英文567ページの報告書を“執念の翻訳” 息子を失った父が「とりつかれた」7年 『9/11レポート』

英文567ページの報告書を“執念の翻訳” 息子を失った父が「とりつかれた」7年 『9/11レポート』

  • ABEMA TIMES
  • 更新日:2021/09/15
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アメリカ同時多発テロの発生から20年経った2021年9月、書店に1冊の本が並べられた。『9/11レポート』、アメリカの独立調査委員会の報告書だ。

【映像】“執念の翻訳” 911で息子失った父の想い

翻訳にあたったのは、住山一貞(すみやま・かずさだ)さん、84歳。「やっと思いがかなったというか。ずーっとこれは気になってきて。本当に10年以上気になって」。この本を出版することは、息子を想う父が挑んだ20年間の“テロとの闘い”だった。

■息子が犠牲に、アメリカの調査報告書を「とりつかれたように」翻訳

住山さんの長男・杉山陽一(すぎやま・よういち)さんは当時、ニューヨークの世界貿易センタービルで銀行員として働いていた。住山さんは、2001年7月に夫婦で陽一さんを訪ねた時のことを、「あの時が、今思うと私の人生で一番幸せな時だった」と振り返る。

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国際テロ組織「アルカイダ」は、アメリカで4機の旅客機をハイジャックし、うち2機が世界貿易センタービルに突っ込んだ。陽一さんはこの事件で命を落とした。翌年、遺骨の一部は発見されたものの、大部分が「EVAPORATED(=蒸発した)」と検視官に告げられた。

ニューヨークの街の空気に漂う息子に会いたいと、住山さんは毎年、追悼式典に出席した。3回目の式典に出席した時のこと、帰りの空港で偶然見つけたのが、アメリカの調査報告書。もちろん中身は全て英語だ。

「ちょっと読めないかもしれないけど、念のためと1冊買ったんです。自分で言うのも変ですけど、『とりつかれた』という感じで(翻訳を)やっていました」

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テロの真相を知りたい。それを日本の多くの人にも知ってもらいたい。これまで英語とは無縁だった住山さん。567ページに及ぶ報告書の翻訳を、7年かけて自力で完成させた。

「2001年9月11日、ほとんど雲もない穏やかな夜明けを迎えた。何百万人の男女が働く準備をしていた」(『9/11レポート』より)

物語のような書き出し。何が起きたのか、どうして起きたのか、どうすれば防げたのか。そして今後、アメリカは何をしていけばよいのか。事件を多角的な視点でとらえた内容が平易な言葉で語られている。

■「息子に『ここ訳が違うよ』とか言われるんじゃないかとハラハラ」

テロ事件直後、アフガニスタンのタリバン政権が、アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディンをかくまっているとして、アメリカは軍事作戦を開始した。その後、アメリカ軍はアフガニスタンの安定を目指して駐留を続けてきたが、今年8月末に撤退。同時にタリバンが復権した。

報告書が提案していた「理想」と、アフガニスタンの「現実」。この20年を通じて、なぜ理想が現実とならなかったのか。住山さんは、若い人たちにも本を読んで考えてもらいたいと話す。

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「(この20年は)人生の4分の1、自分にとっても重い期間だったと感じています。つらいと言えばつらいけど、生きがいみたいなものを与えられたので。息子のせいだと思うけど、感謝しないといけないなと。(息子に)『ここ訳が違うよ』とか言われるんじゃないかと思ってハラハラして(笑)」

住山さんは第2弾として、年内にも報告書の解説を出版することを目指している。

■翻訳中は作業に没頭も、胸にこたえた当時のビルの危機管理対応

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テロの発生当時、ニューヨーク支局で記者を務めていた、住山さんと20年近くの交友があるテレビ朝日社会部の野間万友美デスクは、7年をかけた住山さんの思いについて次のように話す。

「この7年の間、食事と睡眠の時間を除いてほぼすべて時間を翻訳に当ててきたとお話しされていた。(本には)事故のすべてが書いてあるので、私も読んでいておつらいんじゃないかと思っていたが、うかがってみると、案外作業中は息子さんのことを思い出すことはなかったと。ただ、1カ所だけ、本の第9章にある世界貿易センタービル内の、当時の危機管理対応について書かれている部分。飛行機が突っ込んできた後に、上のフロアから階段でロビーまで下りてきたにも関わらず、そのビルの職員から元の場所に戻るように指示を受けて、戻った方たちもいたという。それで命を落とした方もいるということで、そこだけは住山さんも翻訳していて胸にこたえるところがあったとお話しされていた」

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この本を出版するに当たり、友人やパイロット、アメリカに滞在経験の長い人のアドバイスを聞いて翻訳し、クラウドファンディングで資金を募った住山さん。年内に解説本の出版も目指しているということだが、どのようなものになるのか。

「この本を読んでいるうちに、日本人の視点というものを書いてみたいという思いが強くなったという。この911だけではなく、世界各地で起きている、日本人が巻き込まれたようなテロ事件のご家族・ご遺族とも連絡を取ったりして、日本人の考え方というのも解説本には書き記したいということだ」

(ABEMANEWSより)

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