詐欺などで追起訴「漁協の女」 小さな港町に潜んでいた「不正のトライアングル」とは...北海道 ひだか漁協

詐欺などで追起訴「漁協の女」 小さな港町に潜んでいた「不正のトライアングル」とは...北海道 ひだか漁協

  • HTB北海道ニュース
  • 更新日:2023/11/21

北海道のひだか漁協で組合員らの通帳から金を引き出し横領したとして2度にわたり逮捕・起訴されていた職員の女が、顧客になりすまして定期預金を解約し金を受け取ったとして札幌地検は21日、詐欺罪などで女を追起訴しました。

金融事情に詳しい専門家は女のおかれた状況に不正を生む典型的な構造があったと指摘しています。

業務上横領の罪などで起訴されたひだか漁協職員春日公美被告48歳。

漁協が管理する金融機関の顧客の口座からあわせて100万円を横領するなど、複数の罪に問われています。

被害者の1人、渡辺恵美子さん68歳。漁師だった夫・正さんが海難事故で亡くなり、その遺産の一部が被害に遭いました。

■渡辺恵美子さん:

「ほんとに命と引き換えに置いていったお金をねちゃっかりと自分の私腹を肥やしてるかなと思ったらやっぱりいたたまれない気持ちになる。」

HTBの取材では立件に至らないまでも、同様の被害を訴えている人があわせて10人に上っています。

春日被告は逮捕前、HTBの取材に対し。

■廣瀬美羽記者:

「HTBの者なんですけど、漁協でお金のトラブルがあったと伺いまして…」

■春日被告:

「弁護士さん通して下さい。お願いします。」

事件はなぜ起きたのか。

協同組合の金融事情に詳しい小樽商科大学の斉藤一朗教授は、春日被告のおかれた状況に不正を生む典型的な構造があったと指摘します。

■小樽商科大学 斉藤一朗教授:

「社内で不正が起きる場合によく説明する論理として不正のトライアングルという理屈、理論が使われております。」

不正のトライアングル。

「動機」、「機会」、「正当化」の3つの要素から、人が不正を働く状況を図で表したものです。

(1)正当化

■渡辺恵美子さん:

「これちょっと見てください。娘と2019年から2人して一緒に調べて」渡辺さんが違和感に気づいたのは5年前。娘の綾乃さんと1年半ほどかけて通帳の履歴を調べたところ覚えのない取引がおよそ4000万円分あったといいます。

当時、娘の綾乃さんが漁協に説明を求めに行くと対応したのは窓口業務を担当していた春日被告でした。

■春日公美被告:

「契約してるの積立保険」「本当ごめん本当ごめん。私が悪いんだ。」

春日被告の説明によると2000万円を名義人不明の定期預金に、さらに1500万円を無断で作った渡辺さんの息子名義の口座に移したといいます。

そのうち300万円を自分名義の積み立て預金に、100万円を渡辺さんの娘と孫の名義でそれぞれ定期預金して、無断で資産運用していたというのです。

■春日公美被告:

「私が勝手なことをしたの」「色々な人たちを見てきて相続とかも見てきて、あや(渡辺さんの娘)に一番残してやりたいと思ったの」あくまで綾乃さんのためにしていたと言い張る春日被告。

春日被告が無断で作った口座や積立は解約され元に戻されましたが、行方のわからないおよそ300万円は引き出されたまま返ってきていません。本当に「顧客のため」だったのでしょうか?

■小樽商科大学 斉藤一朗教授教授:

「「親切心から私はこれをやったのだ」というような形で自己のやったコンプライアンス違反を/自己正当化していくということが往々にしてみられるところ。」

(2)機会

日高の新冠町節婦地区。

実は、この地区では昔から漁協の窓口に「通帳を預ける」という慣習が根付いていました。それは、春日被告が職員になる前からだといいます。

■渡辺恵美子さん:

「ずっとみなさん通帳預けていたねほとんど(の人)」

Q(通帳を預けることに)違和感はなかった?

「なかった、なにも組合の通帳は。」

漁業関係者の多くが利用していた漁協の運営する金融機関。

春日被告はその仕事ぶりへの信頼から、いつしか通帳の管理をひとり任されるようになっていったといいます。

■小樽商科大学 斉藤一朗教授:

「信用事業に携わる職員さんが少ないつまり仕事に対する牽制機能が働かない/さらにそれの上をいく形で全体の信用業務の監査や指導あるいは検査といったものの体制がきちんと構築されていなかった/たくさん機会はあったと思います。

」4つの小さな組合から構成されているひだか漁協は、合併した2005年に各支所に対して預かっている通帳は返すように通告していました。

しかし漁協が服務規程違反に気づき春日被告を減給・停職処分としたのは、2021年。

渡辺さんの件が表面化してからです。

通告からは16年が過ぎていました。

■斉藤一朗教授:「現物(預かっていた通帳)をチェックできなかったという点では検査のイロハのイの部分でつまずいた検査であったと言わざるを得ない」

(3)動機

肝心な動機。逮捕前のHTBの取材に対し春日被告は何も答えず、警察は認否を明らかにしていません。ーそして漁協は。

■中村敬専務理事:

「コメントは今裁判中なんで出せないっていうことでそれは前からもお話してる。司法の判断が出てから対応しますっていうことをお伝えしてるじゃないですか」

「カメラを止めてくださいよ。」

斉藤教授はこのような事態を防ぐには、顧客側がつけこまれないようにする気構えも重要だといいます。

■小樽商科大学 斉藤一朗教授:「利便性を向上させる、あるいは利便を提供するとしてもやはり一線というものをきちっと引いておく必要があると思います。」

小さな港町に潜んでいた「不正のトライアングル」。初公判で春日被告は何を語るのでしょうか。

【スタジオ】

この状況を生んだ漁協へのチェック体制ですが、斉藤教授によると「漁協の検査を行う道は、いわゆる金融のプロではないため、銀行等と比べると体制は脆弱になりがち」と指摘しています。

そのため「信用秩序の安定のためには、財務局など国の専門的な機関が検査を行うことが必要になるかもしれない」と話しています。

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(c)HTB

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