「私が知らないことを、たくさん教えて」35歳の女が、20代のエリート男を魅了した秘訣

「私が知らないことを、たくさん教えて」35歳の女が、20代のエリート男を魅了した秘訣

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  • 更新日:2020/11/27

「恋愛では、男が女をリードするべきだ」。そんな考えを抱く人は、男女問わず多いだろう。

外資系コンサルティング会社勤務のエリート男・望月透もまさにそうだ。これまでの交際で常にリードする側だったはずの彼。

ところが恋に落ちたのは、6歳上の女だった。

年齢も経験値も上回る女との意外な出会いは、彼を少しずつ変えていく。新たな自分に戸惑いながら、波乱万丈な恋の行方はいかに…?

◆これまでのあらすじ

透と朱音、それぞれの交錯する思い。自分の気持ちを理解した2人は、それぞれある場所へと向かう。

▶前回:「なんであんなオバさんがいいのよ!」男を巡って30代の年上女に敗北した、27歳の美女

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「あったかい…」

朝、目を覚ました朱音は、透の腕の中で幸せを噛み締めた。

シングルベッドに2人で身を寄せ合って寝るなんて、一体いつ以来だろう。だが、この窮屈さも悪くないと思った。隣で静かに眠る彼の温もりを感じられるからだ。

誰かと一緒に眠る安心感に、朱音の心もじんわりと温まっていく。

サイドテーブルに置かれた時計に目をやると、時刻は6時半を回ったところ。このまま彼と抱き合っていたいが、そうもいかない。今日は出社しなくてはならないのだ。

透を起こさないように、朱音はそっとベッドを抜け出した。

「おはよう」

朱音が帰る支度をしていると、透が眠そうに目をこすりながら声をかけてきた。

「ごめん、起こしちゃったね。今日は出勤しないといけないの。一度、家に帰るわ」

すると透はベッドからむくりと起き上がり、朱音のことを抱きしめた。

「分かった。ねえ、今晩も会える?」

透は、まるで子犬のような目をして不安げな表情を見せた。甘える彼の姿に、愛おしさで胸がいっぱいになる。

「うん。すぐに帰ってくるから」

彼の頰にキスをして、朱音は仕事へと出かけた。

ついに結ばれた2人。それぞれの思いとは…?

言葉はいらない

あれは、昨夜のこと。

家を飛び出した透は、朱音に初めて声をかけた場所でもある横断歩道に向かって、早足で歩き始めた。

外の空気は、しんと冷たい。空を見上げると三日月が薄っすらと出ていた。

この数ヶ月、何度も通ったカフェの前を通り過ぎる。

−リモートワークが導入されなければ、出会うこともなかったんだな。

朱音のことを思い出しながら、透はふと考えた。

最初は慣れないことばかりでストレスも大きかったが、今では半ば強制的に働き方が変わったことに感謝すらしている。

だって、以前だったら知り合うはずのなかった彼女と出会えたのだから。

朱音に思いを伝えると決めた今、運命が動き出した場所に行ってみるのも悪くない。横断歩道に到着した透は、道路の向こう側に見える人影に驚いた。

暗くてはっきりと捉えることは出来ない。だが、そのシルエットには見覚えがあった。

朱音の心

久しぶりに、趣味のピアノを心の赴くままに弾いた朱音は、静かに目を瞑って自分の気持ちに耳をすませてみた。

そうしているうちに、本心に気づくことが出来たのだ。

「透くんのことが好き」

臆病な自分は、心に蓋をして、見て見ぬ振りをしていた。

振り回されて傷つくくらいなら、これ以上踏み込まないのも賢い大人の選択かもしれない。 一度離婚を経験して、誰かと関係を深めることに臆病になってしまった。

だが、受け身な態度ではいつまでも幸せは掴めない。そう気がついたのは、元夫・真一と再会したことがきっかけだった。

電話越しで話をした時には、みっともないくらい感情を揺さぶられたが、彼と実際に会って話をしたら、結婚当時のことが鮮明に思い出された。

裕福な生活は送れるが、夫はほとんど不在で、結婚している意味がないとすら感じたあの虚しい日々。夫婦生活は形だけで空っぽだった。その空虚感に耐えきれなくなって、自分は別れを選んだのだ。

