兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第115回 目撃!ベランダでしゃがむ兄】

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第115回 目撃!ベランダでしゃがむ兄】

  • 介護ポストセブン
  • 更新日:2021/10/21

若年性認知症を患う兄との暮らしをライターのツガエマナミコさんが綴る連載エッセイ。穏やかな性格の兄ですが、病状が進む中、今、ツガエさんを一番悩ませているのが排泄問題。トイレではないところで用を足してしまう事件が頻発していて…。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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* * *

「ベランダで何してたの?」

書き出しから下のお話しで失礼いたします。

今週、また衝撃の現場を見てしまいました。

兄がベランダの排水溝で小便小僧さまになっていることはご報告してきましたが、先日はなんと!しゃがんでいたのです。しかも、ベランダに出てからスウェットを脱ぎ、丁寧に畳んでベランダの手すりに置き、さらにパンツを脱ぎ、下半身をフリーにしておもむろにしゃがんだのです。その一部始終をわたくしは、自分の部屋の扉に隠れながらこっそり見てしまいました。

兄の姿は大窓のカーテンに隠れて体の右側3分の1ぐらいしか見えなかったのですが、スウェットを全部脱いだ段階でおかしいと思いました。

「何してんの?」と声をかけようかどうしようか迷ってしまい、躊躇しているうちにあっという間にパンツに手がかかって、その後はなんと素早く両脚を脱ぎ去る兄。まるでお風呂にでも入るような勢いです。きっと向かいのマンションの上階からは丸見え。世間様、申し訳ございません。

わたくしは、そんな姿の兄に近づくことが嫌で、その場から動けませんでした。Tシャツと靴下とスリッパしか身に着けていない兄が、その場にしゃがみこんだ時には「え?大きい方?」と思って心臓がざわつきました。「紙がないのにどうするおつもり?」と案じていると、立ち上がってパンツを穿き、スウェットを手に持ち、何食わぬ顔でリビングにあがってきました。

「お兄ちゃん、トイレに行った方がいいよ」と、兄をそのままトイレに行かせ、わたくしはベランダチェックをいたしました。幸い、お便さまではなく、お尿さまの形跡。ほっとしましたが、わたくしが自室にこもっている間、兄はベランダでやりたい放題なのです。

トイレから出てきた兄に「さっきベランダで何してたの?」と聞けば「何もしてないよ」と嘘をつき、ヘラヘラ笑っております。クーッ、ムカつく。

毎日、日が暮れると締め切ったカーテンに隠れるように、こっそりベランダに出る兄を、わたくしはキッチンから苦々しく見ております。「またか…」と思いながら、兄の夕食を作る煮えくり返るような思いをおわかりいただけますでしょうか?

これまでも犯行直前に職務質問して「オシッコはトイレでしておくれよ」と注意してきました。現行犯でも逮捕して「ここはオシッコしちゃだめなの。トイレに行ってね」と諭してきました。その度に兄は「ごめんね」と謝ってくれますけど、やめてくれる気配はありません。とりあえず謝っておけばそれ以上攻撃されない事を知っている知能犯のようです。

「なぜ、こんな人のために、わたくしは毎日3回、ご飯を用意しなければならないのだろう」と、みじめな気持ちになって、元気が根こそぎ持っていかれます。

先日は仕事で外に出た帰り、ご飯を作るのが嫌になって駅弁の定番、横浜名物・崎陽軒の「シウマイ弁当」を買ってきました。兄はこのお弁当が大好きで、買って帰るといつも判で押したように「シウマイ弁当じゃん!毎日これでもいいよ」とジョークを飛ばしていたのに、半年ぶりに目の前に出したら「シウマイ?」とうっす~いリアクション。伝統的な黄色のパッケージも記憶から消えてしまったようです。

その日、気になったので兄の記憶チェックをしてみました。

わたくし 「大阪万博行ったの覚えてる?」
兄 「万博ね、うんうん」
わたくし 「太陽の塔とかさ」
兄 「あ~、太陽の塔って、なんかあったね」
わたくし 「じゃ、月の石は?覚えてる?」
兄 「あ~、月の石ね。家に飾ってあったよね?」
わたくし 「いやいや、ないけど…」
兄 「すごい人だったよね」
わたくし 「そうね、夏休みだったし」
兄 「人がいっぱいだった」
わたくし 「じゃ、逗子マリーナは覚えてる? 夏休みに毎年行ったの」
兄 「プールあった?」
わたくし 「そうそう、プールあったとこ。他に何があったか覚えてる?」
兄 「う~ん、わからない」

いずれも小学生の頃の事なので、もう少し鮮明に覚えているかと思いましたが、残念な結果でした。この分でいくとわたくしのことを忘れてしまうのも時間の問題かと、冷静に察したツガエでございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

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