―[あの企業の意外なミライ]―
国民食とも言われるほどに絶大な人気を誇るラーメン。
競合が多いことで知られるこの業界ですが、今注目したいのが株式会社力の源カンパニーが展開している一風堂です。
1985年に福岡市の路地裏のラーメン店からスタートした一風堂。その味は瞬く間に広がり、福岡・博多のとんこつラーメンを全国区とした立役者の企業のひとつです。その一風堂が今、国内のみならず海外までも巻き込んで大成長を続けているのをご存知でしょうか。
今、なぜ一風堂が成長しているのか。赤丸、白丸も美味しいですが、業績としても、まさに◯(まる)。
同社の強みを麺が伸びないうちに、サクッと説明しましょう。

◆値上げでも伸びる客数
一風堂の業績で第一に注目したいのが値上げをしても客足が伸びている点です。
一風堂では2022年7月に各種ラーメンや定食を30円から40円の値上げを実施。さらに2023年7月にも10円から40円の値上げに踏み切っています。
2021年7月以前と比べると一風堂の看板メニュー白丸元味は790円から850円に、通が好む赤丸新味は890円から950円に値上げとなっています。
2年連続の値上げですが、業績は好調です。
8月10日に公表された第1四半期決算資料によると、売上高は前年同期比128.5パーセントの70億4900万円、営業利益は同期比199.6パーセントの5億7300万円と右肩上がりです。営業利益に関しては同期比較で過去最高を更新しています。
また、値上げ後の今年7月においても客足は鈍っていません。客数は前年同期比112.7パーセントと確実に実績を伸ばしています。値上げによって客数が減少してしまう飲食企業も少なくない中で一風堂は非常に健闘していると言えます。
値上げにつぐ値上げでも伸びる売り上げ、そして一風堂の業績では他にも注目すべき点があるのです。
そして、その点にこそ一風堂の真の強さがあるのです。
◆高い営業利益率が業績を伸ばす
一風堂の特徴のひとつとして営業利益率の高さがあげられます。
営業利益率が高ければ高いほど効率的に利益を出せているということになります。
この営業利益率が一風堂の場合は8パーセント超えで推移しています。
同業他社と比較すると、一風堂の営業利益率の高さがよくわかります。たとえば、日高屋を展開している株式会社ハイディ日高が1パーセント台、山岡家を展開している株式会社丸千代山岡家が2パーセント台です。
なぜ、一風堂は他社よりも高い営業利益率を維持できるのか。
大きな要因として一風堂がこの数年推進してきたDX化があります。一風堂はモバイルオーダーやタブレットオーダーを導入するなどの各種DX化の施策を押し進めてきました。その施策の数々が実を結び、営業利益率の高さという果実をもたらしているのです。
そして、一風堂はDX化一辺倒ではないことも特徴となっています。
DX化というと仕組みや設備面への投資に注力している印象を持ちますが、一風堂は“人への投資”もぬかりありません。
2022年には社員人件費を平均4パーセントアップ、アルバイト時給の単価も向上させました。当然ですが、効率的な仕組みを作ったとしてもそれを活用する人がいなければ効果を発揮できません。人と仕組み(DX化)、一風堂ではこの両輪のいずれにもしっかりと力を入れています。
◆ロンドンで一杯2,300円でも大人気

NYで出されている一風堂ラーメン「Akamaru Hakata Classic」(16ドル、約2350円)。NYには3つ支店があり、盛況だ
また一風堂は海外においても非常に人気です。2023年8月現在で海外に一風堂系列の店舗は135店舗を展開しています。国内の系列店舗数は140店舗なので半数が海外が占める計算です。
海外事業も売上高、営業利益ともに好調です。
特に注目すべきは営業利益で、月によっては15パーセント弱と非常に高い数値を叩き出します。ただでさえ高い一風堂の営業利益率の中でも海外事業にはさらに突出した数値を残すことも珍しくありません。
海外の高い営業利益率を支える要因のひとつに価格設定があります。日本以上に物価高騰が進んでいる海外においては日本よりもさらに大胆な値上げに踏み切っています。
一風堂の看板メニューである白丸元味は日本国内では850円ですが、例えばイギリスのロンドンでは2300円程度と2.5倍以上の料金となっています。
◆日本のラーメンを輸出しているだけではない
国内の感覚ではラーメンに2000円以上というのはあまり考えられないでしょう。しかし、海外においてはこの価格設定でも十分に勝負できるのです。
2000円以上の価格設定には、先述の物価高騰を筆頭とした国内と国外での条件面の違いが一つの要因としてもちろんあげられます。
その上で一風堂が海外において日本のラーメンブランドとしての地位を確立しているというのも非常に重要な点です。
一風堂は各地域の需要も研究し、植物性の原材料のみを使用したメニューを設けるなど現地で受け入れられるための体制もしっかりと整えています。一風堂の動物性原材料を使用しないラーメンは今年5月に開催されたG7広島サミットで海外のメディア関係者に提供されるなど、信頼と実績を確実に高めています。
そして、海外での高い利益率と成功の土台にあるのも仕組みと人です。
国内で成功ノウハウを蓄積させたDX化は海を越えて海外店舗でも導入されています。人の面で見ると、一風堂では海外研修にも力を入れています。仕組みと人、この2点への投資が国内同様の高いクオリティを海外でも維持する上での原動力となっています。
◆店舗数、利益率、海外展開…麺以外はすべて伸びている

一風堂、タイ・バンコク支店
一風堂は日本経済新聞社が9月4日に公表した「NEXT Company」で第1位となっています。「NEXT Company」は売上高300億円以下の上場企業を対象に前期比との増収額を比較するランキングです。つまり、同規模の上場企業において最も伸びている企業のひとつということです。
DX化の導入、海外展開はいずれも特に飲食企業にとっては挑戦を成功に結びつけることが難しい分野です。
この二点を一風堂は見事成功させました。一風堂では「変わらないために、変わり続ける」という理念を掲げていますが、まさに理念通りの成功と成長を続けています。
一風堂では2028年までに「売上500億、営業利益50億以上」という目標を掲げています。「NEXT Company」が対象としている企業は売上高300億円以下なので、この枠組みを超えて”次”のステージへと向かうということです。国内・国外ともに成長を続ける一風堂であれば決して実現不可能な目標ではないでしょう。
麺は伸ばさず、業績伸ばす。
変わらないために、変わり続ける。
一風堂の今後も期待大です。
<文/馬渕磨理子>
―[あの企業の意外なミライ]―
【馬渕磨理子】
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi