外務省は人権外交の抵抗勢力なのか

外務省は人権外交の抵抗勢力なのか

  • アゴラ
  • 更新日:2021/05/06

5月3日は国際的には「世界報道自由の日」となっている。そこで18の在ミャンマー各国代表部が共同声明を出し、世界中のジャーナリストたちの活躍を称賛するとともに、ミャンマー国軍に不当に拘束されているジャーナリストの解放を求めた。

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eanPavonePhoto/iStock

加盟諸国を代表するEU代表部を含む自由主義を標榜する18カ国だ。韓国なども含むほぼ全ての米国の同盟国が含まれていた。しかし、日本は、参加しなかった。日本は、ジャーナリストの北角裕樹氏が拘束されているにかかわらず、やはり、参加しなかった。

"We call for the immediate release of all media workers, the establishment of the freedom of information & communication & for the end of all internet restrictions in Myanmar.” – The diplomatic missions of 🇦🇺🇨🇦🇨🇿🇩🇰🇪🇺🇫🇮🇫🇷🇩🇪 🇮🇹🇳🇱🇳🇿🇳🇴🇰🇷🇪🇸🇸🇪🇨🇭🇬🇧🇺🇸 to Burma on #WorldPressFreedomDay pic.twitter.com/bLnFE4dMoC
— U.S. Asia Pacific Media Hub (@eAsiaMediaHub)
May 3, 2021
from Twitter

4月9日に同じように自由主義諸国の在ミャンマー大使がミャンマー軍の蛮行を非難する共同声明を出した際にも、日本は加わらなかった。日本が一貫してこの種の自由主義諸国との共同行動を回避していることは、今や明白である(例外は、各国の参謀長がミャンマー軍に対する非難声明を出した時に防衛省主導で山崎幸二統合幕僚長が署名したときだけ)。

一般には、「ミャンマー軍とのパイプが大切」だから、日本は、こうした同盟国・米国を中心とする自由主義諸国の共同行動には参加しないのだとされている。しかし、このこと自体が怪しい主張で、説得力がない。

日本政府が「ミャンマー軍の市民虐殺」に沈黙を続ける根本的理由 外交を歪めてきた「ODA金脈」の罠 (President)

安倍政権時代に官邸主導で推進していた「価値観外交」が、菅政権で外務省主導になって減退し、「人権外交」自体から距離をとろうとする姿勢が目立ってきているという印象を拭い去ることができない。

ミャンマー問題では、外務省OBで菅首相の外交アドバイザーを務めている宮家邦彦氏が、クーデター直後から制裁反対論を早くから唱えていた。宮家氏は、アウンサンスーチーにも問題があるといった論点ずらしの主張や、アメリカもやがて日本のやり方を模倣するだろうと言った無責任な予測まで披露していた。

宮家氏の議論は、特定個人だけ狙ったアメリカの「標的制裁」は国全体への制裁ではないので弱気の表れだ、といった全く的外れなコメントをしていた点で、二重に罪深い(実際には、近年の米外交において「標的制裁」はミャンマー以外でも標準的になっている単独制裁方法だ)。

やはり外務省OBの河東哲夫氏は必死に人権外交が浅はかなものであることを主張する。

シリアに詳しいジャーナリストの黒井文太郎氏は、この記事について、「シリア知らないなら語らないでほしい」とツィートした。

「自由と民主主義を求めるインテリは優秀だが、多くの場合社会から浮き上がっている」「そのような人たちは大衆をうまく扇動し」「外部からの介入で内戦になり、700万人弱もの避難民を生んだシリアのようになる」

シリア知らないなら語らないでほしい https://t.co/hXrRFNo8oW
— 黒井文太郎 (@BUNKUROI)
April 27, 2021
from Twitter

ミャンマー問題について、6名のシニア国連・外務省実務家が提言を出した。このうち元国連高官とされている山本忠通氏は、実際は外務省でキャリアを務めあげた人物だ。明石康氏も外務省勤務経験があるので、6名中5名が外務省OBだ。そのシニア提言の内容が、あまりに国軍寄りであったため、ミャンマー研究の権威である根本敬上智大学教授らが反証のステートメントを公表した。

「ミャンマー情勢に関する提言」への懸念と反証ステートメント”をミャンマー・平和構築の研究者らが発表平和構築の研究者の観点からも同意するという署名を、私もさせていただいた。)

現役の外務省員は、声を上げて具体的に人権外交に反対することができないので、代わりにOBが「人権外交なんか、ダメだ」と発言する組織的な運動でも起こしているのだろうか、と邪推せざるを得なくなるような状況だ。

外務省は、人権外交の最大の抵抗勢力なのか。深刻な問題だ。

甚大な人権侵害を行った者に対する標的制裁を可能にする「日本版マグニツキー法」の制定を目指す国会議員の旗振り役であった山尾志桜里氏は、「外務省が最大の抵抗勢力だ」と繰り返し発言していた。その山尾氏は、議員パスの私的使用問題を告発されて、失速気味だ。「抵抗勢力」は、しめしめと、さぞかし喜んでいることだろう。

日本の唯一の同盟国であるアメリカは、バイデン政権下で、「民主主義vs専制主義」の世界観で「米中競争」の構図を説明し、人権外交を推進している。この「価値観」を共有する同盟国とのネットワークを重視するという立場から、あくまでもその立場から、日米同盟の強化に意欲的だ。

ところが日本国内では、外務省OBが「人権外交なんてダメだ、ミャンマーでは国軍が勝つのだから国軍に忖度するしかない、アメリカはやがて人権外交の間違いに気づいて日本に近寄ってくるだろう」といった発言を繰り返している。

この状況を、私は、深刻に受け止めざるを得ない。

果たして外務省は、「人権外交なんかダメだ」キャンペーンをしているOBの方々のご意見を丁重に受け止めながら、なお日米同盟を堅持し、自由で開かれたインド太平洋構想を発展させる、という二枚舌の外交を、本当に円滑に進めていく覚悟を持っているのだろうか。そんなことが簡単に達成できるという体系的かつ戦略的な見通しを持っているのだろうか。

「日本は極東の貴重な反共の砦です」とさえ唱えてさえおけば、あとは日本は適当に日和っておけばいい、それでもアメリカは必死になって日本を防衛するしかない、と21世紀になっても信じるのは、単なる冷戦ボケだ。

同盟国との価値観の共有とは何か、信頼感の構築とは何か、そろそろ真剣に問い直してみるべき時期になってきているように思われる。

篠田 英朗

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