【キャンプ展望:西武】「一番のキーマンは僕なんかな」――西武・松井稼頭央新監督が目指す「野球の原点」<SLUGGER>

【キャンプ展望:西武】「一番のキーマンは僕なんかな」――西武・松井稼頭央新監督が目指す「野球の原点」<SLUGGER>

  • THE DIGEST
  • 更新日:2023/01/25
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5年間の下積み経験こそが、新指揮官の最大の強みと言えるだろう。

今季から西武の指揮を執る松井稼頭央監督は、2018年に西武へ15年ぶりに復帰。選手と同時にテクニカルコーチを兼任して、指導者人生をスタートさせた。

ロッカーはコーチ陣の一角に用意され、コーチミーティングにも参加。首脳陣としての流れを学んだ。同年限りで現役を引退すると、翌年から3シーズンにわたって二軍監督を務め、昨年は一軍ヘッドコーチとして辻発彦前監督を支えたのだった。

指揮を執る今季のチームは、現役時代にチームメイトとしてともに戦った栗山巧、中村剛也が最年長者として支え、源田壮亮、外崎修汰、山川穂高らが主力として牽引する。彼らと選手同士として、互いの考えを語り合った時間を共有していることは、信頼関係を築く上でかけがえのない財産だ。
新指揮官はすでに「源田(遊撃)、山川(一塁)、外崎(二塁)以外は白紙状態」と公言している。確かに、FAでオリックスへ去った森友哉が担っていた正捕手を含め、ほとんどのポジションで確たるレギュラーはいない。逆に言えば、二軍監督時代に手塩にかけて育ててきた若獅子たちが、いよいよ花開く可能性を期待するということだ。松井チルドレンにとっては千載一遇の大チャンス。どのポジションに新監督のカラーが出るのか非常に楽しみだ。

松井新監督が目指すのは「足を使った積極的な野球。ピッチャーを中心に1点を守れる、1点を勝ち越せる野球」だ。

「うちは山川という軸がいて、その中でしっかりと足を使いながら、どう1点を取るか。もちろん、打って勝てればベストですが、これだけピッチャー全体のレベルが上がってくると、なかなか簡単に点も取れない。その上で、どう1点を守るかというところがより大事になってくると思います。1対0でもいいし、8対7でもいい。この“1点”を勝ちきる、守りきるというのが、本当に強いチームだと思う。そこを目指したい」
優勝した18~19年は、12球団一を誇る圧倒的な強力打線で得点を量産。その容赦のないオフェンスは、“山賊打線”と称されたほどだ。しかし、近年は得点力が急激に低下してしまった。毎年選手の状態も変われば、所属選手の入れ替わりもある中で、「成功3割弱」の打撃に頼る戦い方は現実的ではない。

この点は、辻前監督も常に話していたことだ。このため西武は、21年も22年も「いかに1点、2点を取って逃げきるか」を目指してきた。その意味では松井監督体制でも大きく方向転換することはない。ただ、“足”を使うことに関しては、これまでよりもかなりウエイトを置く考えだ。

実際、秋季キャンプでもベースランニングは毎日欠かさずメニューに入っており、陸上男子200メートル障害元アジア記録保持者の秋本真吾氏を特別講師を招いての「スプリント講習」も行われた。キャンプに参加した若手選手たちは、これまで以上に走ることの重要性を意識づけられたと口々に話していた。
「走ることは自分でコントロールできる。野球の原点。選手がグラウンドを駆け巡る、スピード感、躍動感のある走好守でファンの皆さんがワクワクするチームにしたい」と松井監督は語る。「このチームには走れる選手は非常に多い」と確信しているだけに、大いに期待したいところだ。

もう一つ、別の角度から注目してみたいのが練習方法だ。今季は松井監督を含め、日本ハムの新庄剛志監督、ロッテの吉井理人監督、楽天の石井一久監督と、パ・リーグ6球団のうち4球団の監督が元メジャーリーガー。まさに「新時代の到来」と言っても過言ではないだろう。松井監督は「日本のいいところも取り入れながらやっていきたい」と言いつつも「新しいこともどんどん取り入れていきたい」と、メジャーで学んだことをチームに還元することに意欲を示している。

