教団の“ロイヤルファミリー”に生まれたぼくが転職活動を始めてみた

教団の“ロイヤルファミリー”に生まれたぼくが転職活動を始めてみた

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2022/06/23
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新興宗教の家に生まれ、中・高・大と宗教系の学校に通い、新卒からずっと宗教法人職員として働く「ぼく」は、36歳にして転職を決意した————。
ライターの正木伸城さんが自身の転職活動を綴ったエッセイ。今回は前編をお届けします。

新卒からずっと「宗教法人職員」だった

転職について想像をめぐらせてみてほしい。

人生初の転職活動を始めるとしよう。36歳になろうとする年齢で、だ。そのとき管理職には就いておらず、平社員といっていいポジションにいる。職業は、宗教法人の職員。しかも、新卒以来そこで働きつづけているため、職歴は一社だけ。出身校は、教団のカリスマリーダーが創立した一貫校である。中・高・大の学校名には、教団名を象徴するキーワードがつけられている。なので、履歴書の「学歴・職歴」欄には、そのキーワードがあふれる。また、過去にたずさわってきた仕事を職務経歴書に書き出すと、たとえば「教団教義をわかりやすく解説する文章を書いていました」という表現になる――。

こんな状況で、いわゆる「ふつうの」企業に転職するとしたら、一体どんな転職活動になるだろうか。果たして成功するだろうか。みなさんは、どう思われるだろう。

その一歩を踏み出したのが、ぼくである。

ぼくは、新興宗教の家に生まれた。わが家は祖父の代から信仰の道に入ったので、ぼくは宗教三世にあたる。父は過去、この巨大教団の実質ナンバー2にまでなった大幹部で、教団本部の職員だった。母も、地域でトップクラスの幹部として活動していた。そのため、ぼくの家は宗教的な“ロイヤルファミリー”だとよく言われた。親族一同も大抵が信者で、みなが信仰に熱心である。そんな環境で育ったぼくは、紆余曲折こそあったものの、父と同じく教団の本部職員になった。このことについて、「いかにも大幹部のサラブレッドらしいね」などとしばしば言われたことが忘れられない。

教団に違和感をいだき始め、いざ転職へ

自分でいうのもナンだけれど、当初はぼくも本気で信仰をしていた。使命感を持って信仰活動を実践し、楽しく生きていた。一時は教団教義を講義するような(若手の)全国的な幹部にもなり、少なからぬ信者を指導するリーダーにもなった。

ところが、宗教法人職員として働くなかで、ぼくは徐々に違和感をいだくようになっていった。教団の文化になじめない。職場環境にキャラクターが合わない。教団の組織上の考え方が受け入れられない。最初は、そんな気持ちにフタをして働きつづけていたが、自分にウソをつくことがだんだんきつくなって耐えられなくなり、最終的には辞めることを決断した。

転職である。

手法としては、ごくごくふつうの方法をとったと思う。履歴書・職務経歴書をたずさえて、転職サイトに登録。たくさんの会社にエントリーして、書類選考にのぞんだ。また、転職エージェントにもお願いして、ぼくに合いそうな企業を紹介してもらうことにした。

――ここで、ちょっと寄り道。

ぼくはこのとき、じつは転職をすこし楽観的に考えていた。というのも、宗教法人に勤めているとはいえ、法人内では機関紙の新聞記者をしていたし、1万3000冊を超える読書(当時)で得た知識と、多少の英語スキルももっていたからだ。また、学生時代には現・JAXA(宇宙航空研究開発機構)に進むために、数学や物理の知見、それにプログラミングなどのエンジニア的な素養も磨いていた。その自負もあったがゆえに、「それなりに『ふつうの』社会で通用するのでは?」と淡い期待をいだいていたのである。

ところが、まあ、ことはそうかんたんには運ばなかった。

というか、かんたんどころか、転職活動は地獄だった。この地獄をまったく想像できなかったあたり、ぼくの感覚は相当に一般世間とかけ離れていたのだ。

200社超エントリーしても鳴かず飛ばず

まず、エントリーした会社のほうだが、音沙汰はまったくなかった。どれだけ待っても、一向に書類選考が通らない。エントリーした企業の数は、それこそ200社ではきかないのだけれど、鳴かず飛ばずの日々がつづいた。

どうして?

ぼくにはそもそも、新卒時に「ふつうの」就職活動をした経験がなかった。世間でよく聞かれる「書類選考で落ちつづける」という、就活時の経験がない。いわば免疫がなかったのだ。だからぼくは、自らの「落選つづき」に戸惑ったし、めちゃくちゃ落ちこんだ。自分は世間から必要とされていないのではと疑心暗鬼になった。

これはのちに、とある先輩エージェントから聞いた話。ぼくの学歴・職歴は転職においてはやはり「不利」ということだった。

「特定の教団をイメージさせる一貫校の出身で、その宗教団体に『そのまま』就職して、外部の企業で働いた経験がまったくない。しかも正木くん(=筆者)は、転職時点で35歳を超えていた。この条件だけを見たら、企業の人事部が『この人は35歳まで宗教学校の延長で来たんだろうな』と想像する可能性はかなりあるだろう。書類選考は基本的にリスクを排除するために設けられるものだから、書類は通りにくいかもしれない」(あくまで、ぼくの場合についてではあるが……)

「あなたは布教でもしていればいいんじゃないのかね?」

とはいえ、天は味方にもなってくれた。ある日、一社だけ書類が通過したのである。思わず小躍りするぼく。入念に準備をし、初の転職面接に向かった。ところが、面談の場で瞬時につまずいてしまう。

「正木さんは新聞記者をしていたという話だけど、35歳を超えて、マネジメント経験はないんだよね。プレイヤーとしてKPIはどう追っていたのかな」

「はい……。えっと、お聞きしてもよろしいでしょうか。KPIって……何ですか?」

暗雲がたちこめる。苦笑いをする面接官。そのあとも二、三、質問されるものの、答えがおぼつかない。

「宗教法人の職員として磨いたスキルで、わが社で活かせそうなスキルは?」

「正木さんは、わが社でどんな価値発揮ができるのかな?」

問いに対し、しどろもどろになるぼく。それを見て、面接官が笑みを浮かべた。そして決定的な一言を放った。

「正木さんは……布教活動でもしていればいいんじゃないのかね?」

これはショックだった。社屋をあとにすると、撃沈したぼくに冷たい雨がふりそそいだ。自然と涙が出た。そんなとき、携帯電話が鳴った。エージェントからのひさしぶりの連絡だ。じつはエージェントのほうでも、ぼくの転職先を探すのに相当苦労していたようだった。しかし「ついに見つかった」と彼は言う。胸が熱くなった。

「正木さん、この会社なら、これまで培ったスキルが活かせそうです」

「嬉しいです! どちらの企業さまでしょうか」

「宗教法人○○の専従職員です」

別の宗教法人……職務的にいえば「競合」やん!

ぼくの血の気が引き、寒さで体が震えた。

後編はこちら!
新卒からずっと宗教法人職員だったぼくに一般企業勤務は無理なのか?

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