「そんな大きな子にベビーカー使わせないで」と叱責されたことも。ただ、知ってほしい「子ども用車いす」のこと。普及に尽力する母の思い

「そんな大きな子にベビーカー使わせないで」と叱責されたことも。ただ、知ってほしい「子ども用車いす」のこと。普及に尽力する母の思い

  • たまひよ ONLINE
  • 更新日:2022/06/23
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病気や障害をもつ子どもにとって、車いすが生活の必需品であることは少なくありません。しかし、「子ども用車いす(福祉バギー・小児用介助型車いす)」は、見た目がベビーカーとよく似ているため、誤解や偏見から理不尽な扱いを受けてしまうことが多くあります。
「『子ども用車いす』の存在を知ってもらって誤解やトラブルをなくしたい」と、2015年から啓発活動を続けているのが、一般社団法人mina family(ミナファミリー)代表理事の本田香織さん。自身もまた、難病の娘とともに「子ども用車いす」を利用しているママのひとりです。
「子ども用車いす」が誤解されやすい状況や問題点、そして本田さんが啓発活動を始めた思いなどを聞きました。

特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

見た目は似ていても、ベビーカーよりはるかに重い「子ども用車いす」

上の写真は、一般社団法人mina family(ミナファミリー)代表理事の本田香織さんと、娘の萌々花(ももか)ちゃん(当時3歳)。
萌々花ちゃんは0歳の時に難病「ウエスト症候群」を発症し、自力で立ったり、歩いたりすることができません。写真の乗り物はベビーカーに見えますが、実は「子ども用車いす」です。

「『子ども用車いす(福祉バギー・小児用介助型車いす)』はこの外見から、ベビーカーと誤認されることが多くあります。みなさんが想像できるような普通の車いすなら、バスや電車に乗る際にタラップ(段差を乗り越えるための移動式スロープ)を出してもらえますが、『子ども用車いす』だと『ベビーカーにタラップは出せません』と断られた経験があります。
小児科の病院でも『ベビーカーは院内に持ち込まず、入り口に畳んで置いてください』と言われることもあります」(本田さん)

しかし、「子ども用車いす」は、車体重量だけで10~90kgと重いうえ、たためないタイプもあるのだそう。子どもの病状によっては、通常のおでかけグッズに加えて大量の薬や栄養剤、呼吸器などの精密機器などを積んでいる人も少なくありません。子どもを片手で抱っこして車いすを畳み、大量の荷物を持って移動するというのは、ほぼ不可能だと本田さんは説明します。

「『子ども用車いす』を利用する子どもたちは、これがないと移動ができないので、成長して体が大きくなっても利用します。そのため、街中で『そんな大きい子、ベビーカーに乗せずに歩かせなさい!』と叱責されたり、満員電車で『ベビーカーを折りたたんで』『子どもを抱けるでしょ』と言われることも。
鼻からチューブを通しているなど、病気や障がいがあることが外見から察せられる子どもでもそういうトラブルに遭うケースは多く、心が折れてしまうお母さんがとても多いんです」(本田さん)

さらに、この問題が複雑さを帯びるひとつの要因として、市販のいわゆる” ベビーカー” を「子ども用車いす」として使っているご家庭があるこです。でも、その場合もやむをえない事情があるのだと本田さんは言います。
「そういうご家庭の多くは、車いすをオーダーして納品を待っている時期だったり(個々の身体に合わせて作るため完成までに時間がかかる)、希少な病気やグレー判定(疑いありだけど認定はできない)などで、障害者手帳がもらえず、公費補助が受けられない方だったりします。
『子ども用車いす』は数万~数十万円ととても高額なため、子どもがベビーカーを使用できる年齢ならば、より安価な市販のベビーカーを無理して使っているのです。

でも、障害や病気で自由に動くことができない子どもの体は、腰や首がすわらず新生児のような状態のことも多いです。なので、いくら一般のベビーカーを使用しているからといっても、不安定な体の子どもを抱っこして片手でベビーカーを畳み……というのは、やはり非常に困難なんです」(本田さん)

難病の娘のためにも「子ども用車いす」の誤認をなくしたい!

