NEW
ロゴとアプリ版リニューアルのお知らせ
とてつもない報復を画策する『復讐者たち』を観るうえで、押さえておきたい映画や書籍たち

とてつもない報復を画策する『復讐者たち』を観るうえで、押さえておきたい映画や書籍たち

  • cinemas PLUS
  • 更新日:2021/07/20
No image

復讐をするのもされるのも嫌だが、「復讐」をテーマにした映画は楽しい。刺せば監獄刺されば地獄ではなく、映画館の椅子や自宅のソファなどの安全地帯に沈み込んで、他人の復讐を観てスカッとできるからである。

『ハムレット』『モンテ・クリスト伯』『忠臣蔵』などを持ち出すまでもなく、クルアーンだって旧約聖書だって復讐について書いている。復讐という言葉が無かった時代だとしても復讐や報復はあった。隣村の奴に狩りを邪魔されたので仕返ししたら小競り合いになってしまい人死が発生、村を巻き込んでの報復合戦に突入、復讐の連鎖は止まらず結果として世界から村が2つ消失、なんて話は容易に想像できる。

とにかく「やられたらやり返すんじゃ」というのは2021年になっても国家で、個人で、現実社会で、SNSで、日常的に行われている。そう考えると、人間誰しも復讐が好き、というか、何らかの復讐劇が好きなのであろう。

さて、映画で復讐されるのは、だいたい「悪い奴」で「どんなにブッ叩いても構わない奴」つまり「最悪役」な場合が多い。その筆頭はナチス・ドイツだろう。第二次世界大戦以降、ナチスはあらゆる作品で、記号化され、陳腐化され、何ならゾンビ化までされ、それらの多くで復讐されて来た。

今やナチスは何もしなくとも、画面に登場するだけで最悪役であることを誰も疑わない。むしろ特定人物ではなく、ナチス(・ドイツ)全体を「いいもん」として描こうとしたならば、四方八方から矢が飛んで来るだろう。だからと言って「いいもん」として描いた映画が今登場しても良い、などと言っている訳では決してない。というか、そんなもんは原理的に無理だ。とにかく、人物だけでなく、制服やハーケンクロイツなどありとあらゆるナチスに関する要素が登場した瞬間、それは高確率で最悪役の烙印が押されている。

前述もしたが、映画におけるナチスは記号化され、陳腐化され、脱色・脱臭され、何ならゾンビ化され、あらゆる使われ方をして来たわけだが、とくにナチスをテーマにした、あるいは大きく関わるような作品の場合「ナチスをどう扱うか」は制作陣一同の腕の見せどころであろう。残虐非道の限りを描いても良いし、対極としてはカラーリングを見せるだけでも可能なはずだ。

そんななか、興味深い一作が登場

No image

復讐者たち(原題:Plan A)』は、第二次世界大戦後のドイツでジェノサイドから生き延びたユダヤ人がナチスに報復していく復讐劇だ。ちなみに劇中に登場する復讐計画は史実を基にしているそうで、ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ両監督は当事者たちの証言から着想を得ている。

大まかなストーリーとしては、強制収容所から生還したマックス(アウグスト・ディール)は離れ離れになった妻子がナチスの手によって殺害された事実を知る。彼はユダヤ旅団の兵士ミハイルと出会い行動を共にし、ナチスに復讐をしていく。その後、所属の変わったミハイルに協力するために過激なユダヤ人組織「ナカム」に潜入し、彼らの計画を突き止めようとする。

ナカムの計画とは、ドイツの民間人600万人の命を奪う大量虐殺のことで「600万人殺されたんだ。だからこっちも600万人を殺す」と、かなりスケールがデカい。この計画が成就してしまうのか、それとも阻止されてしまうのかは最大のサスペンスであるし、クリティカルなネタバレになるので自重しつつも「史実をネタにしている」時点で既にバレているような気もする。だが「終わりが予想できてしまう」のは作品の傷にはならない。未解決事件を基にした映画で犯人が捕まらないようなものだ。

