一之輔、なんばグランド花月の“妖精”に出会う?

一之輔、なんばグランド花月の“妖精”に出会う?

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  • 更新日:2021/05/02
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春風亭一之輔・落語家

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「大阪」。

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大阪には仕事で年に数回行く。「東京と大阪のお客さんは違いますか?」という質問をよくされるのだが、落語のお客さんについてはほぼ同じ。とくに私の独演会に来るような落語好きは、東京も大阪も笑いどころは変わらない。頻度が少ない分、大阪のほうが前のめりでよく笑ってくれる。「笑いに厳しい大阪」みたいな答えを期待してる人はガッカリするかもしれないが事実なのだから仕方ない。だから好きよ、大阪のお客さん。

昔は大阪の漫才中心の寄席小屋では東京の噺家はまるでウケなかった……みたいな話をよく聞く。子どもが駆けずり回ったりして誰も聞かなかった、とか。3年前、初めて「なんばグランド花月」に行ってみた(お客として)。その日の夜が市内で自分の独演会だったので、まぁ、ついでです。

ロビーで一人でいると「一之輔さんですか?」と声をかけられた。知らないおじさん。「今晩、独演会行きますよ!」「ありがとうございます」「よく来るんですか!? 初めて!? じゃ、案内しますわ! わー、こんなとこで会えるなんてー!(嬉)」。捕獲された。おじさん、気づいたら2枚チケットを買っている。並びの席。なぜだ。オレは一人で観たいんだ! 断るタイミングを完全に逸した。「こっちでっせ!」とおじさん。たぶん『でっせ』とは言ってないがそう聞こえたんでっせ。

開演前に若手芸人の前説。クイズを出してお客が挙手で答える。問題は忘れたが、おじさんと反対側の私の隣に座った若者が元気よく「ハーイっ!」……こっちもか! やめてくれ、オレは大人しく観たいんだよ。「ハイ! アナタ!」。若手芸人がカメラを持って若者のところまで駆け降りてきた。その瞬間、若者と隣にいる私が正面の巨大スクリーンに大映しに。恥ず! 思わず下向く私。おじさんが「映ってますよ!」と、スマホを取り出してスクリーンを激写し始めた。やめてくれ。「写真、いりますか!?」。いらないよ!

始まった。次々とテレビでお馴染みの人が出てくるのだが、おじさんがホントによく笑うので、つられて楽しくなってくる。客席に座ってお笑いを観るのなんて20年ぶりくらいか。

「漫才の途中でトイレや売店に行く人多くてねぇ(苦笑)」。おじさんの言う通り、けっこう人の出入りが激しい。まぁ、落ち着きがない。自分がここで落語をやるとしたら、どうやるかなぁ……なんて考えていたら、トリのオール阪神・巨人師匠のとき、おじさんが「すんません。私、膀胱が小さくて(照)」とトイレに出ていった。なんでやねん。吉本新喜劇で終演。「ありがとうございました。堪能しました」「いやいや、ただのお節介で。へへ」。おじさんに缶コーヒーを奢ってもらって「ではまた今晩」と別れた。

夜は100人ほどの独演会だったのだが「そんなお客さんいませんでしたよ」と主催者から言われる。なんだったんだ、あのおじさん……。私は「NGKの妖精」ではないかと思っている。これを読んで「私でっせ」という人がいたら編集部まで連絡ください。特にお礼はしませんけど。あの写真は消去してくれ。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

※週刊朝日  2021年5月7-14日号

春風亭一之輔

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