堀込高樹が語る「一歩踏み出す勇気」 KIRINJIの新しい季節と素敵な予感

堀込高樹が語る「一歩踏み出す勇気」 KIRINJIの新しい季節と素敵な予感

  • Rolling Stone Japan
  • 更新日:2022/06/23
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KIRINJIがニューシングル「Rainy Runway」を6月22日にリリースした。ここでは生楽器主体のアンサンブルを披露。ソウル風のミドルチューンには、好評だった昨年のアルバム『crepuscular』を経て、さらなる変化を求めた堀込高樹の想いが込められている。新曲の制作背景、8月20日に出演するサマーソニックについて語ってもらった。

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—最近はいかがお過ごしですか?

堀込:ちょこちょこ忙しいですね。レコーディングがあったり、ライブやフェスのリハーサルがあったり、毎日何かしら仕事している感じです。

—大変そうですね、『crepuscular』から半年しか経っていないのに。

堀込:ライブやフェスができない時期がしばらくあったので、今年はちょっと多めにやろうと。でも、それがひと段落してから制作となると、リリースが年末以降になってしまう。こういう世の中ですし、前のアルバムから1年後にやっと新曲を出すようでは遅いんじゃないかなって。それでシングルを出そうと、3月から制作とレコーディングを始めました。本当ならスッと出せるはずだったんですけど、途中でフェスを2本挟んだのもあって(5月開催の「FUJI & SUN 22」「森、道、市場2022」)出来立てホヤホヤです。

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Photo by Rika Tomomatsu

—そんな新曲「Rainy Runway」は今の時期にぴったりですね。

堀込:そう、6月に出すから雨にちなんだ曲にしようと。最近はそういう曲を書いてなかったなと思って。

—キリンジ時代はよく書かれてましたよね。「雨を見くびるな」(1998年)、「朝焼けは雨のきざし」(2008年)、作詞は泰行さんですが「雨は毛布のように」(2001年)、KIRINJI名義だと「絶対に晴れて欲しい日」(2016年)もある意味そう。「雨」というモチーフはお好きでしたか?

堀込:まあ、画が浮かびやすいですよね(笑)。あとは今回の曲でいうと、人間ってだんだん固まってくるじゃないですか。新しいことを始めるのに抵抗を感じたりとか。そこで、ちょっとだけ踏み出してみようと。そういうポジティブな歌詞にしたら、雨の捉え方も楽しくなるかなと思って。

—昨年の「再会」〜『crepuscular』を経て、新しい季節を歌っているのかなとも思いました。”きっとまたどこかで 激しい雨に出くわすだろうが 昔より賢くタフになった僕らなら大丈夫さ”という一節もあるように。

堀込:そうですね。ただ、コロナ云々というのはそこまで念頭になくて、「新しいことを始めよう」という衝動の方が強かったです。体制も変わってアルバムも出したけど、気分としては『cherish』(2019年)の延長線上だったので、もっと目先を変えたものを作りたいなと思っていて。それが何かはまだわからないけど……そういう気持ちの表れというか。

—バンド体制になったときも、『11』(2014年)はキリンジの延長線上でしたけど、その後の『ネオ』(2016年)で一気に生まれ変わった。ソロ・プロジェクトとしてのKIRINJIも、そういう時期を迎えようとしているのかもしれないですね。

堀込:書く曲そのものを劇的に変えたいわけではないのですが、しばらくエレクトロニクスを多用してきたことによって、どうしてもアレンジの重心がそっちに向かっちゃうんですよ。そうではなくて、オーセンティックな演奏だけど新鮮に感じられる、そういう落とし所をアレンジやミックスなどで模索しているところです。

今のグルーヴを鳴らすために

—高樹さんの意図はひしひしと伝わってきました。生楽器をここまで盛り込んだシングル曲となると……。

堀込:随分久しぶりですよね。「真夏のサーガ」(2015年)はブラスも結構入っていて、あの曲以来だと思います。

—もちろん「雨を見くびるな」の頃は、完全に生楽器主体のイメージでした。

堀込:そうですね、どちらかといえばアコースティックな感じ。

—そういう意味で「昔に戻った」と捉える人もいるかもしれませんが、『crepuscular』までの経験値を反映して、現行の音楽シーンとも向き合ったサウンドになっていますよね。それこそ出だしの、一瞬で終わるイントロからして今っぽい。

堀込:前奏が入るより、ちょっとしたきっかけが頭にあって、すぐに歌が始まったほうがかっこよく聞こえたんですよね。グルーヴも感じられるし、「ハッ!」となるようなインパクトもあって。

—やはり意図的に短くしたんですか?

