「イエーイ」と力の限り大声をあげるハイテンションキャラでおなじみのサンシャイン池崎。ここ数年の間、彼は大の猫好きとして有名になった。単に好きなだけではなく、保護猫団体のボランティア活動を行ったりしている。YouTubeやInstagramでも猫に関する動画や写真を多数公開している。異常なハイテンションの裏にある優しい一面が評価されてきているのだ。

サンシャイン池崎
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彼が世の中で注目されたきっかけの1つは、2016年放送の「絶対に笑ってはいけない科学博士24時」で、俳優の斎藤工によって彼のパロディネタが演じられたことだった。
この企画では、最初に池崎本人が科学研究所の所長という役回りで登場した。そして、それに続いて出てきたのが、彼とそっくりの格好をした斎藤だった。斎藤は「サンシャイン斎藤」を名乗り、キャッチフレーズをハイテンションで絶叫して、ダウンタウンをはじめとするレギュラー陣を爆笑の渦に巻き込んだ。
2017年のピン芸日本一を決める大会「R-1ぐらんぷり」(現在の表記は「R-1グランプリ」)でも、池崎は敗者復活を果たして決勝に進み、最終3組にまで勝ち残っていた。この年、彼はテレビの世界を席巻する人気者になった。
飽和状態のお笑い界にあって…
池崎がなぜ一世を風靡したのか? それは、とにかく明るく元気に大声で叫ぶ、というシンプルな芸風が人々の心に刺さったからだろう。いまやお笑いの世界は飽和状態にある。あらゆる種類のネタやパフォーマンスが日々開発されており、もはや誰も考えていないような新しい芸を一から生み出すことはほとんど不可能になっている。
そんな中で、池崎はとにかくハイテンションで全力で叫ぶ、という芸風を貫いていた。これはいかにも簡単そうに見えるが、3~4分のネタの中でずっとハイテンションを保っているのは容易なことではない。途中で声が嗄れないようにのどを鍛える必要があるのはもちろん、どんなに客席が静まり返ってもビクともしない強靱なハートが求められる。
池崎は袖なしシャツと短パンに身を包み、ハチマキを締めて髪を逆立てる独特の外見をしている。まるで少年マンガの世界から飛び出してきたような見た目で、明るく楽しく「イエーイ!」と叫ぶだけ。この単純明快さこそが、世間に衝撃を与えた要因だろう。
ゆるめないアクセル
若手芸人がテレビに出始めてしばらく経つと、素のキャラクターを出すことが求められるようになる。ネタの中のキャラクターを超えたところで、普段のその人はどういう人物なのかということが興味の対象になっていくからだ。
でも、池崎はいつまで経ってもそういう扱いを受けることがなかった。彼はひな壇に座っても、ひたすら大声を張り上げるだけで、決してアクセルをゆるめることがなかった。器用にあれこれ対応しようとする若手芸人が増えている中で、池崎のその一途な姿がいっそう魅力的に見えていた。彼は、他人からバカバカしいと笑われる存在であり続けることで、自分のブランド価値を保っていた。
最近では猫好きの一面が知られるようになり、彼の素顔の部分にも興味が持たれるようになった。しかし、そのイメージは決して表向きのハイテンションキャラと矛盾しているわけではない。両方に共通するのは「純粋で一途な気持ち」である。
脇目もふらずにまっすぐ芸に向き合い、そこにすべてを懸ける生き様こそが、多くの人の心を動かしているのだろう。多くを語らず、1つのキャラに徹している彼は、まさに少年マンガに出てくるスーパーヒーローのような孤高の存在なのだ。
ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。
デイリー新潮編集部
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