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「男の育休平均102日」アクセンチュアに元社員が大勢出戻っているワケ

「男の育休平均102日」アクセンチュアに元社員が大勢出戻っているワケ

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2021/07/21

女性比率36%、社員の大半が在宅勤務、男性育休は平均102日。徹底した働き方改革を継続する中、体力勝負の男性社会から、男女ともに働き方を選べる組織へと変貌してきたアクセンチュア。かつて体育会系の働き方が合わず辞めていった社員たちが、大勢出戻ってきているという。社内風土が変わるまでの過程を江川昌史社長に聞いた──。

30代前後のマネジャーに必須の研修

【白河】御社では全体の女性比率がすでに3割を超え、女性管理職も着実に増えていると伺いました。女性活躍に関して、女性の意識の問題とする企業も多いです。私は上司の意識のほうに先にアプローチするべきと思いますが、どうやって意識を変えていったのでしょうか。

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アクセンチュア 江川 昌史社長(写真提供=アクセンチュア)

【江川】アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の是正に向けたトレーニングを2014年から導入し、今では30代前後のマネジャークラス以上は全員必須としています。当社は20代の社員はほぼ男女半々ですから、彼らを束ねる立場の人に偏見があると、タフな仕事から無意識のうちに女性を外してしまうようなことが起きるからです。

もちろん悪意からではなく、本人としてはよかれと思ってやっているわけですが、それが女性にとっていかに迷惑かを理解してもらえるよう努めています。社員の中には、早く昇進したい人もいれば、自分のペースでキャリアを歩みたい人もいるけれど、そこに性別は関係ないんだと。それでも年に数件程度はバイアスと思われるケースが起きているので、今後も継続していかなければと思っています。

【白河】上司や男性から「女性だけが特別な働き方をする必要がある」という意識がなくなれば、管理職を目指す女性も自然と増えそうですね。ただ、他の企業からは、女性本人が管理職になりたがらないという声も聞きます。

スローなキャリアを歩む選択肢がある

【江川】当社では、それは女性より若者の傾向と言えそうです。最近の若い社員の中には、昇進の時期になっても上がりたがらない、スローなキャリアを望む人が一定数いるんですよ。男女関係なく、「仕事よりも、趣味や家庭に力を注ぎたい」など、自分のペースでキャリアを築いていきたいと望む人が一定数います。それはそれでまったく問題ありません。当社には、早い昇進を望む人にもそうでない人にも、それぞれ適した職種があるからです。

前者の典型的な職種は戦略コンサルタントで、お客様自身でも気づいていないような課題や中長期的な視点も含めて経営判断のお手伝いをしますから、求められる課題も大きい分、成長も早い。一方、お客様の業務プロセスを請け負うような職種は勤務時間が基本9時から6時まで。仕事では、決められたことを手順通りきちんとやることが重視されます。

ひと昔前は「Up or Out」の世界だった

【白河】働き方や昇進の仕方に、男女ともバラエティーがあるのは画期的です。でも実際のところ、スローなキャリアを歩みたがる人を軽く見るような風潮はないのでしょうか? 特に男性がそうだと「男なのに昇進をあきらめちゃって」などと言われそうです。

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ジャーナリスト 白河桃子さん(撮影=干川 修)

【江川】それはないですね。当社では、部署間の異動が比較的自由だからかもしれません。社員が特定の部署への異動を希望した時は、送り出す側に止める権利はなく、受け入れ側さえOKと言えば実現することになっています。ですから、例えば上司がスローキャリア志向の部下をスピーディーなラインに乗せようとしても、部下本人がそれを望まなければ、本人の意向に沿った業務に異動することもできるわけです。そうした選択は本人に権利があります。

また、男女限らず、人生の一時期だけ、例えば親の介護が落ち着くまでスローダウンしたいといった希望を出す人は少なくありません。もちろん、介護が終わったらまた復帰することもできます。その意味では、当社では職種も働き方も「選択制」と言えるでしょう。キャリア構築の主役は社員本人であり、会社としては社員一人ひとりが持てる力をいかに発揮できるようにするかが会社の成長に直結するのです。

でも、昔の当社にはそんな仕組みもなければ、スローなキャリアという概念すらありませんでした。「Up or Out(昇進か辞めるか)」という言葉が普通に使われていたぐらいです。

男性育休「平均102日」はなぜ実現したか

【白河】その頃とは雲泥の差ですね。今は昇進のスピードは遅くなっても、それぞれに着実なキャリアが用意されていると。その時期に応じて、本人がコースの選択が可能なのですね。その点で言うと、御社は男性育休も非常に長くて驚きました。

【江川】男性育休は私もとりたかったんですが、その頃は制度がありませんでした。今は男性社員の40%が育休を取得していて、平均して一度に102日休んでいます。確かに、この日数は他社に比べて飛び抜けていますね。これにはコンサルティング会社特有の事情もあるかもしれません。仕事の切れ目を捉えて「育休に入るから次の仕事はアサインしないでね」と言えば、3カ月ぐらいは空けることができますから。加えて、育休をとったことで評価が下がるようなこともないので、それも安心して休める要因なのではと思います。