堀込:実は長いバージョンも一応作ってみたのですが、かったるいなって(笑)。最初に作ったデモはいきなり歌からでしたが、「イントロを作らなきゃ」と思って付け足したら、途端にまどろっこしく感じたんですよね。それにイントロを添えるなら、間奏も少し長くしないとバランスが崩れるし、そうなると従来のポップスのフォーマットと変わらなくなってしまう。曲調そのものがポップス的だから、構成までそういう感じにすると本当に昔のキリンジみたいになるので、それはあんまりだなと。だから構成は思いきってTikTok世代、ギターソロを聴いていられない世代に向けてみました(笑)。

—この曲のアウトロにもギターソロが入っていますよね。しかも弾いているのは高樹さん。

堀込:あれは飛ばされないでしょう?(笑)。あそこは僕のギターより、「♪タン、タタン」っていうキャッチーなフレーズを聴いてほしいですね。何回も聴きたいと思ってもらえそうな、あのリフが中心で、ギターソロは邪魔にならない程度の存在感を心がけました。

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Photo by Rika Tomomatsu

—曲構成は短い間奏も挟みつつ、2番で終わるシンプルな作り。

堀込:それだけで4分くらいの長さになってしまって。5分台だと今は長いじゃないですか。ただ繰り返してはいますけど、ハーモニーやメロディをいじっていたり、2コーラス目のヴァースを少し長くしたり、聴き飽きないように工夫していて。厳密に言うと同じパートが一つもない曲なんですよ。Aメロ→Bメロ→サビ→間奏と来て、そのあとにAメロを変奏したもの、コードを変えたものが出てくる。シンプルなようで手が込んでいるというか。

—生演奏の温かみとスクエアなリズム感覚が共存しているところにも、近年の積み重ねを感じます。

堀込:ドラムは伊吹文裕くん。以前はスクエアに聴こえるような演出にも取り組んでましたが、今回は必要最小限の編集だけなので、(演奏が)フワッとしていると思うんですよ。

—『愛をあるだけ、すべて』(2018年)の頃は、キックの演奏をサンプリングして均等に貼ったりしていたそうですよね。あの時期のシャープな音像に比べると、たしかに柔らかさがある。

堀込:「グリッドに合わせました」みたいな堅苦しさのない自然な演奏ですよね。

―曲作りで参照したものは?

堀込:キャロル・キングやアル・グリーンの感じを意識しました。「Its Too Late」の憂いをもったメロディ、「Lets Stay Together」みたいなハイ・サウンドのリズム。結果的にハイ・サウンドからは少し離れましたが、みんなで話し合うときもその辺を参照しましたね。

—「再会」のときはビル・ウィザースが挙がりましたが、70年代の曲をレファレンスにしつつ、出来上がってみるとモダンな音になっているのが面白いですね。

堀込:そうですね。でも、ミックスの段階で70年代寄りに仕上がりかけたんですよ。シュギー・オーティスも挙がっていて、ああいう「いなたさ」を持たせようとしたら、「これって昔のキリンジじゃない?」となって(苦笑)。「もう少しアップデートされた音にしたいから、グルーヴが伝わるミックスにしよう」とエンジニアとも相談して、最終的にはうまくいきました。

「素敵な予感」に込めたもの

—「Rainy Runway」の歌詞でいうと、サビのフレーズがいいですよね。”遊歩道はランウェイ/誰もがきっと思わず二度見”のくだりはミュージカル的というか。

堀込:そうそう。フレッド・アステアとか『シェルブールの雨傘』みたいな。別に『ラ・ラ・ランド』でもいいんですけど(笑)。ミュージカルって傘を小道具としてよく使うじゃないですか。あとは、大通りをお洒落して歩いていく光景をイメージしました。

