14歳で東京五輪出場 あれから1年、飛込・玉井陸斗の「現在地」と「見据える先」

14歳で東京五輪出場 あれから1年、飛込・玉井陸斗の「現在地」と「見据える先」

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  • 更新日:2022/06/23
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14歳で東京五輪に出場した玉井陸斗

初出場となった東京五輪。飛込競技の男子高飛込で実に21年ぶりの決勝進出を果たすと、決勝でも存分にその力を出し切って7位入賞。当時14歳だった玉井陸斗は、試合後に順位を確認すると、ミックスゾーンで記者たちに見せる大人びた雰囲気とはまた違う、年相応のあどけない笑顔で師事する馬淵崇英コーチとグータッチを交わした。

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試合後に玉井が語った言葉に嘘偽りはない。苦手な種目でミスがあって得点を大きく下げてしまったが、それも含めて今の自分の実力であると玉井は、14歳とは思えない冷静さで自分を見つめていた。

五輪後も玉井は国内では敵なしの強さを見せつける。五輪後に出場したジュニアの全国大会では五輪で入賞した高飛込だけではなく、3m飛板飛込でも優勝。ここを皮切りに、本格的に飛板飛込にもチャレンジしていくと公言し、その後の日本選手権では優勝こそ逃したものの、3m飛板飛込でも3位表彰台を獲得。もちろん高飛込では2位以下に50ポイント以上の差をつけるずば抜けた実力を見せている。

2022年の2月。現在ハンガリー・ブダペストで行われている第19回FINA世界水泳選手権の代表選考会を兼ねた翼ジャパンダイビングカップに出場。玉井は3m飛板飛込と高飛込の2種目にエントリーした。

その3m飛板飛込では正確無比な演技が持ち味の玉井にしては珍しく大きく入水が乱れるミスをしてしまい、結果4位と代表権を逃す。高飛込では他を寄せ付けない強さで優勝、と言いたいところだったが、現実は大きなミスダイブが1本あり、2位に入った大久保柊(昭和化学工業/東京SC)と競り合う展開になってしまった。

3m飛板飛込と高飛込の両方でミスをしたのが、後ろ向きに入水する技だ。飛込競技は回転して頭から入水するのだが、その入水する際、回転が前回転なら水面を見ながら入水をすることができる。だが、反対に後ろ回転の技だと、背中側から入水することになり、水面を見ることができない。

そのため、後ろ入水と呼ばれるこの技の種目は難易率が高く設定されている。この難易率と演技の得点を掛け合わせてポイントを算出する飛込競技において、高い難易率の種目を成功させれば、リスクは高いがその分高得点を狙えるのだ。

この翼ジャパンダイビングカップで玉井がミスした種目は、3m飛板飛込では307C(前逆宙返り3回転半抱え型)、高飛込では207B(後ろ宙返り3回転半エビ型)と、どちらも後ろ向きに入水する技だった。玉井自身、この後ろ向きの入水種目に対して苦手意識を持っていることは自覚している。

「特に207Bは苦手意識が強い種目。今回はその不安が結果に出てしまいました」

実は東京五輪の高飛込決勝でも、大きなミスダイブをしてしまった種目が、この後ろ向きに入水する種目であった(307C 前逆宙返り3回転半抱え型)。ほかの種目では80ポイント、90ポイントを連発する玉井だが、この種目の得点は35.70。半分にも満たない得点しか得られなかったのである。

特に高飛込という競技は、ひとつのミスで大きく得点と順位を下げてしまう競技だ。入水で水しぶきを立てない“ノースプラッシュ”を決めれば100ポイントの高得点も獲得できるが、一歩間違えば玉井のように30ポイントしか獲得できないということもざらにある。だからこそ、いかに集中力を切らさず、ミスをしない正確性、そして高い完遂度が求められるのだ。

玉井を教える馬淵コーチは、この正確性、高い完遂度を身につける指導を得意とする。五輪を終えて、あらためて自分に何が必要なのかを理解した玉井は、馬淵コーチの指導の内容をあらためてしっかりと理解したことだろう。2月の翼ジャパンダイビングカップで世界選手権の代表に決定して以降、玉井は東京五輪での決勝と同じ失敗をしないために鍛錬を積み重ねてきた。それこそ苦手な後ろ入水を、不安と、恐怖を振り払うように何度も何度も繰り返し飛んできた。

飛込競技とは、一瞬の華やかさはあるが、それを支えるのは毎日積み重ねる小さな努力と成功体験だ。翼ジャパンダイビングカップから、今回の世界選手権の高飛込予選までの日数は138日。玉井は誰よりも真面目に、誰よりも真剣に努力を積み重ねてきた。

12歳だった玉井も、今年で15歳。身長も10cm以上伸び、体重も増えた。身体つきもたくましくなり、東京五輪よりもさらにパワーがついたことで回転力は上がっている。加えて高校進学を機に「選手としての成長だけではなく、人間的にももっと成長して大人になれるようにしたい」と話す。

元々高い水準にあったテクニックに加え、フィジカルの強さ、そしてメンタルの安定感も身につけ始め、まさに心技体が揃いつつある玉井。今回の世界選手権で、飛込強豪国・中国の牙城を崩せるか。積み重ねた努力を信じて、ミスを恐れない思い切った演技を期待したい。その思い切りの強さこそが、身につけたテクニックとフィジカルを生かす武器になるのだから。(文・田坂友暁)

田坂友暁

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