「食わず嫌いせずに食べてみて」 永井紗耶子さんに聞く、時代小説の魅力

「食わず嫌いせずに食べてみて」 永井紗耶子さんに聞く、時代小説の魅力

  • J-CAST BOOKウォッチ
  • 更新日:2023/01/25
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木挽町のあだ討ち(新潮社)

小説は好きだけれど、歴史ものや時代ものと聞くと、なんだかハードルが高くて触手が伸びないという方もいるのでは。しかし、時代小説は伝記や剣豪ものばかりではなく、人情ものから恋愛、ミステリーなど、さまざまなジャンルのエンターテインメントの宝庫だ。小説好きなら読まなければもったいない。そこで今回は、いま最も注目される時代小説家のひとり、永井紗耶子さんに時代小説の魅力を伺った。

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永井紗耶子さん

時代小説も基本は「人間」の物語

永井さんは、2022年に第167回直木賞の候補作になった『女人入眼』のほか、『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』が新田次郎文学賞など文学賞三冠を受賞、今年1月18日には『木挽町のあだ討ち』を上梓したばかりだ。

――最近では永井さんはじめ、女性の時代作家の活躍が目立ちます。永井さんはなぜ、時代小説を書こうと思われたのですか?

永井 よく聞かれるので、自分でもよく分からなくなってきちゃったんですが(笑)、子どものころから時代小説が好きで、山岡荘八さんや新田次郎さん、杉本苑子さんとか田辺聖子さんの作品などを読んでいました。女性作家の作品もたくさんありましたので、女性が時代ものを書くということに特別な感覚がまったくありません。 女の人だったら、女の人の歴史が好きなんでしょ?って言われると、そうでもないと思うんです。というのは、たとえば『商う狼』は、ほぼ女性が出てこない作品ですが、男性の読者さんのみならず、女性の読者さんも読んで面白かったって言ってくださる。いまは仕事をしている女性が増えているからビジネス小説のように身近なテーマとして楽しんでいただいていると思うんです。

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江戸後期に実在した商人、杉本茂十郎を題材にした『商う狼』(新潮社)

永井 共感できる部分が男女関係なくあるから、基本、『人間』っていうくくりで言ったら変わりないのではないでしょうか。ただ、『大奥づとめ』(2018年、新潮社刊)は男性には書きにくい分野かもしれないし、あまり興味がないかもしれないな、とは思いましたけれど。歴史研究者もこれまでは男性の方が多かったから、興味を持つエリアが違うってことはあるかもしれません。でも書く上ではあまり「女性作家だから」と考えてはいません。普通に興味を持っていることをやってるかなっていう感じがします。

人と人とのつながりが、大きなうねりになっていく

――時代小説の魅力とは、何でしょう?

永井 俯瞰で見ることができるのが時代小説の面白さかなと思っています。でも、決してファンタジーを書いているわけではありません。人間の物語は、いまも昔も変わらない。たとえば時代の変革期とか、大事件とかを見たときに、ああ、そんなことがあったんだと思うんですけど、ズームインしてよくよく調べてみると、そこの中で生きている人たちの動きって、いまの人間でもそう動くよねっていうことが見えてくるんですね。 大きな事件であったとしても、人がこういう風に判断して事態を切り抜けたのだとしたら、いまの時代に起きても乗り越えることができる、突破できるよねっていう希望が見えてくる。この先を考えるときのヒントが欲しくて、私は歴史を調べているんだろうなって思うし、その中にも当たり前に感情も熱もあって、人と人とのつながりが思いがけなく、大きなうねりになっていく姿を見ているのが、多分、好きなんでしょうね。

――今日は着物を着ていらっしゃいますが、もしかして普段から...?

永井 いや、ここぞという時だけで。今日は本当、がんばって着ました(笑)。普段もセーターとジーンズで、何を着るか考えるのが面倒くさくて、スティーブ・ジョブズ状態ですよ。コロナ禍になってから、出かけることも少なくなってきているので、犬の散歩とちょっとした買い物以外はこもって書いています。でも、夜はしっかり寝ることにしているので、だいたい終業時間は夕方6時ぐらいですね。ノートを開いておいて、思いついたら書き留めることはするけれど、夜遅くまでパソコンを開いておくのはやめておこうと。基本的に昼型です。朝が早いから、夜外に出るのは億劫で。でも、物書きじゃない方たちと交流する時間って、重要だと思っているので、がんばって会いに行きます。

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「江戸のパワフルな女性たちは面白いですよ(笑)」

埋もれたスーパーヒロインを描きたい

――時代小説の作家として、女性を含め新しい読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

永井 食わず嫌いせずに、ちょっと1回食べてみてください。一昔前までは、時代小説の物語の中では、女の人はどうしても男の美学の陰に隠れてしまうことも多かった。三歩下がって、いってらっしゃいませ、みたいな。でも私は、江戸時代だって今と同じく、そんなおとなしい女の人ばかりいたわけではないと思っていて。 『木挽町のあだ討ち』の舞台となった江戸時代は、もちろんジェンダーギャップが、現代とは比べ物にならないくらいあったと思います。ただ、一方で江戸の女の人たちは本音と建前の使い分けがすごく上手だったことが窺えます。『そんなこと言ってもね』って言いながら、したたかに生きていた。天保年間には「傾城水滸伝」なんていう男女逆転の水滸伝みたいな物語があったり、女の人が戦う物語が流行ったりしたこともあります。そうすると女性のファンが増えただろうし、男性も楽しんでいた時代があった。埋もれているスーパーヒロインが結構いる気がしているんですよね。そういう人を掘り返したら面白いんだろうなあと思っています。

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最新刊『木挽町のあだ討ち』(新潮社)

■永井紗耶子さんプロフィール
ながい・さやこ/1977年神奈川県出身。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経てフリーランスライターとなり、2010年、『絡繰り心中』で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。2020年『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』で新田次郎賞、本屋が選ぶ時代小説大賞、細谷正充賞を受賞。2022年に『女人入眼』が第167回直木賞の候補作となる。他の著書に『大奥づとめ  よろずおつとめ申し候』『福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得』『横濱王』などがある。

※取材協力:新潮社、撮影:BOOKウォッチ編集部
(BOOKウォッチ編集部)

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