—”きらめく街並み/新しい服と靴に似合うヘアカラーためそう”という一節もそうですよね。性別を特定させないという点も含めて、素敵な表現だと思います。

堀込:あそこは”ヘアスタイル”だとつまらない気がして、もっと思いきった感じにしようと。「青くしてみました!」みたいな。僕は一度も染めたことないんですけど(笑)。

—言われてみれば、高樹さんの茶髪とか見たことないです。

堀込:僕こそやったほうがいいのかもしれないですね(笑)。「どうしたの?」ってなりそうですけど。

—ファンは確実に大喜びですよ。”新しいヘアカラーためそう”、「メガネを語る」以上の特集になりそうです。

堀込:メガネ……”新しいフレームためそう”。

—(笑)。

堀込:よっぽどのフレームにしないと、「お!」って思ってもらえないでしょうね。

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—歌詞に話を戻すと、最後に”素敵な予感しかない!”と言いきってるところが、Twitterで特に人気みたいです。

堀込:「がんばろう!」だと押し付けがましい感じがするし、確信を持っているのも変な気がするんですよね。「楽しい気分になってきたかな?」くらいの感じにしたくて、”素敵な予感がする”だとそのままだから否定形にしてみました。「○○しか勝たん」は「オジサンどうしたの?」ってなるかもしれないけど(笑)、「○○しかない」は普通に使うから、これだったら自然かなと。

—「再会」もそうでしたが、最近のKIRINJIはポジティブな言葉が目立つ気がします。

堀込:今は刺々しいものが世の中に溢れていますよね。昔は極端なものやエグいものが表現の中にあって、みんな温厚に生きてた気がするんですけど、誰もが刺々しいものを隠さなくなってしまったから。ネットのコメントとかも酷いじゃないですか。だから、自分の歌でわざわざそういう表現をするのはやめようと。あとは曲調が穏やかというか、スッと馴染むものがいいと思うんですよ。

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Photo by Rika Tomomatsu

—「Rainy Runway」は高樹さんがいつも以上に歌いやすそうで、それも風通しのよさにつながっているのかなと。

堀込:レンジを少し下げたんですよね。自分ではやや高めのほうが声がよく出ると思っていましたが、低くしたほうがライブで歌うのも楽ですし(笑)、キーもいつもより下げています。ただ、サビの一番上がるところは割と高めなので、そこを気持ちよく出すために、導入の部分は低くなったという感じですね。

—歌声にもドラマチックな起伏があるように感じました。

堀込:そうですね。1番と2番のサビで歌い方を変えたりもしていて。割と何回も歌ってみながら、歌詞とかサウンドの変化だけではなく、それに伴って歌の表情も変わっていくような成り立ちにしようと意識しました。

サマーソニック、フレッシュであるための秘訣

—冒頭でライブやフェスの話がありましたが、今年の夏は弾き語りツアーも控えていますし、8月のサマーソニックも楽しみです(東京公演のみ)。いわゆる洋楽フェスへの出演は初めてですよね。

堀込:はい。サマーソニックは以前から出演したかったんです。ご担当の方に最近のライブをいくつか観ていただく機会があり、幸運にも出演させていただくことになりました。幕張の会場に行ったことはないのですが、僕らが出るBEACH STAGEはきっと海が見えるんですよね?

—海岸沿いの砂浜で、ロケーションも最高ですよ。

堀込:BEACH STAGEのラインナップは、KIRINJIのお客さんが好きそうな感じですよね。ネバヤン(never young beach)、タヒチ80だったり。

—たしかに。他にも注目している出演者はいますか?

