メルケル首相の「恐怖の予言」でドイツの観光産業が大混乱中

メルケル首相の「恐怖の予言」でドイツの観光産業が大混乱中

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/16
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観光産業の悲劇

ドイツは今、ちょうど学校が秋休みの時期で(秋休みの時期は州によって違うため、すでに休みに入っている州と、これから入る州がある)、多くの家族連れが秋の旅行に出ようとしていた。

ところが、最近、コロナ検査で陽性者の数がどんどん増えてきたため、10月7日、いくつかの州政府は、危険地域から来た人に対して、自州でのホテル宿泊を禁止すると発表した。

ドイツでは、10万人あたりの1週間の新規陽性者数が50人を超えた地域を「危険地域」と指定している。危険地域に住んでいる人で、もし、どうしてもホテルに泊まりたければ、チェックイン前の48時間以内のコロナ検査の陰性の証明を提示しなければならないという。

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〔PHOTO〕Gettyimages

しかし、突然、そんなことを言われても、皆、困る。48時間ということは、検査は出発日の前々日では不安。しかし、今、検査場はどこも長蛇の列だ。はたしてタイムリーな検査が可能なのか? また、たとえ当日に検査を終えて出発しても、オンラインで送られてきた結果が、万が一陽性ならUターン? あるいは、結果がなかなか送られてこなければ?

さらにまずいことに、いくつかの州がこの規則に大反発し、足並みを揃えなかったため、事態はますます混乱した。危険地域は明日にも変わる可能性がある上、どの州なら泊まれて、どの州ならダメなのかがよくわからなくなってしまったのだ。

一方、ホテル側にとっても急なことで、証明書のない人を宿泊させたことがバレると多額の罰金が科せられるということ以外、詳細は分かっておらず、「私は泊まれますか?」とか、「キャンセル料は?」との問い合わせにも的確に対応できなかったという。当然、多くの人々はトラブルを嫌い、泣く泣く旅行をキャンセルした。

こうなると、一番気の毒なのはホテルだ。観光産業は、春のイースターの掻き入れ時にロックダウンで壊滅状態となったが、夏のあいだにあらゆる防疫措置に投資して頑張ったおかげで少し回復。ようやく秋から本格的に復活と思っていた矢先だったから、落胆は大きい。政治に梯子を外されたような気分ではないか。

日本の観光地がGoToキャンペーンで息を吹き返そうとしている間に、ドイツでは真逆の悲劇が起こっている。

あまり意味のない規則

では、ドイツのコロナ状況がそれほど深刻なのかというと、何とも言えない。

現在、1日あたり4000人前後の陽性者が出ているので数としては非常に多い。14日は6600人を超えた(ドイツの人口は8000万人)。ただ、陽性といっても、症状のない人、あるいは、非常に軽症の人がほとんどだという。なお、1週間の検査数は110万件超。

コロナ専用の集中治療用ベッドは1.2万床確保されているが、10月13日の時点で、使用されていたのが601床。そのうち人工呼吸器を使用している重症者が半分。死者の数は13日が13人で、翌14日が43人だった。

つい最近まで、死者はずっと一桁台だったので、確かに増えている。しかも、フランス、オランダ、スイス、デンマークなど、直接国境を接している国々で、再び急速に感染が広がっていることも、大きな不安材料だ。

さて、一方、宿泊禁止令をどうするかということについては収拾がつかなかった。ノートライン−ヴェストファレン州、チューリンゲン州、ベルリン市、ブレーメン市(ベルリンとブレーメンは特別自治市で、独自の議会を持ち、州と同じ扱い)は、自州での宿泊に制限はかけないと表明している。

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〔PHOTO〕Gettyimages

ドイツは連邦共和国なので、州政府の権限が大きく、たとえ首相官邸が全国に統一戦線を敷きたいと望んでも、州の首相がノーと言えばノーだ。とくにベルリン市長は、「あまりにも無意味な規則だ」と、反乱でも起こしそうな勢いだった。ベルリンは観光客の多い街なので、観光産業を壊滅させては元も子もない。

しかも、ベルリン市はブランデンブルク州の真ん中に島のように位置しており、ブランデンブルク州とベルリン市の間では、毎日、22万人もの人々が通勤、通学で行き来している。ところが、現在、ベルリン市は危険地域で、ブランデンブルク州は宿泊禁止令を敷くと言う。

これはつまり、東京都から毎日、横浜に通勤している人が、週末を箱根で過ごすのにコロナ検査をしなければならないというのに等しい。ブレーメン市とニーダーザクセン州も同じ関係。しかも、これまで国内旅行者がコロナを広めたという話は聞かないので、確かにあまり意味のない規則に思える。

メルケル首相の不吉な予言

こうして各州バラバラになってしまったコロナ対策を、どうにか統一させるべきだと思ったメルケル首相は、10月14日、全州首相に召集をかけた。これまでは州首相とはテレビ会議ばかりだったが、鶴の一声で、ベルリンに集合させた。名付けて「コロナ・サミット」。

