公立校も導入開始 「記憶アプリ」モノグサは市場をどう開拓したのか

公立校も導入開始 「記憶アプリ」モノグサは市場をどう開拓したのか

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/05/15
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学習する側の正答率や習熟度から、AIが個別の忘却速度を割り出し、最適なタイミングで反復を促し、記憶のサポートをする。そんな画期的な記憶アプリ「Monoxer(モノグサ)」を提供するスタートアップの「モノグサ」が、サービスを拡大している。

同社は、リクルート出身のCEO、竹内孝太朗と、高校の同級生でグーグルのエンジニアとして働いていた畔柳圭佑(CTO)が2016年に設立。開発したモノグサを導入した教室は、2019年末には70に過ぎなかったが、2020年末には2700、2022年4月には4000を数え、同社は急成長を遂げている。

これまでモノグサは私立校や、首都圏を中心に展開する市進学院のオンラインコース、関西圏大手の京進といった学習塾で利用されてきた。明光義塾では、2021年に発表した中期経営計画にモノグサを利用していく旨が記された。

この4月からは、代々木ゼミナールの大学受験コースでも全面導入され、墨田区や中野区をはじめ、公立校でも10校以上で使われ始めている。

どんなものか簡単に説明すると、まずモノグサのアプリに、覚えたい情報を登録することで、自動的に数パターンの問題が作成される。

例えば、「歩く(Walk)」という英単語を覚えたい場合、最初はヒントのある状態でスペルを記入する問題、次に4択から正しい語句を選ぶ問題が出題される。

これに解答すると一段階難易度を上げた形式での解答が求められる。最後は、ヒントなしで「歩く」のスペルを入力するといった具合に、AIが判定する個々人の習熟度に合わせ、難易度が変わっていき、その過程で記憶が促されていくというものだ。

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提供=モノグサ

モノグサを導入する教育機関は急増しているというものの、こうしたテクノロジーと教育を掛け合わせたEdTechの市場には、スタートアップだけでなく大手企業も参入している。竹内たちは、いかにしてこの業界でモノグサを浸透させているのだろうか。

目を見張るモノグサ導入の成果

起業のきっかけは2012年に遡る。当時リクルートで海外案件に携わることを目指していた竹内は、英語学習用の英単語帳を探していたが、書店に並ぶのはTOEICや英検など限定されたジャンルに特化したものだけだった。

疑問を抱いた竹内は、さまざまな目的別に作成できる英単語アプリをつくろうと考えた。グーグルに入社が決まっていた畔柳の自宅を毎週訪れ、アイデアの壁打ち相手になってもらっていたという。

「彼とは高校1年生の時に同じクラスだったのですが、別々の大学に進学すると、今度は起業サークルで再会しました。彼は東京大学に入学していたのですが、そのとき周りの東大生からプログラミングの領域で神のように扱われている姿を目撃したのです」

「グーグルでも当時インターンであったにもかかわらず、開発した機能が正式リリースされたという話も聞き、唯一無二の存在だと思いました。彼と事業をやりたいと思って、口説き続けました」

竹内は自らのアイデアを事業化しようと考え、さらに内容をブラッシュアップして、辿り着いたのが記憶の定着をサポートするビジネスだったという。竹内は次のように語る。

「学校で使われる教材は、全部の答えが載っている教科書か、ノーヒントの演習問題かどちらかです。

しかし記憶で重要なのは、思い出す行為を継続的に行うことなのです。授業を受けたが理解できていない状態で問題を解いても、分からないから答えを見ます。これではまったく記憶にはつながっていかない」

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「でも、4択でどれかが正解と言われたら、なんとなくでも授業を思い出し回答しようとします。機械がさまざまな角度からヒントを与え、問題形式を徐々に難しくしていく。答えられるかどうか、ギリギリのラインを繰り返しながら思い出すという行為ができる仕組みになっており、それが記憶の強化につながるわけです」

