「西麻布の2万円ディナーからコンビニコーヒーの生活に一転...」 “マッチングサービス”を起業した30代経営者が電通を4年で辞めた理由

「西麻布の2万円ディナーからコンビニコーヒーの生活に一転...」 “マッチングサービス”を起業した30代経営者が電通を4年で辞めた理由

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/05/03

季節やトレンドをふまえて設定されるテーマに基づいてセレクトされた文庫本を扱うオンライン書店「Chapters」。本の購入履歴をベースに、同じ選書をした人同士がつながって本の感想を共有できるビデオチャット「アペロ」の運営など、本を通した人との出会いをデザインしています。創業者の森本萌乃さんにお話を聞きました。(全2回の1回目。続きを読む

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森本萌乃さん。MISSION ROMANTICのオフィスがある、表参道のコワーキングスペース「PROP」で 。「PROPも電通時代の先輩の紹介で借りることができました」と笑う。

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お金がないけど幸せ

──大学時代にソングリーディングのサークルを立ち上げ、新卒で入社した電通は4年で円満退職して起業。ご経歴をうかがうと、人生の成功街道を歩み続けていらっしゃいます。

森本萌乃さん(以下、森本) ありがとうございます。めっちゃ気持ちよくなってきた(笑)。でも残念ながら実態は「成功者」とはほど遠いです。起業後1年半は自分の給料も出せないくらいでしたし、融資してもらった借金1千万円近くを返すのに今も必死ですから。

新卒で電通に入社した時は、正直自分でも「人生勝った」となぜか思いました。憧れ続けた会社だったので、内定通知をいただいた時は、それはそれは嬉しかったですね。まさか4年で辞めることになるとは考えてもいませんでしたし、その後自分が起業することになるとは思ってもいなかったです。

電通時代は、ジミーチュウのファミリーセールに行って、夜は西麻布で2万円のディナーを食べ、毎日スタバのコーヒーを飲んで、という典型的なブランド志向。いまは生活が一転し、古着を着てコンビニコーヒーを飲んで、全く違うライフスタイルになりました。

でもそんな毎日が惨めかというと、これが意外に幸せで充実しているんです。

あ、このおしゃれオフィスの立地だけ見たら成功者と言ってもいいかもしれませんよね(笑)。

──「惨めに感じない」理由は、どこにあると思われますか。

森本 不安はたくさんあるけれど、人生に不満がなくなったからだと思います。会社に属している時は、「こんな頑張っているのに!」と不満が爆発することもありましたが、そういう不満がいま一切ないんです。

サービス開発中は、目の前にお客様がいないので「こんなことをしていて本当にいいのかな」と迷うこともありましたが、サービスを開始した現在は、お客様にリアルに評価していただけるので、精神的に安定したというか、自分でやりたいことができている喜びを実感しています。「お客様に喜んでいただき、その対価が給与として自分に返ってくる」というのが自分の性に合ってるみたいです。

お客様のリアルな声が聞きたいと気付いて

──憧れ続けてようやく入った電通を辞めることに未練はなかったのですか。

森本 まったくなかったです。仕事は本当に楽しかったんですが、基本的に電通の仕事は「BtoB(企業間取引)」です。たとえばイベントの企画を手がけた時、私が関わるのはクライアントやイベント実行側の担当者で、実際にイベントに来てくれたお客様に直接お礼を言う機会はないんですよ。

私は、クライアントが喜んでくれるよりも、「このイベントに行けてよかった」とつぶやいてくれるお客様のリアルな声が聞きたいんだということに、会社に入った後で気づきました。そんな時、クライアントだったMy Little Boxというパリ発のスタートアップ企業の日本支社から「うちで働かないか」と誘っていただいたんです。上司や先輩からも「森本はBtoC(企業対消費者取引)に向いているし、こんな良縁はないから行った方がいい」と祝福していただき、二つ返事で転職を決めました。

「ロマンチックな出会いを生み出す人になろう」

──その後、2度の転職を経て、『MISSION ROMANTIC』を起業されます。起業の経緯を教えてください。

森本 20代後半に、出会いがほしくてマッチングアプリにハマっていた時期がありました。でも、顔や条件で相手を選ぶ自分にだんだん疲れてきて。そんな時、金曜ロードSHOW!で『耳をすませば』を偶然見たんです。

図書館で偶然出会った2人が、自分の夢というポジティブな障壁に悩み、恋が生まれていく──。

「私が求めていたのは、これだ!」と衝撃を受け、その日のうちに「このロマンチックな出会いを生み出す人になろう」と、起業を決めました。

社名に「ロマンチック」を入れたのはコンセプトを明確にしたかったからです。私はコンセプトから入るタイプなので、「ロマンチックな出会いを実現したい。そのためには何をやろうか」と逆算して考えていき、現在提供しているサービス「Chapters」を作りました。

──映画のように本で出会いは生み出せると思いますか。

森本 思います。私は本を読み終えた後に誰かと共有したくなることが多いんですが、まわりに同じ本を読んでいる人がいなければ共有できませんよね。だから、この気持ちをつなげる環境があれば喜んでくれる人は絶対いると思うんです。何より、私が嬉しい(笑)。

現在、「Chapters」では、本1冊に対して月に1人と出会えるビデオチャット「アペロ」を運営しているのですが、ユーザーの5~6割が毎月アペロに参加しています。みんな本でつながれる場所を探していたのだと思います。

