孤独死が起きた事故物件、その「おはらい」で行われていることをご存知ですか?

孤独死が起きた事故物件、その「おはらい」で行われていることをご存知ですか?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/16
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都内1DKマンションにて

東京・新宿の大通りに面した築20年ほどの13階建てのマンション。周辺には、ビジネスビルや専門学校などが立ち並ぶ繁華なエリアである。そのマンションの一室で、これからお祓い(おはらい)が行われようとしていた。

なぜ、こんな場所でお祓いなのか。それは、この1DKの部屋の住人が孤独死をしたために瑕疵物件、いわゆる事故物件となってしまったためだった。

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物件の玄関。すでに何とも表現しがたい怪しげな空気が漂う

8月28日に公開された映画『事故物件 怖い間取り』は、現在も大ヒット中である。
この映画は、「事故物件住みます芸人」として、実際に9軒の事故物件に住んだ芸人・松原タニシの実体験を記したノンフィクションをもとに映画化されたものである。
監督は、『貞子』『スマホを落としただけなのに』の中田秀夫だけあって、ホラー色たっぷりの作品となっている。

「事故物件=心霊現象」という図式を信じる人がそれだけ多いのだろう。そのために「事故物件」は、「瑕疵物件(瑕疵とは傷のこと)」とされ、孤独死や自殺があったことなどを告知する義務があり、また通常よりも格安の金額で賃貸、または売買される。

それほど「事故物件」は、忌み嫌われるものなのだ。そこで、「お祓い(おはらい)」の必要性が出てくるわけだ。

屍体の痕跡が残る現場へ

住人は40代の男性。6月に発見され、死後2ヶ月が経過していたという。

発見されたきっかけは、近隣の住人による「異臭がする」という通報からだった。この部屋は分譲マンションである。西新宿という立地からすると、かなりの高額の物件である。住人はそれなりの凄腕のビジネスマンだったに違いない。おそらくこの場所は職場にも近いのかもしれない。

死因は明らかにされていないが、長くうつ病を患っていたらしい。

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遺体が発見された現場は、フローリングがめくられていた。床下にも体液が滲み出た痕跡がある

分譲マンションを相続したのは、男性の母親だった。しかし、彼女は施設に入居しているために、この物件を手放したという。購入したのは、事故物件を扱うポータルサイトとして知名度のある「成仏不動産」を運営する株式会社NIKKEI MARKS(横浜市)だった。

亡くなった場所は、南側に面したリビングルームだった。特殊清掃は、すでに終了している。遺品も全て処分され、壁紙も剥がされていた。リビングの半分のフローリングが剥がされ、床下が剥き出しになっている。よく見ると、まだ染みが残っている。おそらく故人の体液が染み出していたのだろうと想像がつく。

あの座間市の事件でもお祓いを

お祓いを行うのは、神奈川県相模原市にある照天神社の宮司、金子雄貴さんである。実は金子宮司は、現在公判中の「座間市9遺体殺人事件」の現場アパートのお祓いを行なった宮司さんだった。

金子宮司は、白装束姿で亡くなったといわれる場所に黙々と祭壇を組み立てていく。
この祭壇は特別に作られたものだと金子宮司が教えてくれた。

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祭壇を前にした金子宮司。15年前から「事故物件」のお祓いを手掛けている

「このような事故物件でのお祓いでは、狭い場所が多いのです。だからコンパクトなサイズの祭壇を私が図面を書いて職人に作ってもらいました。最初は何も知らないで普通の祭壇を持ってきたのですが、匂いが染み付いてしまって全て捨てることになりました」

祭壇には神木が飾られ、米と塩、お酒、水、そして野菜や果物が並べられた。祭壇が出来上がると、こちらも自然と姿勢が正される。

金子宮司が正装になる。頭には烏帽子、えんじ色の狩衣をまとい、差袴(さしこ)と呼ばれる袴を履き、足元は木製の浅沓(あさぐつ)、そして手には笏(しゃく)、まさに宮司の正装である。

夕方の4時半。お祓いが始まった。

「畏み畏み申す……払い給え、浄め給え、払い給え、浄め給え……」

そして祝詞を読み上げる。時折金子宮司が打つ柏手の乾いた高い音が狭い部屋に響く。30分ほどで神事は終わった。何だか、始まる前と部屋の空気が変わったような気がする。

15年前から「事故物件」のお祓いを

金子宮司は、宮司になってもう40年になる。こうした事故物件のお祓いを始めたのは15年前だった。

「たまたま、他の神社で断られてと言う話があったんです。それが事故物件だったんですね。ひどい現場でした。ワンルームマンションで、孤独死でした。警察が死体を運び出して数時間ぐらいで、死体は腐敗していたらしく、床は体液でびしょびしょでした」

15年前となるとまだ「特殊清掃(死体から出る体液などで汚れた床、ハエなどを処理し、また異臭もなくす清掃技術のこと)」もなかった時代である。大家、不動産屋にしても掃除の業者にしても、どうしていいかわからない状態だった。

