もしも負ければ、私は死ぬ――。命をかけて将棋を指す女流棋士の戦いを描くマンガ『永世乙女の戦い方』の魅力

もしも負ければ、私は死ぬ――。命をかけて将棋を指す女流棋士の戦いを描くマンガ『永世乙女の戦い方』の魅力

  • ダ・ヴィンチニュース
  • 更新日:2020/10/17
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『永世乙女の戦い方』(くずしろ:著、香川愛生女流三段:監修/小学館)

将棋を指すのは、まさに「命がけ」なのだ――。単行本1巻を読み終え、肺の奥から感嘆とも驚愕ともつかない深いため息がこぼれた。これは『永世乙女の戦い方』(くずしろ:著、香川愛生女流三段:監修/小学館)の話である。

将棋をテーマにした作品は数多くある。ぼくのように将棋を指す機会がほとんどない人間でも、棋士たちの戦いを見るのは興奮する。彼らが命をかけて将棋盤と向き合い、相手の思考の先を読み、勝負を挑んでいるからだ。それはすなわち、スポーツ観戦にも似ているだろう。そんな世界で生きる女性たち、所謂「女流棋士」にスポットライトを当てているのが『永世乙女の戦い方』なのだ。

メインキャラクターとなるのは、早乙女香(さおとめ・こう)。17歳の高校生である彼女が大切にしているのは将棋で、それ以外のことはほとんど目に入っていない。女流棋士初段として、日々将棋に明け暮れている。物語は早乙女を通し、女流棋士の生き様や熱い戦いにフォーカスされていく。

彼女が将棋にかける想いは、誤解を恐れずに言うならば少し“狂気的”とも言える。対局中は殺気を放つほど集中し、彼女の言葉を借りると〈将棋指しは、負けると死ぬ。たかだか将棋に負けたくらいでどうしようもなくなる〉らしい。だからこそ、絶対に負けられない。精神的な死が待っているとわかっているから、安寧のために勝つしかない。つまり、決して大げさではなく、命をかけて将棋を指しているのだ。

本作で描かれる対局シーンでは、彼女たちが“殺るか殺られるか”の気持ちで将棋盤と向き合っていることがひしひしと伝わってくる。その様子を見ていると、思わず「そこまで思いつめなくても」と言ってしまいそうになる。しかし、それは無粋だ。真剣に将棋を指している彼女らに、ぼくら観客(読者)ができることといえば、「黙って見ている」だけなのである。

では、早乙女はどうしてそこまで将棋の世界にのめり込んだのか。その謎は巻数を重ねていくうちに明らかになる。彼女を突き動かすのは、どうしても追いつきたい女流棋士の存在だ。その高みを目指し、早乙女は今日も対局に挑む。そして、早乙女以外の女流棋士たちも、各々に情熱を秘め、駒を手にする。彼女たちが握る駒は、ナイフであり銃でもある。それひとつで相手を殺せる――。盤上に立てば、生か死のどちらかしか存在しないのだ。

本作は女流棋士に特化しているため、時折、将棋界における彼女たちの立ち位置も描かれる。それは男性と比べると、少々特殊だ。そんな豆知識を知ることができるのも、本作の魅力だろう。

命をかけて将棋を指す乙女たち。その華麗で残酷な戦いを、ぜひ目に焼き付けてもらいたい。

【本作の試し読みはこちら】「そんなに面白いですかね…」将棋にまるで興味なしの女性編集者に、職場の先輩が提案したこととは…/永世乙女の戦い方①

文=五十嵐 大

ダ・ヴィンチニュース

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