「アイドルとの握手なんて自分から拒否する」ハロヲタの武士道とは

「アイドルとの握手なんて自分から拒否する」ハロヲタの武士道とは

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2021/02/23

2月19日から公開される映画『あの頃。』が大きな話題を呼んでいる。作品のテーマは「アイドル」ではなく「アイドルヲタク」。ハロー!プロジェクトのファン(ハロヲタ)がまだ「モーヲタ」と呼ばれていた2000年代初頭、推しの応援に青春を捧げた若者たちの青春群像劇となっているのだ。

初期モーヲタの過剰性について触れた前編に続き、中編となる今回は他のアイドルファンからも特別視されるハロヲタの特徴を再定義。原作本『あの頃。男子かしまし物語』(イーストプレス)著者であり、映画では松坂桃李演じる主人公のモデルになった劔樹人氏を中心に、昔からの劔のヲタ仲間である明大店長氏、アイドルヲタク界に強い影響力を持つピストル氏を交えて激論が交わされた。これぞモーヲタ頂上座談会だ!

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(写真左から、敬称略)明大店長、劔樹人、ピストル

◆「握手をしない」ハロプロヲタの矜持

──ハロプロのファンはアイドルファンの中でも少し特殊だと指摘されることがあります。どういうところに特徴があるとお考えですか?

ピストル:僕はそのうちハロプロだけじゃなくいろんなアイドルを追うようになるんですけど、最初にAKB48に行ったとき、なんというかファンがもっと狭いところを見ているような気がしたんですよ。AKB48もドームツアーをやるような存在になってからは体質が変わっていきましたけど、初期はすごく内向きな雰囲気でね。なにしろ同じ劇場で同じメンバーが同じ演目を毎日やっているわけだから「今日は〇〇ちゃんがこんなことをMCで話した」「今日は●●ちゃんがいなかったのでポジションがこう変わった」くらいしか論じることがないんです。ヲタ同士での活発な意見交換とかは皆無でした。そのへんはちょっとしたカルチャーショックを受けましたね。

劔:初期のAKBファンって若かったんですか?

ピストル:いや、ピンチケ(※若いアイドルファンの総称。AKB48劇場で販売される中高生向けのチケットがピンク色だったことが語源)は少数派。ハロプロ流れのオッサン連中が多かった。正確にいうと、ハロプロにハマりきれなかったオッサンたちです。要するにAKB48からは80~90年代の匂いがしたから懐かしくて安心できたんでしょうね。僕の印象からすると、ももクロ(ももいろクローバーZ)のヲタが気質的には『LOVEマシーン』や『恋愛レボリューション21』の頃のモーヲタに近かった。「オイ! オイ!」と粗暴に騒ぐような感じで。

劔:でも「もっとメンバーと近い関係になりたい」という考えを持つ人は、自然にハロプロからAKB48に流れていきましたよね。やっぱりそこが初期AKB48の軸だったわけじゃないですか。狭い会場でメンバーと話ができるというのが最大の強みであって。

明大:ハロプロは接触がほとんどなかったですから。当時のハロヲタは妙にストイックなところがあって、コンサート会場で「この満足感はキャバクラなんかじゃ絶対に得られない。俺たちは7000円払ったところで握手も会話もできないかもしれない。でも、それでいいんだ」って力強く頷いていました。

ピストル:その話、すごくわかるな。当時ハロプロは握手をほとんどしていなくて、海外ファンクラブツアーから徐々に解禁していったんです。その黎明期、僕がお見送り握手に並んでいたら、握手をせずに帰っていく人がいたんですね。「どういうことだろう?」と思うじゃないですか。それで周りのヲタに聞いてみたら、「あの人はハワイに行ったときですら握手しなかった」と言うんです。

要するに「握手をしにハワイへ行ったのではなく、そこでしか聴けないセットリストがあるからハワイに行ったんだ」というのが彼のプライドなんです。わざわざ30万円出してハワイまで行き、「アイドルとの握手なんて自分から拒否する」というのが自分なりの武士道(笑)。

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明大店長「当時のハロヲタは妙にストイックなところがあった」

◆ヲタ活はブルジョアジーの趣味

劔:当時もライブ会場前の広場にラジカセを持ち込みヲタ芸を打ちまくる軍団とかいたじゃないですか。あれは今でいうピンチケの趣もあるし、外に向けて自己主張したいというヲタの姿勢は昔も今も変わらないのかもしれない。今もSNSが発達する中でメンバーのことを漫画化する人が出てきたり、才能は途切れなくヲタの中から現れている印象はありますけどね。

ピストル:とにかくハロヲタってああだこうだと議論するのが好きだから、終演後に呑みに行きたがるんですよね。だけど、毎回のように居酒屋に行っていたらお金がかかってしょうがない。チケット代、遠征費、宿泊費に加えて居酒屋代で4000~5000円かかるとなると、ブルジョアジーの趣味という話になりますよ。若い子はついていけない。だからハロヲタってIT系のエリートサラリーマンとかが意外に多かったんです。

明大:その点、今の若いハロヲタは恵まれていますよね。無銭のリリイベもたくさんあるし、お金をかけないでもヲタ活動できる時代になったので。YouTubeとかもありますし。『あの頃。』に出てくるハロプロあべの支部の連中だって、なんだかんだ言ってもちゃんと働いていたじゃないですか。

