【小説】なぜ俺が?「呪い」がかけられてると言われた青年は...

【小説】なぜ俺が?「呪い」がかけられてると言われた青年は...

  • 幻冬舎ゴールドライフオンライン
  • 更新日:2022/01/15
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五月

話というのは、簡単に言うと俺には「呪い」がかけられている、というものだった。

「うーん、信じられない。それに俺今なんともないよ。一体どんな呪いだ?」

相手の方が年下っぽいし敬語はやめた。いきなり暴力を振るわれることもなさそうだし。

「誰かにかけられた呪いだな。今は何ともなくても、そのうち心身を蝕むようになるぞ」

「具体的にどんな症状になるんだ?」

「それもまだ分からない」

「じゃあ、ちょっと質問変えるよ。その呪いにはいつ頃かかったか分かるか?」

「まだ何も症状がないところをみると、割と最近だろう。特定はできないが、数ヶ月から一年以内じゃないかと思う」

作り事にしてはポンポンと答えが返ってくるので、だんだん面白くなってきた。

「なあ、呪いの話が本当だとして、なんでまったくの他人の俺に、そんなことを教えてくれるんだ?」

「あんたを助けたいからだ」

「なぜだ?」

「俺が助けられると思ったからだ」

下心なく他人を助けたい人間がいるもんか。そう思うのは、俺がひねくれているからだろうか。彼はかまわず続ける。

「あんたの呪いを解くには、まず呪いの正体を突き止めなくてはならない。正体が分からないと、解く方法も分からない。どこかで呪いをもらった覚えはないか。あるいは誰かに強い恨みを抱かれたとか」

俺はここ一年を思い返してみた。恨みとまではいかなくても、妬まれることはあるだろう。象徴的なのがやはり就活だ。俺より早くから、俺よりも力を入れてやったのに、決まらなかったやつもいる。それにしても、自分だけが特別恨まれる理由になるとは思えない。あと可能性としては俺の会社自体に恨みを持つ人たちとか。それはいるかも知れない。いるかも知れないが、だとしてもペーペーの俺がターゲットになるとも思えない。

考えた通りに彼に伝えた。

「人ではないかも知れないな。人外の類にたまたま遭遇して呪いをかけられたのかも知れない」

「ジンガイ?」

「人間ではない、あんたたちにとっては超自然的な存在のことだ」

なかなか難しい漢字を知っているな。少し感心した。でもそんなのますます身に覚えがない。そう言おうとして、ふと蘇ったのは、去年、出雲大社で蛇と目があった時に感じた恐怖。

「それが関連していそうだな。蛇は出雲大社の御祭神の使いで、しかも霊力を持ちやすい生物だ。まして大社に住んでいる蛇ならば出雲族の神々と縁が深いのかも知れない」

出雲族。そう言えば、一緒に行った友人がそんなこと言っていたような……。

「力を持った神の眷属が、人前に姿を現す時は吉事か凶事をもたらすことがある。今回は後者だろう」

「でもよりによって、なぜ俺が?」

どうやらいくつかの条件が重なったようだ。その時精神的に弱っていたこと、神社で不適切な態度を取ったこと、俺が蛇に恐怖を抱いたからつけ込まれたこと……。

「蛇は生命力の象徴だ。心が弱っている人間はやられやすい。加えて、彼らのテリトリーで不遜な振る舞いをした様子を目撃されていた」

運が悪いなと思う一方、仕方ないとも思えた。これまで自分も家族も大きな災難に遭うことなく過ごしてこれた。ここ数年の間でも、世界的な金融危機や大震災といった不幸に巻き込まれた人がたくさんいるはずなのに、俺は直接的な被害は一切受けずにここまで二十三年生きてこられた。時々思う。もしかしたら、誰かが自分の代わりに不幸を引き受けてくれたから、自分が安定した生活を送れているんじゃないかと。そのことに感謝こそすれ、「ついてない」などと神社で言えば罰があたってもおかしくはないのかも。

そこまで考えると「呪い」が、にわかに真実味を帯び始めた。青年はそんな俺の表情を見て心中を察したのか、

「原因が分かれば対処できる。心配するな」

その声は落ち着いていて、頼もしく感じられた。が、次に、彼は沈痛な表情になった。

「俺の頼みを聞いてもらえないか」

真剣な表情で発せられた「頼み」という言葉に思わず身構える。「頼み」や「相談」というものは、真剣なものであればあるほど、なんとかしてあげることが難しいと経験上知っている。でも反面、納得もいったし、少し安心もした。どんなに良いやつだろうと、無条件で見返りも求めず人のために動けるなんてやっぱり信じられない。そんなことしてくれるのは家族くらいだろう。だから冗談めかして言ってやった。

「等価交換ってやつだな」

彼は怪訝な顔をした。俺の言っていることが分からない様子だった。構わず続ける。

「それで、どんなことだ?」

「人助けだ。詳しいことは、今度会った時話す」

そう言って立ち去ろうとする彼を呼び止めた。

「あ、待って」

「なんだ?」

「名前は?」

そう口にして、ふいに懐かしくなった。新しい友達をつくる時の感覚。なぜ、最近はそういうことがないのだろう。新しい人には出会っているはずなのに。

「俺は桃太郎。桃って呼ばれている」

感傷は消し飛んだ。桃太郎? これは色々な意味で突っ込んだ方がいいのだろうか? 一瞬考えたが、結局俺も名乗るだけにした。

「怜です。りっしんべんに命令の令でレイ。友達はよくカタカナで俺の名前書くけど」

「良い名前だな」

単純に嬉しかった。実は俺も自分の名前を結構気に入っている。自分で言うのもなんだけど漢字で書いてもカタカナで書いても様になると思っている。名付けてくれた親に感謝だ。

帰り道、スマホで「シコクケン」を検索してみたら、俺の予想に反して実在する犬種だった。彼の話が本当のことなのか作り話なのかを断定するのは、保留にした。

水無月 薫

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