ムダ毛って誰が決めるの?「3歳から脱毛」広告に抱いた大きな違和感

ムダ毛って誰が決めるの?「3歳から脱毛」広告に抱いた大きな違和感

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/11/20
No image

今年の4月末に、プラスサイズモデルの吉野なおさんは、「『ムダ毛の剃り残しを見られてフラれた→脱毛に行かなきゃヤバい!』みたいな煽り広告に対する気持ちを表現しました」というコメントともに下記の画像をアップし、1.4万いいねがついた。

ダイエットや脱毛、二重……、コンプレックスを刺激し、「あなたはこのままでは大変ですよ」と煽る広告が世の中にはあまりに多い。幼いころから知らぬ間に煽れ、潜在的に沁みついていくコンプレックス。今回は、そんなモヤモヤに吉野さんが迫った。

「3歳からできる脱毛」の広告を見て思うこと

電車通学するようになった高校生頃から、脱毛に関する車内広告をよく目にしていた。それらはもはや見慣れた風景の一部になってしまったけれど、つい先日街中にあるエステサロンの前で子供脱毛の広告を見かけたときは、なんだかモヤモヤしてしまい、通り過ぎた道を思わず引き返してポスターを眺めた。

そのポスターでモデルをしていたのは小学生の女の子で、脱毛して「肌がキレイになりました」とあり、3歳から脱毛ができるとも書いてあった。

子供とはいえ、体毛が濃い女の子は揶揄やいじめの対象になったり、悩みの原因になるのはよく聞く。私の場合は体型で悩んでいたので共感するものがある。体の特徴は目に見えるので人と比較されやすく、自分と一体になっているからこそ根深い悩みになるのだ。そんなとき、「脱毛すること」が解決策の1つになり得るのだと思う。

しかし、子供向けの脱毛サービスの場合は、お金を払うのは親ということになる。脱毛に関して理解があり経済的にもゆとりのある家庭でなくては選択することはできない。子供の悩みや不安を少しでも解消してあげたいと思う親心と、他人から揶揄される身体的特徴を取り除きたい子供の気持ちも分かるが、ここに「格差」も生まれてしまう。

また同時に、子供時代から外見に対して「他人に揶揄されないように」美意識を持ち続けることや、コンプレックスになるような身体的特徴のある人自身が変わって自分を守る風潮を俯瞰してみると、とても複雑な気持ちになってしまったのだ。

子供たちの悩みの元をたどれば、そこには大人の私たちが根強く持つコンプレックスに繋がっていてぐるぐると堂々巡りになっている気がしたのだ。

意図的にコンプレックスを煽る広告が多すぎる件

毛の濃さに個人差はあるが、女性にだって生きていれば体毛は生える。しかし、日本の広告や雑誌・テレビ・街中などで腕や足や脇の体毛、いわゆるムダ毛が生えている大人の女性を目にすることは珍しい。

数年前、ドラマで指輪をはめた女優の指に毛が生えていたことがSNSでクローズアップされ話題になったほどだ。日本では多くの女性が当たり前のように何らかの除毛処理をしていて、私自身もモデルの仕事をするときに、ムダ毛処理をすることが求められる。

この社会風潮の中で、大人の女性と自分を見比べて「どうして自分にだけ体毛が生えるのか」と疑問を抱く女の子がいてもおかしくないし、体毛が濃い女の子が物珍しくなり、心ない言葉をかける子供も出てくるのだろう。

また、ムダ毛が生えている女性に対して男性が「うわっ女としてありえない、別れよう」などとネガティブに煽り、女性が「フラれてショック、脱毛に行こう」というストーリーの脱毛広告などもある。このように『女性にムダ毛があると嫌われる』という表現で脱毛を促されるのは不快に感じてしまう。肌が弱く除毛できない女性もいるし、女性に体毛が生えることは当たり前のことだ。

コンプレックスを解消する商品やサービスが充実していく一方、そもそも体毛の濃さや体格・髪質・肌質など姿形は一人一人異なって当たり前だということを大人たちが子供にきちんと伝えること、そんな見た目の特徴を指摘し揶揄することはおかしいという社会に変えていくことも同時に必要だと思うのだ。