「感覚の共有」は本こそできること

20分間のビデオチャットは、提供した本やそのほかの本についてお互いの質問に答えていく形式ですが、「同じ本を読んだ」という共通項があると、初対面の気まずさが少なくて話が続くんですよ。特に、「いま読んでいる本、好きな本のジャンルは何ですか」「次の“積ん読”で狙っているのは何ですか」「今日お会いした相手におすすめしたい本は何ですか」というような質問はすごく盛り上がります。

「Chapters」の前に、本を仲介にしたリアルなお食事会を提供していた時期もあったのですが、その時はどちらかというと本の話よりも「お仕事何ですか」という一般的な話が多かったんですよね。オンラインになったいまは、ダイレクトに本の話が多くなりました。

──「Chapters」の強みはどこにあると思いますか。

森本 マッチングアプリは「自分の目的にあった人と出会う」ことを目的としているので、現実の出会いと少し違う、目的へ最短距離で到達する使い心地に抵抗を感じる人もいると思います。でも、出会いの演出に「本」を挟む「Chapters」の場合、人と出会う前に本との出会いが待っているんです。「本を読みたいと思って入会したら、たまたま趣味のあう人と出会えた」というさりげない出会いができます。それって、すごくロマンチックだと思うんですよ。そういうロマンチックな出会いができる場って、ほかにないですよね。

リモートワークやSNSでもそうですが、オンラインで自分の見せ方を頑張ることがしんどいと思っている人って、結構いると思うんです。

それに、マッチングアプリの世界では、たとえ現実とかけ離れていようが、写真もプロフィールも「盛れる」子に人気が集まりますが、現実におつきあいしたいなと思う人って、「話し方が好き」とか、「一緒にいてなんか居心地がいい」とかデジタルマーケティングでは拾えない感覚が重要じゃないですか。この「感覚の共有」は本を挟むことで無理なく実現できるのかなと。

「Chapters」が広がることでロマンチックな出会いが増え、そして本を読む人が増えたら、きっと、世界はもっと輝くと思っています。

「ビデオチャットをした8割が連絡先を交換している」というデータがある

──「Chapters」で提供しているのはあくまで「出会い」です。カップル成立や結婚という「結果」を重視していないのはどうしてですか。

森本 「Chapters」が演出できるのは、「本屋さんで同じ本に手が伸びたことがきっかけとなって、そのままお茶に行く」ところまでなんです。どこにお茶しに行くか、どんな話をするか、どんな洋服で来るかは、私の範囲ではない。だから「Chapters」では、カップル成約率や結婚率などのデータを追っていません。

ただ、「ビデオチャットをした8割が連絡先を交換している」というデータはあります。「本」って、たった20分話しただけで連絡先を教えたくなるくらい盛り上がれるアイテムなんですよ。これって、すごいことだな、と思っています。

ビジネスって、絶対一人じゃできない

──起業後、どのようなご苦労がありましたか。

森本 ご苦労だらけですよ(笑)。私は起業したかったわけでも社長になりたかったわけでもなく、お客さんに向き合いたいという思いだけで会社を作ってしまったので、お金もないし、経験も知識もない。それでも、「本棚で手と手を合わせたい」という思いに共感してサポートしてくれる人の輪が少しずつ広がってきたのは、本当にありがたいことです。

いま実感として思うのは、ビジネスって、絶対一人じゃできないということです。Chaptersは、アイディア先行で、自己資金を投じて、私の家のリビングルームで始まったようなサービスだったので、ある程度は1人でできるとたかをくくっていました。でもそれは違っていて、仲間や協力者がいなければ絶対に諦めていたしサービスを世に出せていなかったと思います。まだまだ満足な対価をお渡しできていないのに、ビジネスの未来に魅力を感じてサポートしてくださる方がいることが、今では大きな支えとなり、私も何があっても負けないという気持ちで、歯を食いしばって頑張るモチベーションになっています。

「なんとなく」決めたことって、その後のズレが少ない

──うまくいかなくて落ち込んだりくじけそうになった時はどうやって気分転換されているのですか。

森本 私、すごい忘れっぽいんですよ。すごい落ち込んだ次の日に「なんて素敵なサービスをやっているんだ、私は」と自信満々で会社に来られる。落ち込みが2日続いたり、1週間続いたりすることもあるんですが、自分で絶対気持ちがあがってくる。これはもう才能だと思います。

学生時代、ソングリーディングのサークルを立ち上げたんですが、私がチアを始めたのは、楽しそうだし、かわいくていいなとなんとなく思ったからなんです。電通に入りたいと決めたのも「なんとなく自分に合っていそう」だからですし、「なんとなく」決めたことって、結局直感にあっているので、その後のズレが少ないんですよ。だから、人生で大切なことは、「部活動を決めるくらいの勢いとはったりで決める」覚悟で生きる。実はこれが、人生を楽しくするメソッドなんじゃないかと思っています。

【続きを読む】「無能な経営者」と言われても…「本」のマッチングサービスの起業家、森本萌乃が送る“ロマンチック”な出会い

(取材・構成:相澤洋美、撮影:文藝春秋/杉山秀樹)

「無能な経営者」と言われても…「本」のマッチングサービスの起業家、森本萌乃が送る“ロマンチック”な出会いへ続く

(森本 萌乃)

森本 萌乃

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