会議長の再任が否決された(写真:ロイター/アフロ)

今の時代に経産省との関係を見直す必要はあるか?

今回の東芝の一件を契機に、東芝(日本企業)と経済産業省(国)の関係に疑問を投げかける雰囲気が出ている。確かに、「批判をすれば受ける」(≒批判のための批判が世間受けする)という考え方からすれば、現状を否定するだけで問題は終わったように見える。「勝てば官軍」との言葉があるが、今回の件は昔から慣れ親しんだ「ズブズブの官民関係はもはや通じない」という論考Cのような言説はそれだけで読者がついてくるのかもしれない。

ただ、エネルギー産業や防衛産業を抱える日本企業の場合、外為法などの存在まで考えれば、日本政府との関係を良好に保つだけでなく、政府の陰になり日向になりの支援があった方がいいのも事実だ。筆者の知る限り、経済産業省の人間は個別企業の株価どうこうではなく、日本という国家に必要な企業を守るという発想がある。その経営を担うが東芝社員であったとしても、関係なく支援するだろう。

しかも、輸出等に対する規制の対象は、米中通信技術戦争が始まって以来、半導体や半導体製造装置など産業の核となる電子部品にまで及んでいる。今の東芝にとって、日本政府との関係を断って業務を行うことは正しい判断とは言えない。これらの産業は日本政府の管理の下で進むからだ。各分野に競合企業がある以上、東芝はその競争に勝つためにも日本政府との関係を正しく維持しなければならない。

従って、東芝社員による経営は、これまでの経営陣という肩書を持ってきた人々と同様な形で経済産業省と付き合えばよいのである。

では、東芝社員はどのような経営をすればいいのだろうか。

米国最大規模の経済団体で、時として経団連的に米経済を牽引する「ビジネス・ラウンドテーブル」は2019年夏に、株主資本主義の行き過ぎに対して「ステークホルダー・キャピタリズム」を標榜すべきだとした。米国でこれが進むかどうかは未知数ながら、少なくも民主党が過半を占める現在の米議会は、GAFAなどの大手企業に対する課税強化をG7で合意するなど、このベクトルに沿った動きにある。

一方、日本にはかつて「日本型資本主義」というものがあった。近江商人の「三方良し」という言葉に象徴される、社員を含めた企業関係者すべてが幸せになることを目指したものである。

残念ながら、それを復活させようとする動きは今のところあまり見られない。それに代わるものとして「公益資本主義」という言葉が浮上しているが、公益資本主義は企業全体を改善するという建前は持っていても、それを実現する術を持っていない。やはり、ここは昔の「日本型資本主義」に回帰するべきだろう。日本型資本主義こそが、従業員まで含めたSDGsやESGが求めるサステナブルな経営だからだ。

では、東芝社員はどうすれば、社員による経営を実現できるのか。それは、「7人のサムライ」を雇うことである。

新生東芝に必要な7人のサムライ

1人目はCEO。現在は綱川智CEOが車谷氏の後を継いでいるが、彼は東芝のOBに言わせれば東芝メディカルの人間であり、車谷前CEOと同様に、東芝全体についてはわかっていないと思われる。彼は、そもそもつなぎ役としてのワンポイント・リリーフなので、次が決まったところで辞めてもらえばいい。

2人目はCFO。銀行とのやり取りを含めて東芝の資金をしっかり管理すると同時に、各部門に対する管理会計を徹底できる人材が必要だ。もちろん、キャピタル・アロケーションができる人材でなければならない。既に、複数の部門を売却したとはいえ、東芝には防衛部門、エネルギー部門、半導体部門が残っている。財務戦略を通じた収益貢献も求められるだろう。

3人目はCIO。コロナ後の世界はテレワークが主力となる。とすれば、最も大切なのはCIOである。製造部門以外のテレワーク化を進めれば、不要となるビルの売却も可能となり、株主にとってもメリットだ。しかも、東芝ほどの技術人材を持つ会社がテレワークをはじめとしたデジタル・トランスフォーメーションを本格的に進めれば、政府のデジタル庁よりはるかに優れた結果を残すという気がする。

4人目は政府担当の執行役。言わずもがなで、日本政府、特に経済産業省や防衛相、国土交通省などとのやり取りを一手に引き受ける立場だ。関係を一本化することで、情報の管理をやりやすくすると共に、東芝側から何かを主張する際に、執行役会で内容を揉むことができる。

5人目は製造担当執行役。この下に各部門のトップが入る。鉄鋼や部品などの調達や製造管理をまとめて行うことで、コストダウンも可能となるだろう。

6人目は海外担当執行役。エネルギー部門では輸出が重要なものになるだろうし、これからの防衛産業も友好国への輸出を考える時代がすぐ近くまで来ている。海外関係も一本化するのが望ましい。

7人目は福利厚生担当。年金や医療保険というような一般的な仕事だけではなく、社員の能力開発を支援することで、社員が社内における満足度を極大化できるようにする仕事だ。コストセンターに属することになるだろうが、これが一番難しい仕事になるだろう。

この7人は何れも執行役であるが、この執行役の7人については、万一の場合、全従業員の投票により解任できるという形にする。

株主総会の下にある取締役会はCEO、CFO、CIOが取締役を兼ねるほか、モラルや倫理などの面からの人を社外取締役として1人、また従業員代表(できれば、東芝を隅から隅までわかっているような人)の1人と、5人の取締役会としてはどうだろうか。もちろん、筆者も東芝社員のために汗をかく覚悟である。

小川 博司

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加