堀込:リンダ・リンダズは気になります、ウチの子どもたちと同じくらいの年頃というのもあって。曲もキャッチーでいいですよね。ちゃんとツボをついてくるメロディだし、歌も上手い。しかも、ザ・クロマニヨンズが同じ日の同じステージに出るんですよね、美しい邂逅が見られるかもしれない。

—KIRINJIのライブはどんな感じになりそうでしょう。先日のFUJI & SUNで披露した千ヶ崎学さん(Ba)、宮川純さん(Key)、「薄明」でフィーチャーしたマイカ・ルブテさん(Vo, Key)、シンリズムさん(Gt)、BREIMENのSo Kannoさん(Dr)の6人編成を発展させたものになりそうだと、ファンクラブのコラムには書いてありましたが。

堀込:そうですね。FUJI & SUNは結構ポップな感じになったので、今度はもっとガチッとした演奏で、グルーヴ感が求められる曲もできたらと思っています。じっくり音楽を聴くために来る人が多いフェスだと思うので、ワンマンでやるのと同じような、しっかりパッケージングされたライブにするつもりです。

—ソロ・プロジェクトの強みを生かしたフレッシュな布陣ですよね。特にBREIMENは勢いがありますし、KannoさんがKIRINJIの曲を叩くのも見どころだと思います。

堀込:Kannoくんは若いのに上手いですよね。「森、道、市場」では楠さん(バンド時代のメンバーだった楠均)にドラムをお願いしたので、また演奏も全然違うんですよ。あのときは千ヶ崎くん、宮川くんとの4人編成で、こちらもスリリングで楽しかったです。若い人たちとポップな感じでやるのと、慣れ親しんだ人たちでやるのでそれぞれの良さがあって。今の編成だと両方できるから、それはいいなって思います。

—サマソニのラインナップを見ると、大半が若いアーティストで、欧米からK-POP、アジア、日本の最先端までいろんな顔ぶれが混ざっていますが、このなかにKIRINJIが並んでいても何の違和感もないですよね。これってすごいことだと思うんですよ。

堀込:ありがとうございます。

—音楽シーンでも世間一般でもそうだと思いますが、ある年齢に達したら中堅、ベテランと勝手に区切られていくなかで、KIRINJIを「ベテラン」と書いている文章はほとんど見かけたことがない気がします。

堀込:新陳代謝をちゃんとするようには心掛けています。仮に同じ体制でずっと続けていたら、絶対ベテランと見なされていたような気がします。そこで一つ大きな変化があったのも大きいと思いますね。

—とはいえ、本当にフレッシュであり続けるのは難しいと思います。そうであるために意識していることはありますか?

堀込:昔から一緒にやってるミュージシャンばかりで固めてしまうと、「そういう島の人たち」になりますよね。そうなると自分たちが作りやすいもの、昔からのお客さんが聴きやすいものを作るようになって、どんどん古臭い感じになってしまう。

もっとも、僕自身も骨格の部分では、古臭い音楽をやっていると思うんです。そこでせめて伝え方というか、ミックスの面で工夫したり、サポートメンバーをフレッシュな人たちにお願いしたりするのは意識しています。そうすれば、その世代のリスナーも聴いてくれるでしょうし、KIRINJIとしてのスタンスも伝わるはずなので。

—次のアルバムの話をするのは気が早かったですか?

堀込:とりあえず一曲作ったので、もう一曲くらい作ったら見えてくるかもしれないです。ライブも頻繁にやりつつ、その合間に曲を作らないといけないので。今年はなんだか忙しいですが、がんばります。

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Photo by Rika Tomomatsu

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KIRINJI

「Rainy Runway」

配信:https://KIRINJI.lnk.to/Rainy_Runway

KIRINJI 弾き語り ~ひとりで伺います

2022年7月8日(金)京都・京都文化博物館 別館ホール

2022年7月9日(土)兵庫・海辺のポルカ

2022年7月10日(日)岡山・蔭凉寺

2022年7月22日(金)佐賀・浪漫座

2022年7月23日(土)熊本・早川倉庫

2022年7月24日(日)福岡・森本能舞台

2022年8月26日(金)高知・蛸蔵

2022年8月27日(土)愛媛・萬翠荘

2022年8月28日(日)香川・丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 2階ミュージアムホール

詳細:https://www.kirinji-official.com/schedules

SUMMER SONIC 2022

2022年8月20日(土)、21日(日)

※KIRINJIは8月20日(土)東京会場のBEACH STAGEに出演。

会場:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ

詳細:https://www.summersonic.com/

BABY Q 大阪場所

2022年9月3日(土)

会場:大阪市中央公会堂 大集会室

出演:大橋トリオ / KIRINJI / 矢野顕子

詳細:https://day-off.today

公式サイト:https://www.kirinji-official.com/

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