園子温「ぼくはこうして悪に目覚めた」...最も影響を受けた本を初公開

園子温「ぼくはこうして悪に目覚めた」...最も影響を受けた本を初公開

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/05/23
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「性」に目覚めた少年時代

30歳くらいの頃、大島渚さんから「本ばかり読むと頭でっかちになるぞ」と言われ、あまり本を読まなくなりました。とはいえ、少年期から青年期に読んだ本が、今の僕を作ったことは間違いありません。

子どもの頃にはまったのは、手塚治虫さんと永井豪さんでした。手塚さんは『ブラック・ジャック』が発表された頃で、当時読める作品は全部、古本屋で買いあさって読みました。『火の鳥』は、そのスケールの大きさに圧倒されました。人類が滅んだあと、ナメクジが進化して文明を築くとか、話が生命の起源から滅亡までに及ぶ。

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突拍子もない設定は、小説にはできない漫画ならではの表現で、漫画家という職業にも憧れを抱きました。手塚さんの作品はさまざまな世代を通して読まれる「王道」ですが、永井さんの作品は当時「異端」であったと思います。

ハレンチ学園』は少年誌に連載された学校生活がテーマの作品でありながら、過激な性描写と教師への批判があり、世間でも激しい論争を呼び起こしました。僕自身はここで性の目覚めを経験し、『チビっ子猛語録』というデンマークの本でさらに性への関心を深めました。

『ハレンチ学園』はファンタジーですけど、『チビっ子猛語録』ではセックスとはどのようなものかが事細かに解説され、現実に即した「性」が描かれていました。これはみんなに伝えなくてはと思い、「君の両親はこんな風にセックスをしている」みたいな内容の、校内新聞をガリ版で作ったんです。

その結果、読んだ同級生がこんなのは嘘だと泣き喚いたり、先生が激怒したりと、なかなか大変なことになりました(笑)。

青年期にはまったのは寺山修司です。詩もエッセイも映画も好きですが、特に印象に残っているのは『家出のすすめ』です。家出だけでなく、いわゆる「悪徳」を積極的にすすめるような内容でした。

当時はまだ童貞で、地元の豊川(愛知県)にいるままでは、社会から取り残されてしまう焦りがありました。そんな時にこのエッセイ集を読み、一人前になろうと17歳で家出をして、東京に飛び出しました。中原中也やランボーの詩集にも夢中になりましたが、どれも10代にしか共感できない、青春の一冊です。

続く20代は、何もかもがうまくいかない「暗黒時代」で、映画の台本を書き溜める日々を送っていました。そんな時期に読んで心を落ち着かせていたのが、ジャン・ジュネの『泥棒日記』です。

ジュネは言ってしまえば「悪」の代名詞のような人物で、若い頃は窃盗や麻薬密売、男娼などを繰り返していました。『泥棒日記』はそうしたジュネの、事実と虚構が入り混じった自叙伝で、その中にある「悪」の魅力に惹かれました。

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絶倫ぶりに嫉妬した

ヘンリー・ミラーやドストエフスキーとも、この時期に出会いました。ミラーの『北回帰線』も「悪」という文脈で読んでいたように思います。ミラーは別に犯罪者ではないですが、何人もの女性と関係をもって、生涯で8回も結婚をしています。

『北回帰線』はそんな彼の自伝的小説で、作中では激しい性描写も含めた、彼の絶倫ぶりが描かれます。そうした姿に、モテなかった自分は激しい嫉妬も感じていました。

ミラーの作風はジュネとは対照的です。ジュネは繊細でロマンチックな感じですけど、ミラーはもっと明るくて、カラッとした感じ。文章もラップのようで心地よかった。東京で挫折し、故郷に戻ったときに読んだのが、ドストエフスキーの作品です。当時の僕は、幻聴が聞こえたり、超能力が使えると思いこんだりするほど精神が追い込まれていました。

そんな状況で、ドストエフスキーのすべての作品を1週間ほどで一気に読んだのです。今日は『罪と罰』、明日は『地下室の手記』みたいな感じでしたね。難解な古典に挑むという感じではなく、ひたすら鬱屈した作風が当時の自分にものすごくフィットしていたので、ジュブナイル小説を夢中になって読むという感じでした。

ここでは便宜的に『カラマーゾフの兄弟』を挙げましたけど、本当はドストエフスキーの作品はすべて合わせて、大きな一冊だと思っています。

日本人には「悪」のパワーが圧倒的に足りません。気が弱く行動力のない善人であるより、自分のエゴを大切にすること、そして自分の危機にちゃんと怒れて、その怒りのエネルギーを持続させられることが大切なんです。そうした「悪」のパワーを僕に養ってくれたのが、振り返ると、ジュネやミラーの小説でしたね。(取材・文/若林良)

▼最近読んだ1冊

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「初期のハリウッド映画界のさまざまなゴシップが語られます。さながら地獄絵図ですが、根底にあるのは製作者たちの強いバイタリティで、これからハリウッドに進出する自分もタフにならなければと思いました」『ハリウッド・バビロン』(1・2)ケネス・アンガー著 明石三世訳 パルコ 入手は古書のみ

園 子温さんのベスト10冊

第1位 『泥棒日記
ジャン・ジュネ著 朝吹三吉訳 新潮文庫 750円
「後期のジュネの作品はまだまだ開拓できていないものも多く、壮年となった今こそ、読み通したい思いがあります」

第2位 『北回帰線
ヘンリ・ミラー著 大久保康雄訳 新潮文庫 750円
女性遍歴の豊かさでも知られるミラーの処女作にして、性描写の過激さからアメリカで発禁処分となった衝撃の一作

第3位 『カラマーゾフの兄弟』(上・中・下巻)
ドストエフスキー著 原卓也訳 新潮文庫 890円(上巻)、840円(中巻)、950円(下巻)
ドストエフスキー最後の長編小説。善と悪、生の意義、魂の救いといった人間の根源的問題に深く切り込んでいく

第4位 『火の鳥
手塚治虫著 朝日新聞出版 1100円(1巻)
「『復活編』までは特に面白く、手塚さんの世界観が濃縮されていると思います」

第5位 『中原中也詩集
大岡昇平編 岩波文庫 1000円
『山羊の歌』『在りし日の歌』に加え、中也の未刊詩篇から珠玉の作品を選出した決定版

第6位 『50周年記念愛蔵版 ハレンチ学園』(全6巻)
永井豪とダイナミックプロ著 小学館 各920円
「単行本が出る度に夢中で読みました。読みながら勃起したことも良い思い出です(笑)」

第7位 『パノラマ島奇談
江戸川乱歩著 落合教幸監修 春陽堂書店 800円
「残酷さとエロさが交わる江戸川乱歩の作風は、自分の映画にも影響を与えました」

第8位 『家出のすすめ
寺山修司著 角川文庫 480円
詩や映画をはじめ、さまざまな分野で才能を発揮した寺山修司による画期的な青春論

第9位 『ノックの音が
星新一著 新潮文庫 430円
「最初に読んだ星新一の短編集で、そこからショートショートの世界にはまりました」

第10位 『ランボー全詩集
アルチュール・ランボー著 宇佐美斉訳 ちくま文庫 1200円
「詩を書き始めた10代の多感な時期に、ランボーに出会えたことは大きかったですね」

『週刊現代』2020年5月23・30日合併号より

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