都内のある中高一貫校では、コロナ禍での休校期間中にモノグサを導入したが、英検3級受験者の合格率が前年の59%から93%に、準2級では34%から80%に上がったという。

東京都中野区の公立小学校では、2021年に実証を実施。漢字テストの点数が2〜3割上昇し、学年によっては2倍にまで上がったという。また大阪府羽曳野市の中学校では英単語の勉強に、2週間、朝10分利用し、正答率が16%アップ。3週間後の抜き打ちテストでも、点数は落ちなかった。

記憶にお金を払う人はいなかった

いまでこそ、モノグサは数字としても結果が現れるようになったが、障壁はいくつもあったという。当初は、to C向けに事業展開することも考えたが、何より「記憶」には市場が存在しなかった。

「記憶にお金を払おうと考えている人はほとんどいなかったんです」

こう語る竹内が最初にターゲットに置いたのは学習塾だった。

「塾には、『受験』という時間制限を持つ学生が多く存在します。ここが、記憶のニーズが最も顕在化しているマーケットだと考えたのです」と竹内は振り返る。

私立校でも同様に進学実績を伸ばしたいという明確なニーズがあり、小中高で導入が進んだ。

竹内は、リクルートの営業として最年少で成績トップを獲得した実績を持つ。営業メンバーに、自身のノウハウを事細かに伝授し、ブルーオーシャンであった「記憶市場」を開拓し始めた。

とはいえ、公立校に関しては一筋縄ではいかなかった。公教育には、学力だけでなく社会性も身に付けさせる役割がある。私立校などに比べ、進学実績を上げようとする意識は低かった。そこで学校ごとではなく、そのうえに位置する自治体に営業をかけ、一気に普及させることを狙ったが、予算という障壁にぶち当たったという。

「先日、ある自治体での導入が決まる直前に契約が流れました。原因は台風です。その地域で土砂崩れが発生して、臨時の復旧予算が必要になり、モノグサにお金を回せなくなったと。いくら子どもたちのためのサービスと言っても、当然ながら優先されるのは命を守ることなわけです」

結局、自治体のへの営業は芳しくなく、学校ごとでの導入を強いられることになったが、実証実験では結果が現れ、またそれによる生徒の自己肯定感の向上や学習習慣形成といった、公教育に求められる課題を解決できる点が評価され、10校を超える公立校で利用に繋がった。

クチコミで導入を決める学校も出てきており、この4月から漢字と英単語の学習用途として本格利用を開始した、墨田区立錦糸中学校もその1つだ。

「実際に使っている他の学校の先生たちから『学力の真ん中より下の子がゲーム感覚で取り組み、テストで点数が取れてきている』という話を聞き、導入しました。実際に成績の向上も見られ、今後は5教科で使っていきたい」(和田浩二錦糸中学校校長)

公立校で使われ始めたことは、竹内が目指す世界の実現の第一歩だ。竹内が今後について語る。

「モノグサが大事にしているコンセプトは、当たり前の水準を上げること。極端な例ですが、江戸時代は、ひらがなが書けない子どもの割合はいまよりも高かったと思うのです。

しかし、この時代にそんな小学6年生がいたら、どんな教育を受けているんだと疑問を抱きますよね。それは、江戸時代のように食べるために家の手伝いをしなくてもよく、勉強に集中できる環境があるので、ひらがなが書けて当然だとみんなが思っているからです」

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「今後は、モノグサの導入で教育格差を解消し、これを使わない手はないと思われるくらいまで、サービスの質を高めていきたいと考えています」

教育についての議論では、記憶をするより思考力を高めていくべきだという声が挙がる。しかし、そもそもの思考の「材料」となる知識が乏しければ、その力を鍛えていくことさえ難しい。

モノグサによって知識の格差が解消されれば、誰もが思考力を高めることに時間を使えるようになる。そんな世界の実現を期待したい。

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