今、こうして自分らしく充実した人生を過ごせているのは、あの時、朱音の要望を聞こうともしてくれなかった夫にめげることなく、自分の本音を伝えて動いたからだ。

それならば。

「透に会いたい。そして気持ちを伝えなくちゃ」

厚めのコートを羽織った朱音は、彼に会いに行くため、寒空の下を歩き始めた。

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「朱音さん…」

思わず呟いたその瞬間、信号が青に切り替わった。

透は、向こう側にいる朱音のもとへと歩き出す。彼女も透に気づいたらしく、驚いた表情でその場に立ち尽くしている。

道路を渡り終え、ついに彼女のもとにたどり着いた瞬間、そのまま強く抱きしめた。

そして2人はキスをした。

どのくらいの時間、その場にいたのだろうか。存在を確かめ合うように、何度も何度もキスをした。

もう、言葉はいらなかった。

透が朱音に惹かれた、最大の理由。それは…?

鎧、脱いでいいんだよ

「身体冷えちゃったよ。お家、帰ろう」

朱音の言葉に、透はハッとなる。時間は22時半を回ったところ。家を出た時には感じていた寒さも、すっかり忘れていた。

「ごめん…」

透が慌てふためいていると、朱音は「行こう」と手をとって歩き始めた。

「何か温かいものでも飲む?」

帰り道のコンビニで、ホットココアを買ってくれた。彼女に出させるわけにはいかないと思ったが、うっかり財布を忘れてきたことに気づく。

スタートからなんて情けないのだろうか。だが肩を落とす透に、朱音はこう言ったのだ。

「鎧、脱いでいいんだよ。私も脱ぐことにしたから」

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それから3週間後。

朱音と正式に交際することになった透は、穏やかな日々を過ごしていた。

表現するのが難しいが、自分を窮屈にさせていたものや、無用な気遣いなどから解放された気がする。

今まで、周囲の期待に応えようとするのが当然だと思い込んでいた。そのことに慣れてしまっていて、本当の自分らしさを見失ってしまっていたのだ。

こうして今、平穏な日々を送れているのは、自分自身の考え方や価値観が自由になったからかもしれない。

恋愛では、男が女をリードするべき。

男に生まれた以上、自分はそうしなければならないと思っていた。別に法律で決まっているわけでもないのに。

だが朱音は、これまで付き合ってきた女とは違った。

「透くん、疲れちゃうよ」

そう言って、優しく自分の鎧を脱がせてくれる。

自分の良いところ、強い部分をアピールすることは簡単だ。だが、弱さを見せることはそう簡単ではない。

朱音は、周りと自分を比べて焦ったり、形式に囚われたり、そんなことはどうでも良いと諭してくれる。酸いも甘いも経験した彼女だからこそだろう。

それでも最初は、自分がリードしなくてはと思ったし、経験値の高い彼女に気後れした。だが下手に張り合ったり、自分が上なのだと見せつけようとする方が愚かだったと今は思う。

「私が知らないことを沢山教えて欲しいし、透くんが知らないことは共有したい。一緒に楽しみたい、それだけよ」

朱音の軽やかな心と自由なところが、透はたまらなく好きだ。

「相手、いくつ?」

誰かと会話をしていて何気なくそう聞かれることは、よくあること。相手もきっと悪気はないのだろう。

だが、それは重要なことだろうか。

愛があれば年齢なんて関係ないだとか、そんな使い古された言葉を今さら言いたいわけではなくて、カップルの数だけカップルの形があると思うのだ。

「35歳だよ」

透が正直に答えると、人によっては余計な心配をしてくる。

“年上好きなの?” “タイムリミットがあるんじゃない?”

そんな無遠慮な言葉を発してくる者もいる。別に年上だから好きというわけではないし、女性の方が男性よりもタイムリミットを感じることが多いというのも、自分なりに理解しているつもりだ。

だが、これは周囲からとやかく言われる話ではない。2人で話し合って決めることなのだから。

今、1つだけ言えること。

「日高朱音のことを愛してる」

ただそれだけなのだ。

Fin.

▶前回:「なんであんなオバさんがいいのよ!」男を巡って30代の年上女に敗北した、27歳の美女

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