「非常事態時に東京五輪をやっている場合か」との意見もあるなか、村井チェアマンが自国開催で考えるスポーツの価値

「非常事態時に東京五輪をやっている場合か」との意見もあるなか、村井チェアマンが自国開催で考えるスポーツの価値

  • サッカーダイジェストWeb
  • 更新日:2021/07/21
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東京五輪の開会式に先駆け、なでしこジャパンは7月21日にカナダ代表と戦う。ミスを恐れず、堂々たるプレーを期待したい。/JMPA代表撮影

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Jリーグではここまでサポーター間でクラスターはない。運営者と観戦者の信頼関係があってこその実績だろう。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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吉田は有観客の意義について言及。僕の個人の考え方であって正解ではない」ともコメントしている。写真:JMPA代表撮影

コロナ禍での東京五輪の開催について、「非常事態の時にやっている場合か」「コロナに苦しんでいる人がいるのになぜ?」と疑問視する向きもある。一方で、「オリンピック=健康被害をもたらすものでは決してない」との意見も。村井チェアマンが今回の五輪を通じて是非、再認識したいという“スポーツの価値”とは──。

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リオ五輪が開催された5年前に比べ、現在はSNSなどコミュニケーションツールの浸透が顕著です。誰もが簡単に情報などを発信できる世の中になり、そのツールでの誹謗中傷も社会問題になっています。新型コロナウイルスというパンデミックが重なり、社会的にはイライラが高じているような状況ですよね。

気に入らないニュースがあれば叩く、ひいては非難した側が逆に集中砲火を浴びるケースも見受けられます。ちょっとしたことで批判され、真綿で首を絞められるようなプレッシャーを味わい、それによって心に刺さった棘がなかなか抜けないで苦しむ。残念ながら、こうした負の連鎖が蔓延しているようにも見えます。

東京五輪の開催について、「非常事態時にやっている場合か」「コロナに苦しんでいる人がいるのになぜ?」と疑問視する向きもあり、それに対する反論もまた見られます。コミュニケーションツールがここまで発達した以上、こうした議論が活性化するのは当たり前。なくすのはまず無理です。以前のような日常を取り戻すまではまだ時間がかかりますし、コロナ禍での困難や世論とどう付き合っていくかを一人ひとりが考えないといけません。

こうした難局を乗り越えるうえで勇気をもらえるのがスポーツだと考えています。例えば体操競技の本番でピタッと着地できるかなんて神のみぞ知ると思わざるを得ません。たったひとつの失敗でそれまでの練習が水泡に帰す恐れもありますよね。
ある意味サッカーは特殊で、ミスありきのスポーツ。手でボールを扱えない分、パスミスやシュートミスが目立ちますよね。オウンゴールもありますし、心が折れやすい競技です。それでもミス覚悟で立ち向かう選手たちの姿は今の困難な社会に何か示せるのではないでしょうか。

私見を述べさせてもらうなら、東京五輪はミスを恐れず競技に挑む選手たちの断固たる思いを世界中に発信できる良い機会になると、そう捉えています。

ちなみに、Jリーグで選手たちの折れそうな心を支えてくれるのがファン・サポーターの存在です。90分の試合を戦い抜くうえで、彼らがゲーム展開、結果に与える影響は大きいです。サッカーは選手たちだけではなく、ある意味、お客様と一緒に作り上げていく競技です。だからこそ、Jリーグは“お客様を迎え入れること”にこだわってきたのです。

もちろん、その前提に感染防止はあります。これは議論の余地がありません。感染対策を徹底させたうえで試合運営を行なうスタンスで、Jリーグは昨年から1500試合以上、人数制限はあるにせよスタジアムにお客様を迎え入れています。コロナ禍でもサッカーの試合観戦は可能と証明したわけです。
ここまでお客様の間でクラスターがないのは、サッカーを愛する方々、ファン・サポーターの方々のおかげです。昨季の開幕当初は我々Jリーグのスタッフも混乱していて「新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」に「太鼓等の鳴り物の使用禁止」「手拍子禁止」との項目も入れていましたが、太鼓を叩いても、手拍子しても飛沫感染にはならないという当たり前の事実にあとで気づくわけです。