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これも「子ども用車いす」。軽量なベビーカーのように見えるけれど、実はとても丈夫で重い。

本田さんがこうした状況を知ったのは、萌々花ちゃんのための「子ども用車いす」を購入しようとしていた時でした。萌々花ちゃんが入院していた病院で「子ども用車いす」を使っているママたちに選び方やおすすめの品などを聞いた際、その話の延長で「でも、これで街に出るのはすごく大変だよ」と、さまざまな誤解やトラブルの体験を教えてくれたのだそうです。

「最も誤解されやすいのがベビーカーをよく使う2〜3歳頃なのですが、この時期の親御さんは、わが子の病気の宣告を受けて間もない方が多いんです。そのショックを抱えながら、慣れない入院治療や頻繁な通院をしなければなりません。他の子との成長の差を目の当たりにし、子どもの将来への不安が募るなど、体力的にもメンタル的にも本当にしんどい時期なんです。

そんな中、やっとの思いで通院のため外に出たのに、周囲から「ベビーカー使わないで歩かせなさい」「こんな狭い道でベビーカーを使うなんて!」など、『モラルのない親』のように言われてしまうと、さらに打ちのめされてしまうのです」(本田さん)

そういうことが重なり、病院やリハビリ施設でひっそりと泣いているママたちを何人も見てきたと本田さんは言います。この先、子ども用車いすが必須になる萌々花ちゃんのために「何か私がやってあげられることないか」とずっと考えていた時だったこともあり、ミナファミリーを立ち上げて「子ども用車いす」の啓発活動をスタートしました。
同時に、病児や障害児とそのご家族をサポートするため、病介護肌着の販売も始めました。

本田さんは言います。

「『子ども用車いす』を優先してほしいと言いたいわけではないんです。ベビーカーに比べてサイズも大きいので、ご迷惑をおかけするかもしれません。私たち利用者も、配慮して使用しなければならないと思います。
それでも、誤った認識でお互いに嫌な思いをするのは残念なことだと思うんです。電車やバスに車いすで乗車している高齢者の方に『邪魔だから立って』と言う人はいませんよね。でも『子ども用車いす』は、認知されていないばかりに非難を受けてしまいます。ここを変えていきたいんです」(本田さん)

クラウドファンディングでの呼びかけが共感を呼び、国土交通省をも動かすことに

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ミナファミリーが作成した「子ども用車いす」のマークと啓発ポスター。このコピーは国土交通省の啓発ポスターにも掲載されました。

「子ども用車いす」の啓発活動として、本田さんが最初に取り組んだのが、「子ども用車いすマーク」入りの大型キーホルダーの作成と、啓発ポスターの制作でした。

「ひと目で『これは車いすなんだな』とわかれば、不要な誤解やトラブルの多くを防ぐことができます。『子ども用車いすマーク』はそのためのもの。より多くの人にマークを認知してもらう必要があるので、啓発ポスターを作って配布したり、講演活動なども行おうと考えました」(本田さん)

活動資金を得るため、本田さんはクラウドファンディングで「子ども用車いす」啓発活動のための寄付を呼びかけました。すると、目標金額120万円のところ、最終的に約182万円もの寄付が集まりました。「子ども用車いすマーク」のキーホルダーにも問い合わせが殺到し、同じ悩みを抱える親たちが地元で紹介したいと口コミで広がって、ポスター配布枚数も全国で約2万5000枚に達したのです。

マスコミにも多く取り上げられ、それがきっかけとなって、厚生労働省や国土交通省に陳情に行く機会を得た本田さん。陳情を重ね、2018年に国土交通省のバリアフリーガイドラインに「子ども用車いす」について記載してもらえることになりました。