女性は当然100%育休をとっていて、日数も平均300日を超えていますが、男女いずれもそれで評価が下がることはありません。復帰後、時短勤務になっても評価が下がることはありません。育休明けに即昇進ということも普通にあります。

女性管理職比率を伸ばす3Rプログラム

【白河】それは画期的ですね。女性は育休、時短勤務によるキャリア中断が昇進に響くことも多く、それが女性管理職が増えない一因になっているとも言われています。でも御社では、そうした懸念もなさそうですね。

【江川】育休が昇進に響くことはありませんが、当社も女性管理職比率はまだまだ伸ばす必要がありますから、そのための取り組みは継続しています。その一つに、女性の昇進に必要な3条件を整えるための「3R(ライトクライアント、ライトロール、ライトスポンサー)」というプログラムがあります。これは女性に対して、活躍できる「正しい機会」、プロジェクトの中心人物としての「正しい役割」、精神的サポートを行う「正しい後援者」を提供するもの。今、女性管理職比率がじわじわと上がってきているのも、こうした支援策の成果だと思っています。

賃金格差が是正すれば女性活躍推進の本気度はさらに上がる

【白河】賃金の面ではどうでしょうか。今、ヨーロッパではジェンダーに関連した賃金ギャップが問題視されていて、どこの企業でも数値を測定すると男女差が表れてくると。そこを開示しなさいという動きも出ているようです。

【江川】当社でも賃金ギャップに関しては毎年調査を入れていて、同じ仕事なのに特段の理由もなく女性のほうが低い場合は修正をしています。こうした取り組みは、世界中のアクセンチュアでもう5年ほど続けています。私としては、賃金水準が限りなく男女平等に近づけば、女性を主要ポジションにつけようという意識も高まると考えています。経営者なら「せっかく高い給料を払っているのだから、それに応じたポジションに引き上げよう」と思うはずですから。

ただ賃金平等の話は、第一段階としてまず人数の男女比を半々にし、第二段階として上のポジションでも女性を増やし、その後の第三段階で初めて出てくるものだと思います。当社は海外のアクセンチュアも含めて第二段階まで進んでいますが、日本ではまだ第一段階にある企業が多いのではないでしょうか。男女の数合わせだけに終始しているようでは、女性はいつまでたっても主要なポジションにつけませんし、当然の帰結として賃金格差も縮まりません。まずは数合わせでなく、自然に女性が増える仕組みづくりが先決だと思います。

働き方が変わったことを知った元社員が続々出戻り

【白河】御社ではそうした仕組みづくりから始めて、昇進や賃金の部分でも女性への支援策を打たれていると。それに関して、男性社員から「女性のほうが昇進しやすい」「大切にされている」といった不満は出ていませんか?

【江川】出ていますよ。当社の女性比率は全体では36%を超えていますが、管理職だけ見ればまだ20%に満たない。この階層ではまだマイノリティーの状態ですから、支援するのは当然のことです。不満に対しては、女性管理職の増加は会社の成長にとって必要不可欠であり、そのための女性支援はやって当然だと説明しています。

【白河】そうした説明が男性の意識変革にもつながっているのですね。さまざまな改革を経て、今、御社ではいったん退職したOBやOGが大勢戻ってきていると聞きます。これは人材戦略の一環ですか?

【江川】特に戦略を立てたわけではないのですが、自然と戻ってきてくれていますね。そもそも、以前退職した人たちの中には、当時の男性中心の体育会系の働き方が合わずに辞めた人もいる。そこが明らかに変わったと知って、だったら戻りたいと言ってくれているようです。うれしいことですね。ただし、一定の成果は出てきていますが、改善しなければならない点はまだまだたくさんあります。手綱を緩めた瞬間に、改革は止まってしまいます。これからも、会社の実態をつぶさに把握し、社員の声を聞きながら、解決に向けたアクションを着実に積み重ねていきます。

【白河】江川社長が実行された改革は、女性活躍はもちろん人材獲得の面でも大きな効果を発揮していると感じました。そして改革の手を止めてはいけないことも、今回はとても勉強になりました。どうもありがとうございました。

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江川 昌史(えがわ・あつし)
アクセンチュア 代表取締役社長
1989年、慶応義塾大学商学部卒業、同年アクセンチュアに入社。消費財業界向け事業の日本統括を歴任し、2008年に執行役員就任。 14年取締役副社長就任、15年より現職。20年3月グローバル経営委員会メンバーに就任。社長就任以降、日本におけるアクセンチュアのビジネスを3倍の規模に導くと同時に、全社横断の社員意識・働き方改革プロジェクトも主導。
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白河 桃子(しらかわ・とうこ)
昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院 特任教授、ジャーナリスト
慶應義塾大学卒、中央大学ビジネススクールでMBA取得。住友商事、外資系などを経て、取材執筆講演活動。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員などを歴任。著書に『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』(PHP新書)、『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など。
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江川 昌史,白河 桃子

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