しかし、そうやってガイドラインをアップデートしただけでは感染防止になりません。我々が開示した情報を受け取ったファン・サポーターの方々がルールを守って、初めて成立する。その点で、サッカーを守るためにお客様は当事者として大へんな努力をしてくれました。

Jリーグの場合、最初は観戦ルールをかなり窮屈なものにしました。ゴルフでいう「フェアウェイ」(芝生を短く刈りそろえ整備されたエリア)に凄い数のOB杭を打って、プレー可能なエリアを極端に狭める、そういった話をJリーグの実行委員会でしたのを覚えています。未知のウイルスに対して疑心暗鬼となり、だから「太鼓禁止」「手拍子禁止」という項目も設けたわけです。

日本野球機構とも議論を重ねていくうちに「飛沫の危険性がある指笛はダメだけど、手拍子は大丈夫」「アルコールもお客様が声を出さなければOK」と段階的にOB杭を外してフェアウェイを広げていきましたが、そこにはお客様との信頼関係がありました。我々がいくらルールを整備しても、それを守る側がしっかりしないといけない。その点で、我々とファン・サポーターの間には確かな信頼関係があったと確信しています。

しかし、これはあくまでJリーグの話。東京五輪と同じ土俵で考えてはいけません。五輪は個人種目もあれば、団体競技もあります。屋内、屋外の違いもありますし、単一競技のJリーグとは規模が違います。

しかも東京五輪は短期間(7月21日~8月8日)の間に毎日競技が行なわれるわけで、何か起きた場合に立て直す時間が限られます。ですので、Jリーグとはまるで構造が異なるものと捉えるべきです。これまで我々が蓄積してきたエビデンス(検証結果)はひとつの知見、ひとつの側面として提供はできますが、五輪の感染防止につながるかと言えば確証はありません。
結局、多くの地域で無観客での開催が決まりましたが、それでも、観戦者の協力なしに五輪の成功はないと断言できます。

本来であれば、たとえば遅い時間帯までかかりそうな競技は無観客に、分散退場が可能で会場から最寄りの駅まで密にならない状態を作れるなら観客を入れるといったように、丁寧な議論を重ねることが必要なはずですが、細かい部分を省いて東京五輪という括りで「観客あり・なし」という極論になってしまった印象があり、そこについてはそうならないような方法論があったのではないかという想いもあります。
オリンピックそのものはスポーツの祭典と言われています。単なる競技成績を競い合うだけではなく、スポーツの価値を世界中に再発信する場でもありますよね。選手だけで大会が成立するわけではありません。ボランティア、観客、コーチングスタッフの方々をはじめ、いろんな人たちの支えがあってこその祭典です。「競技ができればいいでしょ」というような感覚になると、ちょっと私の中では違和感があります。

4年に一度のオリンピックということでスポーツが良くも悪くも注目されていますが、スポーツそのものは日常的に、身近なところに存在しています。実際、近所の公園でジョギングしている方がいたり、芝生の上でストレッチをしている方がいたり、それは総じて“いつもの風景”なのです。
少なくとも、「スポーツ=健康に被害をもたらすもの」では決してありません。できれば──。東京五輪を通じて、日常にスポーツがある幸せ、有難さを感じてもらいたいものです。コロナ禍で苦しい生活を強いられているなかでも、心に訴えるものがあるスポーツの価値を是非、再認識していきたいです。

<プロフィール>
村井 満(むらい・みつる)/1959年8月2日生まれ、埼玉県出身。浦和高在学中はGKとして冬の選手権予選にも出場した。早稲田大卒業後、リクルートに入社。そこで執行役員を務めるなどして、14年1月31日、大東和美氏のあとを受けて第5代Jリーグチェアマンに就任し、現在に至る。

取材・構成●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集長)

※本稿は、サッカーダイジェスト8月12日号に掲載された「J’sリーダー理論」の内容を加筆したもの。

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