歴史的金星 日本サッカーは用具選びから進化している

歴史的金星 日本サッカーは用具選びから進化している

  • Wedge ONLINE
  • 更新日:2022/11/25
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サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で、日本が優勝4回の強豪ドイツに逆転勝ちする金星を得た。前半の劣勢からシステムを変更し、形勢を逆転させたその姿は、日本サッカーの進化を世界に見せつけた。こうした発展はトップレベルのものだけではない。初出場から7大会連続出場を果たしてきた日本サッカーの変遷を用品販売から見てきたサッカーショップKAMOを運営する加茂商事に取材した。

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躍進を遂げる日本代表(Wedge)

代表への前評判と大会成績の関係

今大会の日本代表公式ユニフォームが発表されたのは、開幕の2カ月前。半年ほど前に発表していた前回大会までと比べ、遅い時期での発表であった。「サッカーファンは急いで買いに来ていて、かつてないペースで売れた。代表メンバー発表を待ち、すぐに背番号を入れに来た」。同社の蔵並裕樹副社長は話す。ドイツ戦の勝利を受けて、さらに爆発的なユニフォームの販売数になっているという。

W杯日本代表に対する大会直前での人気と大会結果は反比例していると蔵並氏は指摘する。2006年のドイツ大会は「黄金世代」と呼ばれ期待されたものの予選リーグ敗退、10年の南アフリカ大会は直前での国際試合での結果が芳しくなくユニフォームの売れ行きが良くなかったところからベスト16進出、14年のブラジル大会は前評判が高く「2002年日韓大会以来の勢いでユニフォームが売れた」(蔵並氏)が予選リーグ敗退、18年のロシア大会は代表人気が高くなかった中でベスト16へと進んだ。

前評判が高くグッズの売れ行きが良いと大会結果は良くなく、期待が低く売れ行きも良くなかった時は大会で成績を残しそれに乗じて消費が動く、という周期を繰り返しているのだ。今大会は日本が強豪国ひしめく「死の組」に入ったこともあり、日本全体でのユニフォームの売れ行きは良くなかったという。初戦のドイツ戦は「ジンクス通り」と言って良いのかもしれない。

同社はこうした日本サッカーの酸いも甘いも共にしながら経験している。1968年12月、のちにサッカー日本代表の監督を務めた加茂周氏の弟である加茂建氏が「日本のサッカー文化の発展に貢献しよう」という思いで同社を創業した。その時から、コンセプトは「サッカー専門のスポーツ用品店」。その形態は今では全国各地に存在しているものの、当時は競技者数も少なく、Jリーグ発足の話もない。サッカー人気を考えれば厳しい船出だった。

それでも、同年のメキシコオリンピックで日本がサッカーで銅メダルを獲得したのを追い風に71年8月、大阪・梅田で第一号店舗を開業。当時は珍しかった海外の試合映像を店内で流して、来店者を増やした。

世界でも珍しいチェーン展開に

その後、1980年代、日本でのサッカー人気は徐々に高まりをみせた。日本で開催していた欧州と南米のクラブチーム世界一を決める「トヨタカップ」では、毎年国立競技場が満員になった。「世界の魅力を日本に伝え続け、サッカー人気を底支えしてくれてきた」と蔵並氏は振り返る。

こうした中で1993年のJリーグ開幕を迎えた訳だが、そこからの道のりも平坦ではなかった。「Jリーグ発足による爆発的な人気は、2年で終わった」と蔵並氏。華々しい開幕から少しずつ話題性が無くなっていき、バブル崩壊の影響もあり、スタジアムの客足は遠のいた。レプリカユニフォームの在庫が積みあがった。

それでも同社はサッカーを愛するサポーターや高みを目指す選手たちに最高のサッカー用品を提供し続けた。2002年の日韓大会での盛り上がり、先に触れた日本代表の闘いやコロナ禍でのJリーグクラブとの関係強化など、良い時も悪い時もサッカーと共に生きてきた。「僕らはW杯のある4年に一度、サッカーを応援しているわけじゃないから」と蔵並氏。

実際、同社のサッカーショップKAMO原宿店には、ラモス瑠偉氏やロベルト・バッジョ氏、デイヴィッド・ベッカム氏、クリスチアーノ・ロナウド氏はじめ国内外の歴代名選手らのユニフォームやシューズなど歴史を感じさせる品が展示されている。

今では、全国に19店舗を構える。サッカー専門のスポーツ用品店としてチェーン展開している企業は世界的にも少ないという。

日本人が持つようになってきたこだわり

こうした歴史とともに、日本人のサッカー用品への向き合い方は変わってきた。蔵並氏が感じるのは「こだわりの強さ」だという。

「日本人はそもそも自分の足の幅に合うか、履いてみて動きやすいかなど、フィッティングへのこだわりが強い。また、ヨーロッパと違い、日本のサッカーグラウンドは天然芝や人工芝、土とさまざま。普段プレーするグラウンドに合う靴を選んでいる」と指摘する。

かつてサッカーシューズを選ぶ時の基準は、憧れのトップ選手が履いているかといったものだったが、必ずしもそのようではなくなってきている。インターネットなど情報環境の充実により、自ら多くの情報を得て、プレー環境に合った商品を選ぶようになっているのだ。「各店舗の販売員にも、どれくらいの頻度でプレーをするのか、どんなグラウンドで練習や試合をしているのか、子どもの場合は足が大きくなっている途中なのか、といったことを聞きながらお客それぞれに合う商品をお勧めしている」と蔵並氏は話す。

こうした商品へのこだわりは、サッカーのメイン商材であるシューズだけではない。「ほどけにくい靴紐を子どもたちはじめ多くの人が購入している」と原宿店の廣岡昭洋店長は話す。ミズノによる靴紐「ゼログライドシューレース」は表面に特殊な樹脂加工を施し、グリップ力を高めている。

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人気を博している「ほどけにくい靴ひも」(Wedge)

足の骨格を整えてパフォーマンスを上げるインパクトトレーディング社のインソールもサッカーショップKAMOの隠れたヒット商品となっている。ソックスに関しても、チームから提供されるものではなく、自らに合ったものをあえて選ぶ人も増えているという。

使う人の要望に研ぎ澄ませろ

サッカー用品の開発技術は歴史と共に発展し、使う側も変わってきた。それが競技レベルのアップにつながり、ドイツ戦での〝奇跡〟を呼び起こした一因かもしれない。

「消費者の気持ち、環境への適応を製品に反映する力がメーカーには必要。選手たちの声を拾い上げ、それに応えることにこだわれば、必ず商品は向上するし、プレーの質も上がっていく。そういうことを世界中のメーカーと取り組んでいきたい」と蔵並氏は強調する。

「これだけ世界のトップリーグで中軸として活躍する選手が多いW杯日本代表ははじめてのこと。自信をもって世界と渡り合う姿を子どもたちに見せてほしい」と蔵並氏はサッカーのさらなる普及に期待を寄せる。

カタール大会で日本代表が新たな歴史を打ち立てる期待が高まっている。この結果はスポーツ産業にも良い影響を及ぼすことは間違いないだろう。

吉田哲

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