劔:いや、あの人たちに限ってはそんなことない(笑)。常に誰かしら無職でしたよ。ちゃんと働いて稼いでいる人も借金はあったりしたし。今の僕は子育てがあるから前のように現場には行けないですけど、それでもその限られた状況の中でヲタク活動を満喫していますね。だから、それぞれが身の丈にあったヲタク活動をすれば幸せになれると思う。

ピストル:本当にそうですよ。自分なりのペースで楽しむのが一番です。逆にマズいのは他人と比較すること。握手でも「俺としゃべっているときより、あいつと一緒にいるときのほうがあの子はニコニコしていた」みたいな考え方をし始めると地獄の一丁目。

ここ数年で問題になった最前管理組合(※運営でもないのにスタンディング会場の良スペースを仕切る厄介ヲタク集団)にしたって「どうだ、見たか! 俺たちがこのコンサートの一番いい場所を牛耳っているんだぞ」とエクスタシーを感じているわけです。他の観客に対してマウントを取っている気分なんでしょうね。

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ピストル「他のヲタとの比較は地獄の一丁目」

◆保田圭の魅力を発見したヲタたち

劔:僕もバンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIの事務所で仕事をしていたから、若いアイドルファンの生態を見る機会もあったんですね。そうするとやっぱりTO(※トップオタク。ファンヒエラルキーの頂点にいる人物)になろうと躍起になっている層が一定数いるんですよ。「誰がヲタ芸口上を最初に言い出すか?」みたいなところで、ライブという名の“祭り”を仕切りたがっている。

明大:結局、それはメンバーに認知されたいからですよね? それは当時のハロプロにはなかった文化だなぁ。

劔:ハロプロファンの特徴として僕が感じるのは、いろんな価値観を認める傾向があるなということ。「アイドルなんだから可愛ければOK」という感じでは決してないんですよね。逆にいうと、顔が可愛くても何かしら光るものがないと人気メンバーになれないという部分もある。

これは20年前から一貫していることで、あややの隣に既婚者もいる太陽&シスコムーンや演歌の前田有紀が共存するダイバーシティ感はすごいなと感じていました。若い女性ファンが増えているのを見ると、こういう多様性が今の時代にマッチするようになったのかなと思います。

明大:失礼かもだけど、保田圭ちゃんなんて典型的な美少女というわけでは決してなかったですからね。だけど、間違いなくファンから愛される人気メンバーだった。もちろんそれは圭ちゃんの歌唱力という武器があってこその話なんだけど。今だったらモーニング娘。’21の小田さくらちゃんも女性を中心としてものすごく人気が高いけど、ステージでの様子を知らない外部のアイドルファンからしたら「なんで?」ということにもなりかねないと思うんです。

ピストル:顔だけじゃなくて、ステージでの説得力だったりストーリー性に惹かれているわけですからね。特に『LOVEマシーン』以降ファンになった人たちは、それまでのアイドル好きにない属性だったと思いますよ。今だったら、たとえば乃木坂46のファンからはそういった傾向をあまり感じないんですよね。

劔:つんく♂さん自身、“可愛い”の定義が広い方じゃないですか。いろんな可愛さがあってしかるべきだという価値観なので。

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劔樹人「多様性を愛するのがハロヲタの特徴」

◆ハロプロ顔とは?

──ただ、“ハロプロ顔”というのもよく他のアイドルファンから指摘されますよね。ハロプロだからこそウケる顔というか。

ピストル:逆に地下アイドルとかで可愛いとされるタイプって、わりと類型的なんですよ。カラコン入れて、派手につけまつげしてっていう感じで。それが今のアイドルのトレンドだとしたら、そこからは明らかに逸脱しているのかもしれない。マクドナルドのCMで話題になっているかみこ(上國料萌衣/アンジュルム)が入ったときは「おっ、珍しく今どきの子が来たな」って驚いたんですけどね。

明大:今はハロプロ顔じゃないメンバーも確実に増えていますよ。そういう意味でもハロプロは大きく変わったんだなと痛感しています。

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劔樹人◎松浦亜弥のMVを観たことで人生が一変。「神聖かまってちゃん」等のマネージャーを経て、「あらかじめ決められた恋人たちへ」や、「和田彩花」のベーシストとして活躍する。ほかに漫画家の顔も持ち、近著に『敗者復活のうた。』(双葉社)。

ピストル◎モーニング娘。黎明期から「娘。楽宴」「亜依国精神」といったファンサイトを運営(のちに日記サイト「なれのはて」も開設)。守備範囲はハロプロのみならずアイドルカルチャー全般に及び、その鋭い批評眼は大きな注目を集め続けている。

明大店長◎辻希美原理主義者。テキストサイト運営や度重なる遠征など度を越したヲタ活動が相手女性にバレ、結納直前に婚約破棄された過去を持つ。映画『あの頃。』で登場する劔と仲間たちの集団「ハロプロあべの支部」とは昵懇の間柄だった。

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(C)2020『あの頃。』製作委員会

『あの頃。』

2021年2月19日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国ロードショー

配給:ファントム・フィルム

(C)2020『あの頃。』製作委員会

―[モーヲタ頂上座談会]―

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