2019年には国土交通省が子ども用車いすの啓発ポスターを作成・配布。そこにミナファミリーがオリジナルポスターで使用しているコピーが使用されました。
また、2022年5月から国土交通省で作成・配布されているベビーカー啓発のポスターには、ミナファミリーの「子ども用車いすマーク」が使用されています。

「特に影響が大きかったのが、国土交通省が全ての公共交通機関に配布するバリアフリー用のマニュアルに『子ども用車いす』のことを載せてくれたことでした。その直後から、交通機関で『子ども用車いすなんです』と伝えると『はい、わかりました』とすぐに対応してくださるようになったんです。ルール化されることでこんなにしっかり対応してもらえるんだと驚きました」(本田さん)

「子ども用車いすマーク」が必要なくなる日まで

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現在は、啓発活動を始めた2015年より「子ども用車いす」の認知度が上がったと実感していると本田さん。それでもまだ「皆が知っている」レベルには遠く、今でも同じようなトラブルに見舞われた人の話は聞くと言います。

「街に出ると、子ども用車いすを利用している方をよく見かけます。『そんなの見たことないな』と思っている方も、見かけないのではなく見分けがつかないだけだと思うんです。ベビーカーみたいな外観の車いすを使っている人と、ベビーカーを車いすとして使わざるを得ない人が、同じ社会のすぐ隣にいるということを、多くの人が感覚として持っていただけたらうれしいです。

そうすれば、大きな子どもをベビーカーに乗せている人を見ても、『何か事情があるのかも』という視点で見ていただけるんじゃないかと思います。ほんの少し、お互いのことを思うきっかけになればいいなと考えています」(本田さん)

目標は「子ども用車いすマーク」を世界共通のユニバーサルデザインとして認知してもらうこと。そしていつか、マークがなくても子ども用車いすの方が困らない社会になること。そこを目指して、これからも地道に粘り強く啓発活動を続けていきたいと言います。

監修/九鬼一郎先生 写真提供/一般社団法人mina family 取材・文/かきの木のりみ たまひよ編集部

今回、本田さんにお話をうかがって「子ども用車いすマーク」の存在を意識しました。すると、今まで、まったく目に入ってこなかった最寄り駅の電磁掲示板の子ども用車いすの啓発ポスターに気づくことができました。まず知るということが第1歩。ぜひ、みなさんにも子ども用車いすを知るきっかけになってくれればと思います。

後編は「娘の病気をなかなか受け入れられなかった」と語る本田さんに、わが子の病気を受け入れられるようになるまでに感じたことと、それを乗り越えられた理由、娘の萌々花ちゃんへの思いなどを聞きます。

本田香織さん

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一般社団法人mina family(ミナファミリー)代表理事
ウエスト症候群患者家族会・会長
限局性皮質異形成患者家族会・会長
ノックオンザドア株式会社 スマートフォンアプリ『nanacara』アドバイザー
認定NPO法人ささえあい医療人権センターコムル・COML委員バンク登録会員
大阪市地方独立行政法人大阪市民病院機構評価委員会・委員
大阪府地方独立行政法人大阪府立病院機構評価委員会・委員
てんかん啓発『パープルデー大阪』・実行委員
小児青年てんかん勉強と交流の会『OHANA』・世話人 ほか

2013年、娘が生後6カ月の時に、小児慢性特定疾患(長期療養が必要と国が指定している疾患)の一つである「ウエスト症候群」を発症。長女の闘病や生活を綴るブログを開設したところ、同じように子を介助している家族を中心にアクセスが集まり、さまざまな相談を受けるように。
障害や病気と向き合う子どもと家族をサポートしたいと考え、2015年、一般社団法人mina familyを設立。子ども用車いすに関する啓蒙啓発活動の他、介護肌着の販売、イベント企画などを現在も行なっている。他にもウエスト症候群患者家族会やてんかんの子どもと家族のためのスマートフォンアプリ開発など、さまざまな活動を立ち上げ、参画。認定NPO法人ささえあい医療人権センターコムルの会員として行政会議等にも参加している。

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