エルメス財団が編集した、識者、学者、芸術家による「木を語る本」

エルメス財団が編集した、識者、学者、芸術家による「木を語る本」

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  • 更新日:2021/10/15

文=鈴木文彦

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エルメス財団編『Savoir&Faire 木』 講談社選書メチエ/講談社刊

2021年7月30日全国書店にて発売

四六版変型 上製 函入/392ページ 本体:2500円+税

ISBN:978-4-06-523705-2

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392ページもある「木」の本

エルメス財団が編集者となり、一冊の本が出版された。392ページもあるこの本には、『木』というタイトルが与えられている。

木は万能の素材だ。道具や建物をつくる素材になり、燃料になり、鑑賞や信仰の対象になる。19世紀から20世紀にかけて技術革命を起こした、鉄、ガラス、コンクリート、石炭といった素材でも、木ほどの万能性はない。人間が発見した、木と同等かそれ以上の性能をもつものは、おそらく20世紀以降の石油だろう。しかし石油を相手にしても、木の存在が薄れるということはないはずだ。

だから木を語るというと、相当な話題が木に結びつけられる。

というよりも、木ってそういうものだったんだ、ということが、この本を読んでみて分かる。さまざまな視点から木が語られている。本は17パートにわかれている。つまり、少なくとも17の方向から、主にフランスと日本の識者、専門家、学者、芸術家による原稿や作品によって木が語られている。

もう少し具体的にいうと、以下のような内容がこの本にはある。

木にまつわる歴史学、哲学における木、木の生物学的・素材的特性、日本における鑑賞の対象としての、垣根としての、木の実の生産者としての、建築素材、信仰の対象としての、箸や桶といった道具の素材としての木、中世ヨーロッパで金属や石との比較で高貴な素材としての木、写真家による作品、日本の建築における木、デザインに果たす役割、震災後に石巻でDIYの公共工房としてスタートした木工家具製作会社へのインタビュー、パリ工芸博物館所蔵の道具についての考察、仏像における木、彫刻家へのインタビュー、調香師から見た木。

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ひとつひとつのパートは独立していて、それぞれは長くない。内容がコンパクトに凝縮している。ひとつ、ひとつ、と読むほど、木を見るのが楽しくなる。

ちなみに、autographでワインのことも書かせてもらっている筆者としては、日本酒については語られていても、ワインにおいても重要な木の話がないのだけが不満点だ。
(フランス語版ではワインも扱っているとのこと)

エルメス財団が本を出す理由

それはさておき、この本は前述のとおり、エルメス財団が編集している。そして、この本のタイトルは『木』だけでは本当は正確ではなくて、『Savoir&Faire 木』というのが正確。Savoir(サヴォワール)はフランス語で知ること、英語でKnow、Faire(フェール)は成すこと、英語でDoにあたり、サヴォワール・フェールでノウハウとよく訳される。今回は、savoirとfaireの間に&を入れて、この2つをより、際立たせ、エルメス財団はこれをスキル、手わざと読んでいる。

エルメスは1837年にパリのマドレーヌ寺院界隈で、そもそもは馬具工房として創立している。ゆえに、オリジンは革職人の組織だ。スキル、手わざは、エルメスの根本なのである。

革を扱うには、畜産への理解、工芸的技術の修練や伝承、そして作品を造るにあたっての美意識の持ち方が求められるにちがいないからだ。そのいずれにおいても優れるからこそ、エルメスは愛され、尊敬されるブランドなのだろう。

そこに起源があるエルメス財団は、2008年に設立していて「私たちの行いが、私たちをつくる」をモットーとして、芸術の支援、生物多様性や生態系の保全、工芸的な文化の伝承、そして、社会貢献と連帯活動への支援を行っているという。エルメスのオリジンに対して首尾一貫した存在だ。

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フランスで行われた“Glass”のマスタークラスのワークショップの様子。日本では中高生対象で開催される予定

Skills Academy, ‘’Glass’’, 2021 © Tadzio / Fondation d’entreprise Hermès

本の出版は、このエルメス財団の活動、様々な異なる職域の交流、本質的な素材(マチエール)を探求するプラットフォーム「スキル・アカデミー」の一部と位置づけられている。スキル・アカデミーには無料で参加できるセミナーやワークショップ、よりアカデミックなマスタークラスがあり、その集大成として本の出版がある。

この活動はフランスでスタートして、日本では、『Savoir&Faire 木』の出版が第一歩。フランスではすでに、2014年に「木」をテーマとしたスキル・アカデミーが開催されていて、2回目以降は、「土」、「金属」、「布」、「ガラス」と2年毎にテーマを変えて続いている。

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Skills Academy, ‘’Glass’’, 2021 © Tadzio / Fondation d’entreprise Hermès

日本においても、今回の木に続いて、他のテーマの講演会やワークショップ、そして書籍の出版が続いていくに違いない。

例えば木を前にしたときに、それをどれだけ楽しめるか、そこから何を生み出すかは、長い時間をかけて蓄積されてきた、人間の文化、エルメス財団的に言えばスキルへの理解の度合いによって変わってくる。今回の本は、専門的な知識がないと読めない、というような難解なものではない。ここで得られた視点をヒントにすることで、身の回りに当たり前にあるものへの見方に変化が訪れるのであれば、それは私たちの人生にとって素晴らしいことであり、また、エルメスの作品に触れた際の印象も変わってくることだろう。

鈴木 文彦

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