その一例として、新指揮官は昨季のヤクルト戦での出来事を挙げた。

「日曜日(デーゲーム)で、ヤクルトの練習が自主練習だったんですよ。改めて『すごいな』と。体調によっては、もしかしたら練習をやらない選手がいるのかもしれない。自分が何をやればベストな状態で試合に入っていけるか、当然、選手に考えさせながらということなんだと思う。それって、非常にすごいなと思いました。機会があれば、そういうことも取り入れていきたい」
また、秋季キャンプでは、カメラを搭載したドローンを使って打撃練習を上空から撮影し、選手の打撃フォームの動作解析を試した。先端技術にもしっかりとアンテナを張り、積極的に取り入れる姿勢は、新しい時代への変化を強く感じさせる。

だが、こうした変化を一方的に押し付けるつもりは一切ない。すべて「選手に聞きながら」が大前提だ。

「僕たちが良いと思っていても、選手が別なことを取り入れてみたいと言うのであれば、そっちを取り入れることもあるでしょうし。とにかく一番は、どうすれば試合で選手がベストのパフォーマンスを出せるか。そのためには何をするか。その逆算を考えてもらいながら、ともにやっていきたいと思う」

監督就任にあたり、松井監督は「コミュニケーションを最も大切にしたい」と強調している。選手、コーチ、スタッフとしっかりと意思疎通を図りながら、選手各々がその日のベストな状態で試合に臨めるよう、最大のサポートを惜しまないと誓う。

「一番のキーマンは僕なんかなと思いますけどね」と、新指揮官として自覚と責任は十分の松井監督。一般的に「二軍は育成。一軍は勝利」が最優先課題とされ、その両立は難しいとされているが、二軍監督時代に見てきた選手も多いだけに、やはりどちらも目指したい気持ちが大きい。
すでに一軍で活躍している選手も含め、投手も野手も、「技術の向上など、何かに取り組んで個の力を伸ばすには、1ヵ月、2ヵ月では短いと思う。半年、一年としっかりと地道に積み重ねていくことで、秋に大きなものになってくると思う。そこは、そういう期間としてしっかりと見ていきたいと思っています」。

その思いの根底には、自らの現役時代、プロ入り間もない頃の恩がある。PL学園では投手だったが、西武から野手としてドラフト指名され、入団と同時に内野手へ転向した。2年目の春季キャンプからはスウィッチヒッターにも挑戦。守備も打撃もまだ未完成だったにもかかわらず、当時の東尾修監督は大成を信じ、2年目の途中からレギュラーとして起用し続けてくれた。

「東尾監督でなければ今の自分はないと思います。いろんなコーチからの(反対)意見もあったと思うのですが、東尾監督が『こいつを』と思っていただいた。僕はもう、『何とか監督のために』という一心だけでやっていた。自分もそういう強い信念を持ってやっていきたい」

選手に「監督のために」と思われる。それこそが監督として最高の理想だろう。そして、これまで積み上げてきた選手としての輝かしい実績、指導者としての姿勢、そしてその人間性から、すでに多くの選手、コーチ、球団関係者が「稼頭央さんのために」「稼頭央さんを“漢”にしたい」「稼頭央さんを胴上げしたい」と意気込んでいる。そう思わせる魅力があるのもまた、松井稼頭央なのだ。

監督が決して簡単なポジションではないことは重々承知している。だが、現役時代「記者泣かせ」と言われたというほど誰よりも遅くまで練習し、トリプルスリーを達成、メジャーリーガーの夢を叶えた男である。どんな苦境からも決して逃げず、立ち向かい、乗り越え、必ずや目指す頂を極めるに違いない。

文●上岡真里江(フリーライター)

【著者プロフィール】
かみおかまりえ。大阪生まれ。東京育ち。スポーツ紙データ収集アルバイト、雑誌編集アシスタント経験後、横浜Fマリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からは、プロ野球・西武ライオンズでも取材。球団発刊『Lions magazine』、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)などで執筆・連載中。

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