本作はいわゆる「ナチス狩り」の話で「よくある」ナチス物ともいえるのだが、「ナチスをどう扱うか」については中々にフレッシュだった。劇中酷いことをして回るのはナチスではなく、開放されたユダヤ人たちである。彼らはナチスの残党を捕まえて尋問し、殺し、極北としてはドイツの一般人600万人を一網打尽にしようとする。つまり、劇中の最悪役はユダヤ人(ナカムの面々)となっている。

ナチスを題材にした映画でも最悪役がナチスでないものは存在するが、ユダヤ人が最悪役というのは十分に新鮮な設定だろう。

またナチスの扱い方も抑制が効いている。戦後だからしてナチスが残虐な行為をするシーンは無いが、別にマックスの収容所時代がフラッシュバックするような形で挿入しても良かったはずだ。だが本作はそれをしない。「アウシュビッツ・ビルケナウ」の一言で済ませ、凄まじき報復を画策するユダヤ人を悪役(復讐者)として描く。その点で、近年のナチスを題材にした映画のなかでも、ナチスを変に記号化・脱臭化せず、あくまで「復讐」をテーマにした歴史サスペンスとして一本立ちしているといった、ジャンルムービーの枠に収まりきらない魅力が『復讐者たち』にはある。

--{復讐を題材にした映画といえば}--

復讐を題材にした映画といえば

No image

復讐を題材にした映画は相当数あるが「ナチスに復讐」するタイプとしては、近年だと『イングロリアス・バスターズ』が挙げられるだろう。公式サイトでも言及されている。

『イングロリアス・バスターズ』の舞台は第二次世界大戦中のフランス(ドイツ占領下)で、ユダヤ系アメリカ人で結成されたナチス狩り部隊が、『国家の誇り』のプレミア上映会に集まるナチスの高官たちを爆殺する計画をメインとして話が進んでいく。

第二次世界大戦中のドイツ占領下のフランスが部隊なので、ナチスも悪いがアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いるナチスハンターの面々も極悪である。レインは部隊員たちに各人100名ずつドイツ軍兵士の頭の皮を剥いで来いと命ずる。悪役の割合としては少なく見積もっても50対50くらいのものだろう。

だが、冒頭部分は純度100%のナチス=最悪役である。クリストフ・ヴァルツ演じるハンス・ランダ親衛隊大佐が完全に場を支配するシーンは、タランティーノ流会話劇の頂点と言ってもいいほど、凄まじき緊張感が贅沢なカメラワークで示される。なので『イングロリアス・バスターズ』ですら、ナチスは最悪役として固定されている。

No image

そしてもう1本、「どう考えても悪い奴を最悪役に固定しない」映画として『復讐者たち』と比較的近いのが『暗殺』で、こちらは韓国映画だ。舞台は1933年の日帝統治時代の京城である。当時、中国に拠点を置いていた大韓民国の臨時政府は、日本人及び親日派の重要人物をターゲットとして、3人の暗殺者を送り込む。

日帝統治時代を描く場合、多くは日本軍=最悪役、つまりナチスと同じような扱われ方となるが、『暗殺』での最悪役はなんと韓国人である。日本軍も悪役ではあるが、必要以上に悪行が描かれることはない。むしろスマートである。『復讐者たち』と異なるのは史実ではない点と、そして政治色がほぼ完全に抜けきった、めっぽう面白いアクションエンターテイメントとして仕上がっている点にある。

『イングロリアス・バスターズ』を『復讐者たち』の周辺作品として観るのも1億%大賛成だが、ぜひ『暗殺』もラインナップに加えて欲しい。なにせ『復讐者たち』という邦題が韓国映画っぽい。『技術者たち』『インサイダーズ/内部者たち』など、『○○たち』と付いている作品は傑作が多い、というのは余談すぎるので(以下略)。

復讐される側を知るための周辺作品といえば

復讐を題材にした映画を観る際には、復讐する・復讐されるの関係性を知らないと楽しめないとまでは言えないが、解像度は若干下がってしまう。「あ、こいつ悪いやつで、とんでもないことをしたから復讐されるんだろうな」よりも「ああ、こいつは○○で○○をやったから復讐されるんだろうな。そりゃ酷い目に遭うわ」と知っていれば、復讐の重みを見積もることができる。