コンプレックスに対して、「自分に原因がある」「言われても仕方がない」と、ひっそりと傷ついた方だけが時間やお金をかけて工夫し自分を変える方法しか無いのは何とも苦しいし、不快な表現をしてくる情報を真に受けない知識が、「自尊心を守るもの」にもなるはずだ。

No image

他者との比較や大人からの刷り込みで次第に増えていくコンプレックス。煽る広告の影響も大きいかもしれない。photo/iStock

刃物メーカーの話題の広告の共感

ちなみに体毛はそもそも肌を保護したり汗の湿度を調整するためなど本能的に生えてくる体の機能だ。体の主を不快にさせるために生えてきているものではなく、むしろ役に立とうとしている。衣服を着るようになった私たちにとって体毛は必要の無いものになったのかもしれないが、剃ったり抜いたりしてもまた伸びてくる生命力があり、そんな体毛に対して『ムダ毛』と呼ぶのは何だか忍びない気がしてくるのは私だけだろうか。

そんな風に思っていた今年の8月、とある広告ポスターがSNSで話題になった。

脇毛の生えた女性が両腕を上げ『ムダかどうかは、自分で決める』というメッセージで体毛の自由を投げかけるものだった。何より私が驚いたのは、そのポスターを発信したのが刃物メーカーの「貝印」だったことだ。

そんなメーカーがカミソリ商品のPRではなく、上記の文言に続いて、

『ムダ毛を気にしない女の子もカッコいいし、ツルツルな男の子もステキだと思う ファッションも生き方も好きに選べる私たちは、毛の剃り方だってもっと自由でいい。』

というジェンダーをも意識したメッセージを掲げ、大きな反響を呼んでいた。

No image

今年8月に刃物メーカーの貝印が公開したインパクトがある広告は話題を集めた。写真提供/貝印

ポスターを制作した方たちのインタビュー記事を読んだところ、消費者に対して意識調査を行い、ムダ毛に対する価値観が少しずつ多様性を持ち変化しつつあることや、昨今の脱毛やダイエットに関する広告が人々にプレッシャーを与えていることを捉えて今回の制作に至った経緯が語られていた。

実在する女性ではなく、あえてバーチャルヒューマン(CG)を起用したこともメッセージを正しく届けるためであり、言葉やデザインに関しても誤解や傷付きを招かないよう、かなり慎重に配慮されて作られたものだったそうだ。

確かにもしあのポスターの女性が実在する女性だった場合、きっとその女性自身にフォーカスが当たってしまう。撮影のためにわざわざ伸ばした脇毛だったら「自分で決める」にはならないし、女優の指毛ですら話題になるぐらいなので、日本で見慣れない脇毛をアピールする被写体の女性に対してどのようなリアクションが起きるかも未知数だったのだと思う。

ムダ毛を妬み嫌うような広告表現が多い中、刃物メーカー自身があのようなアプローチをしたことはインパクトがあり、ダイバーシティー(多様性)への配慮が感じられ、私はなんだか励まされたような気持ちになった。

貝印が剃毛・脱毛に関する意識調査(15~39歳の男女 600名)を行った結果にも着目したい
1)毛の悩み経験者は75.7%と大多数。さらに、そのうちの85.5%は人に相談できない。
2)剃毛や脱毛に対する考え方に束縛感や違和感を感じる人が36.5%、特に10代が4割超え。
3)男性が体毛を処理しても良い89.8%、女性が体毛を処理しなくても良い42.8%。男女によって意見の違いも。
4)ファッションや髪型のように、剃ることは自分自身で自由に決めたい90.2%、気分によって毛を剃っても剃らなくても良い80.5%。

加工アプリが当たり前の世代からの取材依頼

広告などの表現以外でも『キレイの基準』を意識させられるときがある。

例えば、中高生にも人気の動画投稿アプリ・TikTokはカメラを起動すると自動的に顔を整形してくれるのだ。一瞬にして顔は小さくなり、二重顎は消え、目は大きくキラキラに、睫毛は長く、肌は明るく美白に、スッピンだとしてもメイクを施す機能もある。TikTokに限らずそんな加工カメラアプリを使うことは一部の女性の間では常識になっている。