14時に始まった会議は延々と続き、記者会見が行われたのは夜の10時過ぎ。メルケル首相他、ベルリン市長やバイエルン州首相などがひな壇に上がり、会議の結果を発表した。

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それによれば、これまでは10万人あたり週に50人の陽性者が出た地域が危険地域とされ、厳しい防疫対策の対象となったが、これからはそのラインを50人と35人の2段階に分ける。そして、まず、35人のラインを越えれば、屋外でも人混みではマスク着用といった措置。

そして、50人のラインを越えれば、レストランやバーは夜の11時までで締め、アルコールの販売も制限し、レストランや自宅での集まりも厳しい人数制限をかけるという、これまでも一部の州では実施されていた規制を、全国一律で適用することになった。

一方、注目されていた宿泊禁止令はというと、結局、物別れで進展なし。各州の采配に委ねられ、うち6州は断行する予定だが、おそらく他の州は、秋休みの間は見合わせるのではないか。

いずれにしても、この件をめぐって激しい攻防になったことは想像できる。メルケル首相は会見で、「今日の結果にはまだ満足していない」と不満を隠さなかった。しかし、ついこの前まで保健大臣が、この秋は外国に行かず、ドイツの国内で旅行するようにと勧めていたのだから、皆がついていけないのも無理はない。

それにしても、会見スピーチでの、メルケル首相の警鐘の鳴らし方は尋常ではなかった。事態の緊急性、深刻性、危険性をいやというほど強調しただけでなく、いま、気を引き締めないと「良い結末にはならない」とか、これは我々に「100年に一度の試練」だとか、聞いているうちに、だんだん奈落の一歩手前にいるかのような気になってくる。

そして最後には、「規則を守れ」、「旅行に出るな」と強硬なアピール。この同日、感染者の増加が止まらないフランスでは、いくつかの都市で夜の外出禁止に踏み切ったこともあり、緊迫感が募った。

バイエルン州首相も同じで、「今、我慢しなければ、あとでもっと酷い状況が訪れる」とか、「ベッドが余っているからといって安心してはいけない。介護人が不足しているから、医療破綻はすぐに起きる」とか、「春よりも今の方が条件は悪い。当時は夏が目の前にあったが、今は冬が到来する」とか、不安を煽ることばかり言うと思って聞いていたら、そのうち、3〜4月にイタリアで起こったトリアージ(誰を助けるか、助けないかの選別)にまで言及したので唖然。ちょっと怖がらせすぎだ。

このやり方は正しいのか

そう言えば、メルケル首相も前々から怖い予言ばかりしている。コロナ騒動が始まったばかりの3月、「いずれ国民の60〜70%が感染する可能性がある」という談話を発表したのは記憶に新しい。

当時は、まだドイツでの流行は始まっていなかったが、コロナがどんな病気であるかもわからず、しかも、イタリアで死者が急増していたため、皆の不安が頂点に達していた時期だった。そこへ持ってきて60〜70%と言われたのだから、皆、竦み上がり、どんなことがあっても政府の対策に従おうと心に誓ったものだった。

その後、6月、7月と、コロナは次第に収まっていったが、8月にはまた、秋と冬にコロナが蔓延するだろうと怖い予言をし、9月にも深刻な表情で、「今、我々は危険な賭けをすべきでない」と言った。すると、本当に予言通り、陽性者数が増え、ついに今回のコロナ・サミットだ。

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ただ、巷の雰囲気はかなり変わっており、皆が殊勝に規則を守っていた春のロックダウンの時とは違い、今では、怖いのでもっと規則を強めてほしいと言う人と、反発する人にはっきりと分かれてきた。だから、危険地域では警官を動員して、規則に従わない人を取り締まっている状態だ。

政府のコロナ対策を一手に仕切っているのが、ベルリンのロバート・コッホ研究所だ。1891年に設立された感染症専門の研究所で、北里柴三郎もここで業績を残した。現在は保健省の下部組織で、政府と強い協力体制にある。コロナはいまだに毎日トップニュースなので、同研究所の専門家がほぼ毎日テレビに登場し、状況説明もしてくれる。

しかし、わからないことも多い。先週、一度だけARD(公営第1テレビ)が、「新規感染数だけに注目するのはおかしい。死者と重症者の数も含めて状況を判断すべきだ」と主張する専門家を登場させており、それは明らかに、ロバート・コッホ研究所の意見とは異なると感じたが、それきりだ。

また、コロナは軽症でも恐ろしく、ひどい後遺症が残ることがあるというが、インフルエンザでも脳症や肺炎など重篤な疾患を引き起こすことはある。それとの比較はどうなのかも説明がない。

何の研究においても、全ての学者の意見が一つにまとまるはずはなく、特にコロナのように私たちの生活に直接関係する件については、素人も素人なりに、複数の見解を聞きたいものだ。

怖い話を聞いて気を引き締めるのは、皆、最初のうちだけで、いずれこのやり方は逆効果になるのではないかと思う。

追記)旅行者に朗報! 15日昼、バーデン−ヴュルテンベルク州の行政裁判所が、同州政府が採っている宿泊禁止措置は違法だとして撤回を求めていた人の訴えを認めた。

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