『トッケビ』『キム・ジヨン』『イカゲーム』。「私はどこへ行くのか」と語るコン・ユこそ「次にどんな作品を選ぶのか」を期待できる男優である

『トッケビ』『キム・ジヨン』『イカゲーム』。「私はどこへ行くのか」と語るコン・ユこそ「次にどんな作品を選ぶのか」を期待できる男優である

  • 婦人公論.jp
  • 更新日:2022/09/23
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ヒット作へ立て続けに出演しているコン・ユならではの魅力とはーー(写真提供:Photo AC)

2020年の新語・流行語大賞にノミネートした「第4次韓流ブーム」。ブームの背景には、すっかり日本でも定着した韓国ドラマの存在があります。韓国の歴史・文化・韓流や日韓関係を描いた著作を持つ作家の康熙奉さんによれば、韓国ドラマを彩る男優たちにはファンから愛されるだけの背景を持ち合わせていると言います。ではヒット作『トッケビ』『イカゲーム』に出演したコン・ユならではの魅力とは――。

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空想と神秘の世界

『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』のメインのストーリーは、コン・ユが演じるキム・シンとキム・ゴウンが扮するウンタクが、時空を超えた存在同士としてどのような恋愛を展開していくか、ということ。これが本筋だ。

それにしても、このドラマは、「こんなにも空想の世界を楽しませてくれるのか」というほどに神秘的だ。

そんな世界に酔いながらふと考えてみる。「現代人の誰もが胸に剣が刺さったまま生きているのではないか」と……。

苦悩がない人はいない。

みんな、それぞれに悩みながら毎日を必死に生きている。

それは、言ってみれば、胸に剣が刺さったままと同じ状態ではないのか。ただ、その剣は見えていない。

そうであるならば、その剣が見える人を探すのもまた人生の目的である。

そして、どんな人であれ後ろから死神に追われていることには違いがない。「死」は避けられないものであり、人間は遅かれ早かれ「生の世界」から「死の世界」に移っていかなければならない。

『トッケビ』の本当のテーマ

こうしてみると、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』の本当のテーマは、「生」と「死」が交差する世界でどう生きるか、ということであろう。

究極的に言えば、キム・シンも、死神も、ウンタクも、私たちを取り巻く「生」と「死」をくっきりとした形で見せてくれる人たちなのだ。

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『韓国ドラマ! 愛と知性の10大男優』(著:康 熙奉/星海社新書)

異なる世界に生きているように見えて、実は私たちのすぐそばにいる人たちの分身なのかもしれない。

そう考えると、神秘の世界が現実味を帯びてくる。

美しい映像と俳優たちの演技に魅せられながら、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』が描く「空想と神秘の世界」を堪能できるのは幸せなことだ。

私はいまどこへ行こうとしているのか

トッケビが時空を超えて深遠な世界を行ったり来たりする魂だとすれば、コン・ユもまた、芸能の世界で苦しみながらも自分の存在に永遠の魂を注ぎこもうとするトッケビに思えてくる。しかもまた、このトッケビは未だ自分の正体をつかめないでいる。

それでいい。

迷いながらも、コン・ユは今後も作品を通して自分が「トッケビの1人」であることを見せてくれるに違いない。

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「『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』オリジナルサウンドトラック(DVD付)」(ポニーキャニオン)

2017年5月に行なわれた百想芸術大賞の授賞式でコン・ユはテレビ部門の男性最優秀演技賞に輝いた。

そのときのコメントが印象的だった。

「この場に立つのが怖かったのです。いろいろな人生を生きてきましたが、いまは混乱しています」

「私がどこにいて、私が誰なのか、私はいまどこへ行こうとしているのか……」

まるで「迷える小羊」になったかのようなコン・ユの言葉。晴れの授賞式にふさわしくないかもしれないが、自分を飾らずありのままに表現するのがコン・ユらしい。

そんな彼は、40代になった2019年に2つの映画に出演した。

1つは、韓国で100万部以上も売れた大ベストセラーの『82年生まれ、キム・ジヨン』を原作とした映画だ。コン・ユが女性主人公の夫を演じた。

もう1つは『SEOBOK/ソボク』(公開は2021年)。この映画はクローン人間を題材にした作品で、コン・ユは国家機関の元エージェントに扮した。

寡作な彼なのに、急に活動的になった。

社会的な自分の役割を考えながら

そんなコン・ユが自らの感情を吐露したのが2019年9月30日にソウル市内で行なわれた『82年生まれ、キム・ジヨン』の制作発表会だった。

その場で彼はこう語った。

「脚本を初めて読んだときには、家族のことを思い、かなり泣きました。特に母のことが多く思い出され、電話をかけて『子供を育てるときに苦労したでしょ』と声をかけました」

脚本を読んで泣いたコン・ユは、その気持ちを忘れずに『82年生まれ、キム・ジヨン』と向き合った。

その末に、彼はどんな手応えを得たのか。

コン・ユはこの映画について次のようにも語っている。

「自分の声を出せなかった女性が、自分の声を出すことができることに感謝しました。それは、自分も一人の人間として世の中に伝えたい話です」

この言葉が持っている奥深さを考える。

コン・ユは社会的な自分の役割を考えながら、『82年生まれ、キム・ジヨン』という映画に俳優としての魂を込めた。

どんな作品を選ぶのか

コン・ユが世界的に大ヒットしたNetflixオリジナルの『イカゲーム』に出演していたのは、本当に嬉しかった。彼が演じたのは、生活苦に絶望している人たちを「大金が貰えるチャンス」に誘導する「謎の媒介人」だ。

イ・ジョンジェが演じた主人公も結局は「謎の媒介人」に出会ったことで、恐ろしい殺人ゲームに加わることになった。もちろん、彼だけではなく、多くの生活破産者たちがコン・ユの演じる不思議なキャラクターを通して、結局は「死への道」に足を踏み入れてしまうことになる。

そういう意味では、本当に罪深い役をコン・ユが演じたのだが、それでも彼の出演場面というのは、おぞましいシーンの連続だった『イカゲーム』の中で、わずかに微笑みを取り戻せる時間でもあった。

そんな役を演じるときのコン・ユは、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』や『82年生まれ、キム・ジヨン』のときとは違う「屈託のない笑顔」も存分に見せてくれる。本当に芸風の幅広い役者だ。

考えてみれば、大ヒットした映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』に主演したときのコン・ユは、不機嫌な表情を隠さない仕事中毒の男を不愛想に演じてパニックになる列車内での奮闘を際立たせていた。

さらには、Netflixオリジナルの『静かなる海』では、未来の月面探査でおぞましい光景に出会う探査隊長を何も信じられない男のように臨場感たっぷりに演じきっていた。

その演技に触れれば触れるほど、コン・ユは作品選択に独特なチャレンジ精神を発揮する俳優だと思える。

実際、市井の普通の男を演じることは少ない。特に『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』以降は、不思議な霊感を感じてしまった男のように、とてもユニークな役に挑み続けて、しっかり成果を出している。

それゆえ、次にも大いに期待している……コン・ユがどんな作品を選ぼうとしているのか、と。

それが本当に興味深くて、彼の生き方にいつも注視したい気持ちになってくる。

※本稿は、『韓国ドラマ! 愛と知性の10大男優』(星海社)の一部を再編集したものです。

康熙奉

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