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ワンルームでも設置できるサイズにした祭壇

「清掃する方も、自分たちが入る前にお祓いしてもらいたいとおっしゃるんですよ。その方が気持ちよくできると言うんですね」

金子宮司がお祓いをしているのを、関係者はじっと外から見守る。

「それでお祓いが終わると、『よし終わったぞ!』と掛け声が聞こえて、一斉に清掃の人が入っていきました」

当時は、そんな事故物件の現場でお祓いをする宮司などいなかったのだ。金子宮司は言う。

「そうか。誰もやりたがらないのか。だったら率先してやらなければと思った。私たち神職という立場で時代の要望に応えることをやるべきだと、役に立とうと思ったんですね。それが最初のきっかけでした」

それから今回のNIKKEI MARKSをはじめ、多くの不動産会社と付き合いができ、ここ2〜3年は「事故物件のお祓い」はすごい数だと言う。

「週に1、2回は依頼がありますね。主に関東近郊ですが、おそらく『事故物件のお祓い』を率先して手掛けているのは日本でも私くらいではないかと思います」

他の神社では、ホームページに赤い大きな文字で「当神社では、自殺・孤独死物件のお祓いは一切致しません」と書いてあるところもあるらしい。

前住人の「気」と「御霊」を払い去る

金子宮司は、どんな思いでお祓いに臨むのだろうか。

「私は現代の人の感覚に合致する考え方でお祓いをします。ここに住んでいて亡くなった方の『気』というもの、そして『御霊』、これが残ってるかもしれない。そこで私が『大変だったね。お疲れ様でした』『苦しんで亡くなったんだから、しかるべきところに行ってください』と伝え、『気』をすべて払い去って、新しい人に気持ちよく住んでいただく、というのが私の使命だと思っています」

しかし、お祓いと言う行為は受け取る人によって様々である。

「来てくれた、祓ってくれたんですね、ありがとうございます、と言ってくれるところもあれば、持ち主の大家さんなんかが『そんな格好でうろうろされると資産価値が下がる!』なんて怒鳴られることもある。入り口で同じ建物に住んでいる人に、嫌な顔で睨まれることもあるし、もういろいろです」

これまでで一番キツかったのはどんな現場だったのか。

「一番は、お風呂で入浴中に亡くなったケースです。この場合、髪の毛、爪、肌、肉などが溶けてしまって、匂いもひどい。そこでお祓いをしたこともあります。部屋の中で腐敗したものとは比べものにならない匂いなんですね…。もう、鼻の穴に棒を突っ込まれるような匂いなのです」

ここ数年の特徴はあるのだろうか。

「流れというのは、とにかく件数が増えてきたこと。本当に孤独死と自殺が多いことですね。特に若い人が多いなという印象があります。会社の寮などもすごく多い。現場に行くと、亡くなった方は優秀な方だったんだな、と思われる残留物を見ることも多々あります。

私のところは男性が圧倒的に多いですね。女性の孤独死は、年間に1件あるかないか。孤独死はほとんど男の人なんですよ」

安くなるんだったら構わないという声

この物件は、今後フルリフォームが施されて中古物件として売りに出される。現場に立ち会ったNIKKEI MARKS代表の花原浩二さんはこう話す。

「このあたりのワンルームの相場だと、通常のリフォーム物件で3000万円台前半くらい、事故物件だと2000万円台前半です。今回このお部屋はすべていったんスケルトン(骨組みのみ)の状態にして、グレードの高いリフォームをします。そのため、売り出し価格を2000万円台後半で予定しています」

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今回孤独死のあった一室の浴槽。長く使われてきた痕跡が生々しい

NIKKEI MARKSでは、事故物件を扱う場合の2つのルールがあると言う。

「それが特殊清掃とお祓いなんです。これを終了した証として『成仏認定証』というものを発行しています」

現在、「事故物件」にこだわらないドライな若者も増えているらしい。

「安くなるんだったら、全然構わないという人も結構います。それでも『お祓いはやって欲しい』と言われますね」と花原さん。特に宗教心はなくても、そういう心理はあるらしい。神様は信じなくても初詣には行くような感覚だろうか。

不可思議な心霊現象も体験

最後に金子宮司にちょっと変わった質問をぶつけてみた。宮司はこれまでの現場で不思議な現象に遭遇したことはあるのだろうか?

「ああ、ありましたね。小さい一軒家の貸家で、住人は2階の掘り炬燵で亡くなっていたらしいんですね。でも、2階の現場は汚れていて、とても上がれない状態だった。

そこで、1階に祭壇を作ってお祓いをしていたんです。すると、お祓いの最中に2階からドンドンドンと階段を降りてくる足音がするんですよ。姿はないけど、足音がはっきり聞こえる。そして、私の目の前まで来るんです、足音が」

それは怖い。

「もう一つは、キリスト教を信仰されていた方が亡くなった現場でした。家具や荷物はすっかり運び出されてがらんどうだった。不動産屋さんも来ていて、そこで私が祝詞をあげていたら、突然、大音響でパイプオルガンの音が鳴り響いたんです。ガーーーーーーーーッと。

不動産屋さんが『誰か携帯鳴ってるぞ、消せよ!』と叫ぶんだけど、誰の携帯でもないんですね。どういうことかよくわかんないんだけど、あれはよく覚えてますよ」

どちらのケースもお祓いが済んだら、すっきりと治まったらしい。

年間3万人が孤独死で亡くなっている現代——。今後も、金子宮司の忙しさは続くのだろう。どうか「御霊」たちも迷うことなく天に召されて欲しいものである。

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