歴史に関係している作品であればなおさらで『復讐者たち』であれば、ナチス・ドイツがユダヤ人やロマなどに対して何をしたかを知れば「ドイツの民間市民600万人を皆殺しにする」という報復に対して、もしかしたら「そう思い立って計画しても仕方ないわな」と感じてしまうケースだってあるだろう。

なので、鑑賞前でも後でも、第二次世界大戦やナチス・ドイツとユダヤ人の関係などを調べてみると、作品が立体的になるはずだし、より映画を楽しむことができる。単純にネットで検索してみるだけでも多くの情報を取れるだろう。だが、無料で得られる情報は「無料分」の価値しかない。と書くと、あなたが読んでいる本コラムが無料分の価値しかない事実が浮き彫りになるので涙が止まらないが、もし懐に余裕のある方は、ある程度の歴史をさらった後に『夜と霧』を読んでいただく、というのが筆者が薦めるミニマムのコースである。

No image

夜と霧』はオーストリアの心理学者、ヴィクトール・フランクルが彼自身の強制収容所体験を書き記した書籍で、1946年に出版された。鉄板とも言えるベタなセレクトだが、収容所における「英雄」や「殉教者」ではなく、彼曰く名もなき被収容者たちの「おびただしい小さな苦しみ」を描写している良書だ。体験記の体をとっているので内容はそれほど難しくない。だからこそ、すぅっと染み入るような喉越しの良い「恐ろしさ」がある。

フランクルは強制収容所生活における被収容者の反応を、施設に収容される段階、収容所生活の段階、収容所からの開放の段階の3段階に分類できるとしている。『復讐者たち』で考えるならば、映画の登場人物(収容所帰りの人)たちは第3段階の「収容所からの開放」後を生きていることとなる。

フランクルによれば、長期間に渡り精神的な抑圧のもとにあった人間は、突如として抑圧から開放されたために、精神の健康を害してしまうことがあるらしい。例えば、今まで暴力を振るわれていた人が自由を手にした途端に、今度は自分がその暴力を行使して良いと履き違えるなどである。

もちろん、そんな人ばかりではない。ただ、「収容所からの開放」後に記されている人々がおかれた状況や心理状態は余りにも悲しい。「幸福に暮らすことが最高の復讐である」という諺があるが、それができれば苦労はしない。被収容者の多くは幸福に暮らすことができなかった。エピソードを引用しても良いのだが、本項に関してはぜひ全文を、一文字も漏らさず読むべきだ。映画1本くらいの値段で買えるし、古本ならばもっと安い。

復讐の連鎖は

「復讐の連鎖は止めなければいけない」とは、おそらく誰でも理解しているだろうが、原始社会からフランクルの代を経て、現在まで復讐の連鎖は続いている。止めるのは無理だし、復讐が良いか悪いかなんて、筆者にはとても判別できない。自分だってもし大切な人が殺されたら、エゲツない復讐を画策するだろう。

ただ、復讐を行わなくとも、復讐心を1ミリでも浄化する術はあるはずだ。それは専門家への相談であったり、時間の経過だったりするのかもしれないが、復讐劇を観て「復讐を代行」してもらうのも、ちょっとした浄化の力を持っているのでは、と筆者は見積もる。千円札が2枚あればできる手軽でライトな治療だ。復讐を考えている方は、実行に移す前に復讐劇をご覧になってみると良いかもしれない。

--{『復讐者たち』作品情報}--

『復讐者たち』作品情報

【あらすじ】

第二次世界大戦後のドイツでナチスによるユダヤ人の大量殺害(ホロコースト)から生き延びたユダヤ人・マックスがナチスに報復していく復讐劇。

マックスが出会ったユダヤ人組織ナカムは過激な報復活動を行っており、ドイツの民間人600万人を標的にした大量殺戮も計画していた。

【本予告】

【ショート予告】

【基本情報】

出演

マックス:アウグスト・ディール

アンナ:シルヴィア・フークス

監督・脚本

ドロン・パズ

ヨアブ・パズ

上演時間

110分

製作

2020年

製作国

ドイツ・イスラエル合作

加藤 広大

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加