ディオール、オートクチュールの魔法に出逢う。

ディオール、オートクチュールの魔法に出逢う。

  • フィガロジャポン
  • 更新日:2022/08/06

オートクチュール、それは最高の職人技を結集したユニークピース。その名称を得るには幾つもの規定があり、最高峰のメゾンだけが名乗ることを許される。ディオールの歴史的アドレス、モンテーニュ30番地に、オートクチュールのアトリエを訪ねた。

アイコニックな「バー」ジャケットから、マリア・グラツィア・キウリらしいプリーツやドレープのイヴニングドレスまで。ディテールの手仕事もさることながら、オートクチュール、その独自のスタイルを際立たせるのは、カッティングとシルエットだ。デザイン画から服の構造を作り上げ、針と糸の痕跡を残すことなく、すべての素材と装飾ディテールをひとつにまとめあげるのは、メゾン直属のオートクチュールアトリエである。

オートクチュールは、誰もが名乗れるわけではない。年に2回、25ルック以上のコレクションを発表し、パリで手作業で製作することなど、幾つもの条件を満たさなければならない。タイユールとフルーのふたつのアトリエを持つことも、その規定のひとつ。ふたつのアトリエは、扱う素材も技術もまったく異なる。タイユールはウールやカシミアなどの重めの素材を扱い、ジャケットやパンツなどの構築的なアイテムを手がける。フルーはチュールやオーガンジーなどの薄手の布を扱い、主にドレスを製作する。各アトリエにはプルミエ(ール)ダトリエと呼ばれる責任者がいて、パターンを引くモデリストとお針子たちを束ねている。ここで作られるのは、コレクションで発表されるルックと顧客のオーダー。コレクションルックやそれをベースにしたデザインの注文と、ウェディングなどのスペシャルオーダーである。

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クリスチャン・ディオールが1947年に発表した、「バー」ジャケットは、ニュールックを象徴するアイコニックなアイテム。最近オートクチュールへの注文が増えているという。構築的なシルエットのジャケットを手がけるのは、タイユールのアトリエだ。

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ジャケットの打ち合わせを上品に演出するくるみボタン。オリジナルデザインと同様、共布でひとつひとつ手作りされる。

オートクチュールのアトリエがあるのは、ディオール発祥の地、30モンテーニュ。ふたつのアトリエは、歴史的アドレスのリノベーション終了とともに、我が家に帰ってきた。

アトリエに向かう廊下には、顧客のサイズに合わせて補正されたボディがずらりと並ぶ。顧客との面談で採寸が行われ、最初に作られるのが、顧客サイズのボディだ。これを土台にして、まずトワルが組まれる。白い布地で服の構造だけを作ったトワルで、1回目のフィッティングが行われる。そこから型紙が作成され、刺繍や羽根などの装飾があれば、サイズに合わせて外部の専門アトリエに発注される。装飾も含めた実際の素材を縫い合わせて2度目のフィッティング。必要なら3度目のフィッティングが行われることもある。その間、3〜5カ月。時には800時間もの作業を経て、顧客のためのユニークピースが出来上がる。

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顧客のサイズに合わせて引いたパターンを、布地に配置。

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キャンバス地で、トワルと呼ばれるシンプルな服の形を組む。顧客サイズの腕を付けたボディを使って立体的に組んだトワルで、1回目のフィッティング。微細なサイズ調整が行われる。

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フィッティングをもとに調整したパターンで布地を裁断。

フルーのアトリエに入ると、天井から白い布に包まれたドレスが幾つも吊り下がっているのが見える。通路の左右に並ぶ作業台では、白衣のお針子たちが静かに作業を進めている。ボディに布をピン打ちしながら、グラデーションの色合わせとトレーンのバランスを吟味する人。専門アトリエから仕上がってきた刺繍を布地に縫いつける人。目に見えないほどの細かい針目でチュールを縫い縮め、ボディに沿ってドレープを固定している人もいる。マリア・グラツィア・キウリらしい細かなプリーツとドレープのテクニックは、ベテラン職人でなくてはできない高度な技術だという。

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いよいよ縫製へ。幾筋にも刺された白い仕付け糸は、パターンに記されたたくさんの印を布地に写し取ったもの。実際の布地を仕付け糸で仮縫いした状態で再びフィッティング。

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「バー」ジャケットの完成。細く締まったウエストからふっくらと膨らむ腰回りのシルエットが美しい。

タイユールのアトリエでは、服の内側に縫い代が見えないリバーシブルクチュールが行われていた。カシミアのような厚めの生地を2枚に剝がすことから始まる気の遠くなるような作業は、裏地のいらない軽やかなアイテムを約束する。最近人気で、注文数が増えているという「バー」ジャケットも、アトリエの隅でスカートの仕上がりを待っていた。ムッシュディオールの頃から変わらない、共布のボタン。ペプラムの裏に秘められた小さなクッションが、細いウエストを強調する腰回りのふっくらシルエットを形作る。表には見えないけれど、着る人だけが感じることのできる軽さ、なめらかさ。袖ぐりやデコルテのミリ単位の調整が生むフィット感。チュールに寄せるドレープやギャザーの量の按配が、着る人にもたらす安心感。靴に合わせてドレスの裾丈が決められ、身に着けるジュエリーによって、デコルテが微妙に調整される。お針子たちの針加減が、世界でたった一着、自分だけのルックを纏う幸せを最高のものにする。オートクチュールの真髄が、そこにある。

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2022年春夏のオートクチュールコレクションを製作中のタイユールのアトリエ。

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フルーのアトリエにて。ドレスのベースとなるビュスチエに、ビーズ刺繍をピン打ちしてバランスをチェック。

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2種類の素材違いのチュールが生む微妙な陰影のバランスを調整中。

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ドレープやプリーツはボディの上で立体的にバランスをとる。

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マリア・グラツィア・キウリらしい、繊細なプリーツのチュールドレス。ウエスト部分に手で細かなプリーツを寄せ、固定していくテクニックにため息。

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身頃と襟に刺繍が施されたノースリーブトップを手縫いで丁寧に仕上げていく。

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パリの刺繍アトリエ、ヴェルモンによる、建築的なラインを表現した立体的な刺繍が見事なジャケット。

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糸を引く右手の中指に、パリのクチュリエを象徴する指ぬきが光る。写真上のジャケットの刺繍のクローズアップ。身頃や袖のパターンに合わせて、アトリエ・ヴェルモンで仕上げられた刺繍は、タイユールのアトリエの職人の手で縫い上げられる。

*「フィガロジャポン」2022年7月号より抜粋

photography: ©Sophie Carre, Pol Baril  editing: Masae Takata (Paris Office)

フィガロジャポン編集部

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