消息不明のロシア兵急増 「家族は拷問のようなものだ」――「母の会」の困惑と願い

消息不明のロシア兵急増 「家族は拷問のようなものだ」――「母の会」の困惑と願い

  • テレ朝news
  • 更新日:2022/05/15
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キーウ近郊の町ブチャの虐殺や、戦場での略奪などを犯したロシア兵に弁護の余地がないことは言うまでもない。一方、意に反して戦場へ送られ、恐怖の中で死に、路上に屍をさらしたままになっている兵士たちがいることも確かだ。
4月3日の記事「前線へ送られるロシア兵士の現実」では、徴集兵の実態と、それでも立ち上がることを期待できないロシア社会の閉塞状態について「兵士の母の会」のワレンチナ・メリニコワ会長のインタビューを紹介した。

いま、メリニコワ会長は、ウクライナ侵攻が始まってから日を追うごとに戦死者が増え、消息不明者の数の多さに困惑しているという。
今回、メリニコワ会長はロシアのウェブチャンネル Vsya takaya Mongayt (5月7日)と西側のメディアThe Insider(5月6日)のインタビューに応じ、それぞれ「消息不明兵」の現状、そして「ロシアで戦場に送られるのを回避するにはどうしたらいいのか」という問いに答えている。

■ 「ロシア軍にこんなに多くの戦死者が出たことはない」

メリニコワ会長によれば、現在もっとも困難なのは、戦死したか捕虜になったかわからない、消息不明のロシア兵の問題だと言う。
「ロシア側のシステムは貧弱だ。国防省は秘密裏に戦死者のリストを作っていて、電話で名前を明かして質問すれば、リストにあるかないかは答えてくれるが…」

これに対して、ウクライナ側は戦時捕虜の扱いを定めた国際条約であるジュネーブ条約に全面的に則っていて、ロシア兵の捕虜全員をリスト化し、戦死者も可能な限りリスト化しているという。
「兵士の母の会」が問い合わせれば、捕虜に関してはほぼ確実に情報を知ることができるだけでなく、後日、ウクライナ側から連絡をしてくることもあるようだ。

「兵士の母の会」が当初懸念していたのは、捕虜の交換が行われるかどうかだった。
「はじめのうちはロシア側の情報がまったく整わず、捕虜の交換が行われるかどうかもわからなかったが、幸いにして交換は実現している」

しかし、ロシア兵の消息不明者については絶望的だと言う。
「消息不明者については恐ろしい状況だ。特定不可能な遺体の場合でも、戦闘中、砲弾が命中し、炎上して戦死したが、遺体の特定はできない、と軍から家族宛に連絡がいく場合もまれにある。しかし、負傷したのか死んだのかもわからない消息不明者の場合は、どうしようもない」

旧ソ連時代の1989年から活動を続けてきた「兵士の母の会」の歴史でも、今回のウクライナ侵攻ほど多くの戦死者、消息不明者が出たことはないからだ、と言う。
「第一次チェチェン紛争でも、ロシア軍にこんなに多くの戦死者は出なかった。(ウクライナに隣接する)ロストフのDNA研究所は稼働しているのだが、書類の記入方法など国防省の厳格な規則があって、それが戦死者の特定作業を阻んでいる」

■ 戦死者に冷淡なロシア政府 「耐えがたい」

息子や夫が消息不明になったままの家族の苦しみについて、メリニコワ会長はこう語る。
「2カ月間、自分の家族が生きているのか死んだのかもわからないままなのは恐ろしいことだ。こんな状況は家族にとっては拷問のようなものだ。
ロシアでも戦死者のうち2千人分は文書化され、遺体も家族の元に戻って埋葬されたようだが、そのほかの家族は苦しみの中に置かれている」

長年、捕虜の交換や戦死者を家族の元に届ける活動を続けてきたメリニコワ会長が耐えがたいのは、戦場で倒れた戦死者に対するロシア政府の冷淡な態度だという。

「やりきれないのは、ロシア側が戦場の兵士の遺体を埋葬したり、冷凍庫をつかって保管したりしようとしていないことだ。本来、両国間の協議で遺体の交換、あるいは引き渡しについても話し合われるべきなのに、協議した形跡がない。
遺体についても人道回廊などの措置が決定されるべきだ。どこの村にどんな名前の将兵を葬ったか、証人がいるうちにやらないと、あとになればなるほど誰がどこに葬られたのかわからなくなる。
ウクライナ側は地図に記して保管しているのだが」

そしてこう付け加えた。
「ロシアでは戦死した将兵の扱いをどうするか、話もできない。1995年に下院で話し合われたことがあったが、そんなことを法律に書きこむのはけしからん、となったままだ。しかし、わたしは死者に対する礼儀だと思う。せめて人間らしく葬ってあげたい」。

■ 戦場に行くのを回避するための方法とは?

5月9日の「対ナチス・ドイツ戦勝記念日」には、プーチン大統領が「総動員令」を発するのではないかと取り沙汰された。
しかし、メリニコワ会長は「戦勝記念日」直前のインタビューで既にその可能性を否定していた。
「総動員というのは時間のかかるもので、基本は予備役を召集する。食糧の配給態勢など経済的にも準備が必要だ。法的な準備も必要で、今日明日すぐに動員令が出せる、というようなものではない」

現在ロシア国内では年2回、春夏の徴集期間の範囲内で徴兵が行われている。
ロシア連邦憲法では、国民は徴兵に際して、軍務に就く代わりに、非軍事部門での勤務を選び取ることも認められている。
メリニコワ会長によれば、重要なことは、自分の健康に問題があれば申告することだという。
「医療委員会が、提出された非軍事部門勤務希望書が適切なものかどうか判断する。
たいへん面倒なプロセスだが、勤務転換ができた実例はたくさんある」

ただ、その制度が正常に機能しているとは言えないようだ。
「ある時期、医者が賄賂を取って、病気だと書き込んで徴兵逃れに手を貸した時期があった。それに対して、徴兵登録所の医務官が、法的権利がないにもかかわらず、診断書を書き換えて、軍務可能としてしまうことも日常茶飯事となった。
イタチごっこだ。国民は法に訴えることもできるが、長い時間がかかる」

良心的兵役拒否も認められていて、法律によれば非軍事部門の勤務を選びとることができるという。
「良心に従って銃を持ちたくない、戦闘をしたくないという人も、非軍事部門での勤務が可能だ。戦場に出ることを回避する道が閉ざされているわけではない。たとえ動員令が出されても、専門性などを考慮して前線ではない軍務に配属すべき要件が法律に記されている」

しかし、とメリニコワ会長は最後に付け加える。
「ロシアが法律を遵守する国かと言えば、けっしてそうではない。この面ではロシアは特異な国だ…」

ANN元モスクワ支局長 武隈喜一(テレビ朝日)

画像:ロシア兵の埋葬場所を指し示すウクライナの住民

ゼレンスキー氏 ロシア軍は「非常にばかげている」

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