あまりに加工しすぎるとセルフイメージの歪みに繋がる懸念もあるけれど、実際の自分とは少し違う自分になれる面白さがある。

ちなみにそういった整形レベルの加工アプリで撮った写真を私がSNSにアップしてみたところ、無加工の自分の写真よりも褒められたりLikeされた経験がある。「今日のメイク素敵ですね!」「可愛い!」などと言われたが全てアプリの力である。切ない。あまりにも切ないので、私は逆に使わないようにしている。己の敵はアプリである。

No image

加工アプリが当たり前の今、自己とのギャップとどう付き合っていくのかも課題だ。photo/Getty Images

そんな中、東京に住む中学3年生の女の子からインタビュー取材の依頼が来た。

学校の有志グループで『美とは何なのか』について研究し、レポートを文化祭で発表するらしい。研究を進める中、『痩せていることが美しい』という従来の価値観とは少し違ったアプローチでプラスサイズモデルとして活動し、ボディポジティブを広めようとしている私を見つけて興味を持ってくれたそうだ。何よりも、若い女の子たちの方から興味を持ってもらえたことが嬉しかった。

というのも、20年ほど前に中学3年生だった私は当時、そんなテーマについて考えられなかったからだ。何の疑問も抱かずに、とにかく世の中が求める美しい女性像に憧れていて、「痩せたいなぁ」「かわいい子が羨ましいなぁ」「私は太ってるし目が小さいしブスだなぁ」と自己卑下のオンパレードだった。「ボディポジティブ」なんていう言葉はもちろんなく、太っている人は否応なく貶される役目になるのをテレビで見ていたし、一重まぶたはアイプチで二重にするのが当たり前だった。

思春期の女の子は特に自分の容姿が気になってくる年頃で、この時期に始めたダイエットがきっかけで摂食障害になり、その後何年もずっと悩んでいる女性も多い。だからこそ私は若い女性にもボディポジティブや自己愛について知ってもらいたかったのだ。

次世代にコンプレックスを引き継がせないために

インタビューの際、美に対して疑問を抱いたのは何故なのか、中学3年生の彼女たちに逆に質問してみたところ、コロナ禍の休校期間で外出を控え人目を気にしなくなったとき、改めて「美しい」「可愛い」について考えるようになったという。日本の社会の中で、女性の体形や顔や髪質などが、ひとつの美の価値観に向かわされることに違和感を覚えたらしい。

そして例の貝印の広告や、ダイバーシティーが意識されたものがネットで話題になり、美の多様性に関する記事も読んだことをきっかけに、研究しようと思ったそうだ。

また、彼女たちの担任の教師は男性だったのだが、大学でジェンダーやフェミニズムについて学んだそうだ。彼女たちがこのテーマで研究課題を進めることも前向きに捉え、一緒に取り組んでいたことも何て素敵なのだろうと思った。

一昔前のドラマや漫画では、好きな人にフラれた女性が「キレイになってやる!」と整形し男性を見返す物語がよくあった。ぽっちゃりした女性がダイエットに励んでまるで別人になり人生を謳歌していくシチュエーションも人気だったし、かつてわたしもそういう変身ファンタジー作品が好きで、ダイエットなどで自分の見た目を作り変えたいと思っていた。

しかし、最近の映画やNetflixのドラマなど海外作品を見ていると、ぽっちゃりした女性が自己卑下したりダイエットキャラになるのは既に古い価値観なのだと思い知らされる。整形大国と言われていた韓国でも、人気ドラマで一重まぶたの女優がヒロインになっていたりする。

インターネットを開くと、コンプレックスにまつわるもので不快感や自尊心を傷つけてくるような広告があまりに多い。整形や脱毛やダイエットなどをして悩みから開放されることも生き方のひとつだ。でも、もしも思春期世代に、真逆な多様性を認め合う価値観のものにたくさんアクセスができていたら……、見た目に対する悩みが少しは軽くなっていたかもしれない。

価値観は簡単には変わらない。だからこそ、従来とは違う新たな美しさや生き方の多様性について、「違和感を感じた大人たちが考えて発信していくこと」が必要だ。それが、次の世代が生きやすくなる価値観を作ることにもなるのだと思うのだ。

No image

多くの人が自分を「YES]と思える世の中に。写真/吉野なお

吉野なおさんのSNSの動画をまとめたyoutube

youtube

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加